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夕学レポート

2011年10月07日

「自分のことは自分で決める」 工藤公康さん

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「自分は引退したわけではない。どの球団にも所属していないだけで、現役の野球選手である。従って、元○○球団選手ではなく”野球浪人”である。」
工藤選手に、夕学でご紹介する際の肩書きをお尋ねした際の返答である。
確かに一年前、戦力外であることを通告された。しかし、それはいまの日本のプロ野球界の見方であって、正しいとは限らない。自分の限界を他者に決めてもらいたくはない。
そんな反骨精神が伝わってくる発言と言えるだろう。
ただし、工藤さんのこだわりは、反骨のための反骨、意地のための意地ではないようだ。
「自分のことは自分が一番分かる 自分のことは自分で決める」
30年近いプロ人生を貫いてきた、「自律の精神」に従ったものに違いない。
だから明るく、自信たっぷりに”野球浪人”を自称できる。
(肩を)開くな! (ヒジを)下げるな! (からだを)残せ! (前に)突っ込むな!
野球ファンならずとも一度は聞いたことがある指導法である。速いタマを投げるために、そして肩を壊さないために有効な合理的な指導ポイントであることは確かなようだ。
ところが工藤さんによれば、プロ野球の投手コーチで、「それは(具体的に)どういうことか」という問いに対して答えられる人は皆無だという。
「肩が開く」ということは、身体のどの筋肉や関節がどのように動いていることなのか、どのコーチも説明することはない。
ただ、開くな! 下げるな! 残せ! 突っ込むな!を繰り返すだけだという。
工藤さんは、若い頃から、これが我慢できなかったようだ。


たとえプロの投手といえ、人間は一人ひとり違う。体格も、身体の強さも柔らかさも違う。だとすればトレーニング法、指導法は一人ひとり違ってしかるべき。
全員一律の、開くな! 下げるな! 残せ! 突っ込むな!という指導はおかしい。
まあ、内心では同じように思う合理的な思考の選手も少なからずいるのだろうが、それを口に出す人は少ないはずだ。
工藤さんは、それをはっきりと表現した。
当然、指導者には煙たがられるが、工藤さんには「自分で納得いくまで知ってやろう」という探究心があった。スポーツ科学の研究者を尋ね、動作解析のビデオを取り、生理学の本を開いた。
「プロ野球選手は作ることが出来ます」
工藤さんは、そう断言する。
ピッチングとは何か、投手に必要な筋肉をどう鍛えればいいのか、どういう神経回路を使って筋肉間の連係はなされているのか。
ピッチングのメカニズムを誰よりも研究してきたという自負があってこそ言える言葉であろう。
40代半ばを過ぎてなお、140キロ台後半のストレートを放る工藤さんの身体とピッチングは、自分で考え、工夫を重ねて作り上げた作品なのかもしれない。
先述のように、いまのプロ野球は、選手を育てることが上手いとは言えない。しかも毎日のように練習で投げなければならないので身体を壊し易いシステムである。
にもかかわらず、それを防ぐ手立てをしていない。だから多くの有望な選手がつぶれていく。
それを改善しようとせずに、毎年、ひと握りの才能に群がって消費しようとする。
そんなプロ野球界に、自分のクビを宣告して欲しくはない。
曲解とは承知しながら、工藤さんの心境を忖度すれば、そんな感じではなかろうか。
いま、工藤さんが見据えているのは、選手生活の終幕であることは間違いない。
そのための舞台をメジャーのキャンプに定めて準備を進めている。
最後の舞台に立つことが出来るかどうか、年末まで二ヶ月間にひとつの答えが出る。
「自分のことは自分が一番分かる 自分のことは自分で決める」
48歳の挑戦を前にした工藤さんの背中は、そう語っている。
この講演には、「感想レポート」の応募をいただきました。
・あきらめない男の生き方」と自分の生き方を重複させて(Yakkunさん/会社員/50代/男性)
・「夢を投げる~工藤公康という直球~」(白澤健志さん/会社員/41歳/男性)
この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/10月7日-工藤-公康/

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