KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2009年05月28日

失敗が財産になる  堀場厚さん

堀場製作所とはどのような会社なのか。
一般コンシューマー向けの製品を作っている会社ではないので、「京都企業」「高業績」「創業者 堀場雅夫氏」といったイメージしかない方も多いかもしれません。私もそうでした。
そこでまずは、簡単にプロフィールを確認します。
売上高1,342億円 経常利益100億円 従業員5,146名 (いずれも2008年度実績)
排ガス測定システム、水質測定機器などニッチな事業領域で、多品種少量生産方式を貫き、堀場社長の言葉を借りれば「高級割烹と同じで、舌の肥えた常連さん相手の商売」で成功してきました。マーケットの複雑性に対応した高度な専門性が強みです。
日本、欧州、米国、アジアで事業を展開し、従業員の半数は外国人。特にフランス人社員の比率が20%に達するなどグローバルな人材マネジメントを行っています。
開発・販売に集中し、生産機能は800近くにのぼる協力会社に委託。そのうち中心となる80社程度で構成する「洛楽会」というパートナー組織があり、共同体的な信頼感で結ばれています。
日本人の強みが活かせる領域で、グローバル展開に成功し、従業員・ステークホルダーとの協働システムを重視して、高業績を続けている会社と言えるでしょう。


堀場製作所の発展を可能にした精神的な土壌として有名なのが、「おもしろ、おかしく」という社是です。
人生の最も活動的な時期を費やす仕事において、趣味に没頭して時間を忘れるようなエキサイティングな感覚を持ち続けよう、という主旨だそうです。
社是を作った創業者の堀場雅夫氏は、戦時中に京大在学中に会社を起こしたという学生ベンチャーのはしりのような方で、井深大氏や本田宗一郎氏にも相通ずるタイプなのかもしれません。
二世である厚社長も、「おもしろ、おかしく」の体現者であることは同様ですが、根っ子にある楽しみ方は、少し違うのではないかと思いました。
講演の中で紹介されたように、米国でのパイロット試験の逸話を「おもしろ、おかしく」の原体験として認識されているところをみると、内発的動機づけ理論でいうところの「自己効力感」「自己決定感」を「おもしろ、おかしく」の拠り所と考えているようです。
つまり、自分の力が発揮出来ているという実感、自分で考え、自分で決めたことへのコミット。それが持てた時に、人間ややりがいを感じ、仕事が楽しくなるはずだということです。
厚社長は、堀場社員のことを「ホリバリアン」と呼ぶそうですが、「ホリバリアンは、若いうちに失敗覚悟でチャレンジすべし」というメッセージを繰り返し発信しているそうです。
困難な状況に遭遇した時、自らの責任で考え、判断し、行動することの大切さを謳い上げ、それを許容する風土、称賛する仕組みを作ることに腐心してきました。
堀場の技術的な優位性、グローバル展開の成功、会社を越えた協働関係の構築は、こういった文化土壌の花開いたことは間違いありません。
また、講演の中では、シンプルで一貫性のあるメッセージを発信するという理想主義的な姿勢の一方で、現実の問題には柔軟に対応するというリアリストの側面も垣間見えたのは興味深いことでした。
控室で、衆目が集まるGMの破産法申請についてお聞きしたところ、GMからの製品発注は5月に入っても続いており、取引は続けているとのこと。リスク回避で距離を置こうとする部品メーカーも多いと聞いていましたが、冷静で合理的な判断に基づく継続だそうです。
恐らく、取引を継続しても、中止しても、いずれにしろ損失は出るでしょう。それならば、長期的にみて、どちらが我が社にとって意味があるか。それを見極めたうえでのリスクマネジメントとしての判断だと思われます。
新型インフルエンザに対する横並び型のリスク回避策に対しての疑問符にもあったように、大勢に乗っかるのではなく「自己決定感」を重視する経営姿勢の現れなのかもしれません。
最後に個人的な感想ですが、堀場製作所の社員は幸せだと思います。堀場社長は、トップとしての信頼感に満ち溢れた方でした。
世界のどこに行って、どんなVIPに会っても、物怖じせずに堂々と振る舞えるのではないかという育ちの良さ、度胸。
いざという時にも逃げずに、修羅場を引き受けてくれそうな安心感。
社長らしい、社長さん。そんな感じがしました。

メルマガ
登録

メルマガ
登録