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夕学レポート

2009年12月22日

感情移入できるロボットを作る 高橋智隆さん

10年程前、ヒューマノイド型ロボット ホンダのASIMOの登場は、ロボット新時代の到来として、大いに話題になった。
個人的には、ASIMOの歩き方を見て、「何か不自然だなぁ」といつも感じていた。膝を折り、忍者走りのような姿勢で歩くからだ。
その頃、まったく同じ違和感を抱いている青年が京都にいた。
立命館大を卒業後、改めて京大工学部に入り直したばかりの高橋智隆氏である。
幼い頃からモノ作りが好きで、凝り性でもあった高橋さんは、ASIMOの上をいく画期的なロボットを、自分一人で作ってしまう。膝を折って歩行する不自然さを解消する、電磁吸着2足歩行という新技術を開発したのだ。
全身を黒くに塗ったことから「クロイノ」と命名されたそのロボットは、数々の発明・アイデアコンテストに軒並み優勝し、話題となった。
折からブーム化の様相を呈していた大学発ベンチャーの波に乗り、大学の薦めもあって、特許出願、ロボットベンチャー起業へと、トントン拍子に道が開けていったという。
少年時代、「鉄腕アトム」に憧れていた高橋少年は、アトムそのものよりも、アトムを作る側に、強く惹かれた。
バス釣りのルアーを手作りするような感覚で、木型を削り、プラスチックカバーを作る。
モーターやネジも、自分のデザインイメージに合うものを手作りしたり、加工した。デザインや色彩にもこだわった。
そこには、量産、標準化という言葉は存在しない。
作りたいものを、作りたいように作る。 それが全ての原点である。


不思議なもので、「クロイノ」を見て面白がってくれた企業から、「こんなロボットは出来ないか」という注文が入るようになった。
映画化に合わせたプロモーションとして注文があった「鉄人28号」
パナソニックの新型電池のCM用に依頼があった「EVOLTA」
NHK教育テレビのキャラクターロボット「GABBY」等々。
ロボットの世界大会ロボカップ用に開発した「VISON」は、360度の全周囲を瞬時に見渡すことができる全方位センサを搭載。サッカー選手として非常に優秀で、圧倒的な強さで大会5連覇を果たした。
高橋さんの作るロボットには、アトムやガンダムの匂いがする。空想世界を具現化することへのこだわりが感じられる。
介護や災害援助など社会の問題を解決することを目指す、大上段に構えたロボット開発にはない特徴であろう。
かといって、オモチャではない。
高橋さんは、オモチャとロボットの違いについて、明確なポリシーを持っている。
「機能の優劣ではなく、感情移入できるかどうか」というものだ。だからヒューマノイドで、しかも小型であるべきだと考える。
このこだわりは、高橋さんが描く次世代ロボット社会のイメージに繋がっている。
介護や災害援助など、今の問題を解決するロボットを否定するものではないけれど、未来には、その時代のライフスタイルに溶け込んだ、一家に一台(人)の執事のようなロボットが家庭に存在するというイメージである。
人間と密にコミュニケーションできる、というよりも人間が話しかけたくなるような愛嬌のある小型ヒューマノイドロボットがいて、コミュニケーションを繰り返すことで、家族の好みや習慣を学習している。なんでも知っている執事ロボットである。
彼(ロボット)が、ネットーワークで繋がった家電をトータルに制御してくれるというものだ。
家電製品にコンピュータが組み込まれ、ネットーワークで結ばれる社会は、多くの家電メーカーが提唱してきたものだ。
例えば、i-Phonのような携帯コントロールパネルに聞けば、在庫の状況からお奨めの料理や買い物リストを教えてくれる、とされている。
だが、その前提として、コントローラーに在庫リストを入力しなければならない。
「そこに壁があるはずだ」と高橋さんは言う。電子手帳がいつまでも普及しないように、電子パネルにせっせと情報を入力する姿はイメージ出来ないというのだ。
i-Phonでは無理だろうが、自分が作るロボットなら出来るかもしれない。
そんな自信が高橋さんからは伝わってくる。その心意気やよし。
これを知るものは、これを好む者に如かず。これを好むものは、これを楽しむ者に如かず。 (「論語」雍也第六-二十)
ロボット社会を拓く人は、ロボット技術やマーケティングの専門家ではない、ロボットを作ることが大好きな人、更にはロボット作りが楽しくて仕方のない人、高橋智隆さんのような人に違いない。

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