夕学レポート
2011年12月13日
哲学の遠望鏡で現代を見る 竹田青嗣さん
この仕事をやっていると、「これは秀逸だなぁ」と感心する講演タイトルに出会うことがある。
今回の「哲学の遠望鏡で現代を見る」というタイトルはその典型と言えよう。
現代とはどういう時代なのか、哲学という思考ツールを使って考えてみよう。それが今回のテーマであった。
竹田先生がこのタイトルを付けた理由のひとつには、近代哲学と近代社会の関係性があるようだ。
「近代哲学が近代社会のブループリント(青写真)を描いた」
竹田先生は、そう言う。
近代を語る代名詞としてあげられる「資本主義」「民主主義」「自然科学」は、いずれも近代哲学から生まれ落ちた。デカルト、ホッブス、ルソー、カント、ヘーゲル等がいなければ存在しなかったかもしれない。
しかして視線を現代に転じた時、現代社会の基底となる「哲学」はあるだろうか。
脱近代が叫ばれて久しいにもかかわらず、そこにはブループリントと呼べるものがない。
講演タイトルは、いまこそ、現代社会のブループリントたりうる「哲学」が必要だ、という竹田先生の問題意識の裏返しである。
竹田さんの考える「哲学」とは、絶対真理・究極原因の探求ではない。社会の「共通理解」を創出するための思考の「原理」である。
絶対真理は、宗教教典のごとくにアンタッチャブルな存在だが、「原理」は、時代に合わせて絶えず前に進むべきものだ。スパイラルに進化するものである。
「哲学」とは、オープンな議論のテーブルで揉まれて、民族・文化の枠を越え、その時代の世界を説明する言語ゲームである。
さて、竹田先生は、現代という時代は、歴史上5つめのエポックを迎えていると言う。農耕の開始(1万年前)、世界宗教の誕生(2千年前)、近代社会(2百年前)先進国協調体制(70年前)に続く、五つ目のエポック=「現代社会の困難」(2001 9.11から)の渦中にあるという認識である。
エポックをくぐる度に人間社会は混乱し、戦争によってそれを治めようとしてきた。
部族間闘争、宗教戦争、帝国主義の戦争、東西冷戦と続き、いまは経済戦争を戦っている。
経済戦争は、物理的な被害や対立軸が見えないだけに、その被害は加速度的に広がりつつある。いまこそ、現代社会のブループリント足りうる新しい「哲学」が求められている。
近代哲学が育んだのは、「相互承認と自由」の原理であった。
その有効性はいまも変わらないと竹田先生は言う。
必要なのは、「相互承認と自由」の原理を、マネーが瞬時に世界を駆け巡る時代、限られた資源を巡って最後の争奪戦がはじまろうとする現代の文脈に乗せて、編み直すということであろう。
近代が生んだルール(資本主義、民主主義、科学技術)の制度疲労や暴走は誰の目にも明らかになった。
いまこそ、「新たな相互承認」と「新たな自由」の原理と、それに沿った新しいルールが必要である。
この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
・http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/12月13日-竹田-青嗣/
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