夕学レポート
2011年12月08日
「制約」の上手な使い方 本田直之さん
私は、書店で過ごす時間が長い。丸善丸の内店には、週に2~3度は立ち寄り、時間があれば2時間近くいることもある。
当然ながら、この数年、書店での本田直之著作本の存在感には気づいていた。「レバレッジシリーズ」は次々と刊行され、どれもよく売れているようだ。
しかし、本を手に取ることはあっても、買うことはなかった。
「できるだけ少ない労力で、より多くのリターンを得よう」というレバレッジの考え方には違和感があった。
私は、「投じたエネルギー量の多さが達成感に比例する」という古いタイプの考え方を持つ人間である。(むしろ、本田さんの奥さんの価値観に近いかもしれない)
今回は、「是非、呼んで欲しい」という元スタッフの熱望もあって、違和感の正体を確かめるのもよいかもしれないと思った次第である。
一年間のうち、6ヶ月をハワイで、4ヶ月を東京で、2ヶ月は世界を廻って過ごすという本田さんのライフスタイルは、多くの人が思い描く夢の体現者である。
そのライフスタイルをつかみ取るために本田さんがこだわったのは「制約にしばられない」ことだったという。
「時間」「場所」「人」「お金」「働き方」「服装」「思考」
私たちの仕事、生活、モノの見方・考え方をしばる、さまざまな「制約」を取っ払う生き方である。
では、どうすれば「制約」から逃れられるのか。
「考え方」「スキル」「実践方法」の3つの切り口で提示してくれた、本田さんの体験的方法論が、講演のキモに当たる部分であった。
最初は中国古典の「荘子」によく似ているな、と思った。
「多くのものにとらわれて、不自由に生きている自分を発見せよ」
「不自由を脱ぎ去ることをせよ」
「こだわりを捨て、かみしもを外せ」
それが「荘子」のメッセージである。
本田さんの口からも、「捨てる」「減らす」「止める」「使わない」「持たない」「残さない」といったキーワードが次々と出て来た。
でも少し違う。
本田さんは、絶対自由の境地を求め、隠遁的な「無」を生きようとはしていない。
アイアンレースはやるし、ワインも大好き、ペンには凝るし、ファッションにもこだわりがありそうだ。
断じて「無」ではない。
荘子は、全ての「制約」から自由になることを希求したが、本田さんは違う。
実は「制約」を上手に使っているのではないか。
複業を持つという「制約」、留学時代に1日2.5ドルで生活しようと決めた「制約」、タイムマネジメントという「制約」etc。
本田さんの人生や生活には、自分をドリブンするための「制約」がいくつも埋め込まれているようだ。
本田さんが捨てたのは、他者が決めた「制約」、自分にはストレスになる「制約」である。そして、それらを捨てた代わりに、自分で決めた「制約」、自分にとって意味のある「制約」を取り入れている。
「制約」に動かされるのではなく、「制約」を使って自分を動かしている。
本田さんにとって、重要なのは、「制約」を自分で決めること、自分で使うことではないだろうか。
そう考えると、本田さんの生き方は、エドワード・L・デシが説いた「内発的動機づけ」の理論にピッタリと一致する。
何事も自分で決めるという感覚(自己決定感)
こうすれば上手くやれるという感覚(有能感)
「内発的動機づけ」に必要なのは、この二つの感覚を得られるかどうかだとデシは言う。
本田さんの生き方は、まさにこれである。
違和感の正体を確かめようと聞き始めた話であったが、いまは、違和感が随分と的外れであったなぁと反省している。
この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
・http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/12月8日-本田-直之/
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