KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2010年06月18日

電気自動車というイノベーション

SFCの清水浩という先生が、八輪駆動の、ユニークな形状の電気自動車を開発している、という話は、以前から知っていた。
夕学五十講にお呼びしようという話も何度か出たが、その頃はまだ、「夢を追う研究」という認識で、どうせ将来の夢なら、クルマというすでに存在するものではなく、もっと新奇性のあるものを、などと思い、お声掛けを遠慮したという経緯がある。
「この2年で劇的に変わった」
当の清水先生が言うように、電気自動車に対する社会の期待は、「夢のクルマ」から「現実のクルマ」へと変容した。おりしもこの日、三菱自動車が「i-MIEV」を200万円台の価格で発売予定という記事が新聞紙上を飾った。
清水先生は、「夢を追いかける研究者」から「クルマを変えるイノベーター」へ、その評価を変えつつある。


「経済発展の原動力は、野心に富んだ企業家によって起こされるイノベーションである」
シュンペーターは、イノベーションの定義をそう語っている。つい先日、agoraの竹中先生の講座で再確認したばかりである。
シュンペーターは、『経済発展の理論』の中で、イノベーションを担う存在を「企業家」と呼び、企業家に必要な能力として三つの特性を提示している。
・深い洞察力
・精神的自由
・挫折に耐え抜く意志
清水先生の30余年の電気自動車研究人生をお聞きすると、三つの特性の体現者であることがよくわかる。
「本当は5年位でものになるつもりだったのが、思いのほか時間がかかりまして...」
と自嘲気味に振り返るが、おそらくはアッという間の30年ではなかったろうか。
(詳細は、こちらのヒストリーをご覧いただきたい)
イノベーションは、簡単にいえば、「新しい組み合わせ」ということになる。
技術、素材、商品、市場、チャネル、組織、人材etc
経営を成り立たせるさまざまな要素に組み合わせを、これまでにない新しいセットで構成することである。
電気自動車をイノベーション的に読み解けば、
「リチウムイオン電池」という新技術を、自動車の駆動エネルギー源としたこと。
「ネオジウム鉄磁石」という新技術を、永久磁石モーターに利用したこと。
が、新規性のコアな部分となる。
「ガソリン」から「リチウムイオン電池」へ
「内燃エンジン」から「モーター」へ
技術の組み合わせを変えることで、従来とはまったく異なる原理で動くクルマが可能になった。
これに加えて、清水先生が独自に考案した技術や工夫が組み合わさった。
「インホイールモーター」は、モーターを車輪に挿入するという画期的な発想である。これによって、高率化、軽量化が実現し、有効空間は拡大した。
「コンポーネントビルトイン式フレーム」は、全ての装置を床下に集積するための工夫である。これによって、低重心化が可能になった。
その他にも、いくつもの革新的な技術が重層的に組み込まれて、「Eliica」というイノベーションは実現した。
昨年、清水先生が設立したSIM-DRIVE社は、もうひとつのイノベーションと言えるのではないだろうか。
この会社は、規模を拡大することや、金銭的なリターンを株主(福武總一郎ベネッセ会長)に還元することを目的にしていない。
自社の規模拡大ではなく、電気自動車に関わる開発技術を社会への成果移転をすること
経済的還元ではなく、電気自動車により社会を変えること
を目的にしている。
いま、私たちが模索している「もうひとつの会社」のあり方。ソーシャルイノベーションを体現した会社でもある。
17世紀に生まれた運動力学の知見は、18世紀の産業革命を実現した。
19世紀に生まれた電気磁気力学が、20世紀の工業化社会を産み出した。
同じように、
20世紀に明らかになった量子力学の成果は、太陽電池やリチウムイオン電池という新技術に応用され、環境共生社会を可能にしようとしている。
「21世紀こそ、素晴らしい時代です。日本がその担い手になる可能性は極めて高い」
清水先生は、飄々とした話し方ながらも、力強いメッセージを発する。

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