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夕学レポート

2012年04月11日

「正解のない問いに向き合う作法」 藤原和博さん

photo_instructor_606.jpg藤原和博さんに夕学に来ていただいたのは4度目である。(昨日の紹介では3度目と話したが、改めて調べてみたらもう一度あった)ブログだけでも3回目になる。
改めて、これまでの講演内容やブログを見直してみると、事例やネタの扱い方は異なるが、首尾一貫して同じことを言っている。
「正解のない問いに向き合う作法」である。
「会社と個人の新しい関係」(2003年)「公教育の未来」(2005年)「つなげる力」(2009年)「坂の上の坂の生き方」(2012年)、どんな講演テーマであっても、コアなメッセージは変わらない。
「会社と個人の新しい関係」をつくる際に必要となるもの
「公教育の未来」で培われるべき能力
異質な人やものをつなげることで実現できること
50代からの人生で、もうひとつ(ふたつ)の坂を登るための準備
全てに共通することは、「正解のない問い」に向き合う作法である。
彼はこれを>「情報編集力」と呼んでいる。
「情報編集力」の説明は、これまでも何度もしてきたが、昨夜聞いた新ネタをお借りして紐解いてみよう。

「あなたは避難所の責任者です。あなたの避難所には避難民が800人収容されているのですが、あるとき、東京からボランティアの青年が「お茶の時間に是非、甘いものを召し上がってください!」と700個のロールケーキを運び込んできました。いま、午後3時。避難民代表の連絡会議は夕方6時に開かれます。あなたならどう対処しますか?」

藤原さんが、現役の学校長を対象に実施している学校マネジメント講座で、最近使っているワークシートである。
先述のように、「正解のない問い」なので、いろいろな考え方がある。いやないとおかしい。
子供と高齢者、そして女性に分配する。一個を半分に分ければ全員に食べてもらえる。お年寄りも含めた大じゃんけん大会をやって盛り上げる。小中高生でそれぞれチームに分けて、分配方法を考えさせ全員の前でプレゼンしてもらって拍手が大きかったチームの案に従う。ビニール袋に入れてグチャッとすれば、全員がスプーンで食べられるetc。
この時に脳内にフル動員されるのが「情報編集力」である。
そこには正解がない、しかし決めねばならない。その時、その状況で、多くの人の納得解を得るのに必要な知恵と言えるだろう。
ちなみにこれは、藤原さんが当事者(ケーキを運んだ青年)から聞いた実話である。
現実に起きたのは「受取拒否」であった。
公平に分配できないものは受け取ることが出来ない、というのが彼らの論理であった。
公平な分配には「正解」があるという呪縛にとらわれると、700/800を割り切れない数字として回答を拒否してしまうということなのかもしれない。
これは、たまたまの事象ではなかったという。同じような現象が他の避難所でも起きていた。
藤原さんによれば、この思考悪弊は、被災地だけでなく、日本中にジワジワと広がっているという。
被災地のガレキ処理受入に手を挙げる首長が少ないのも同じ構図かもしれない。
必要性はわかる。でも反対者を説得できるロジック(正解)がない。だったら受け入れない方がよい。
日本人の思考に絡みついた正解主義の呪縛が、「正解のない問い」に向き合うことを拒否している。
藤原さんの話を聞いて救いがあるのは、「正解のない問い」に向き合うことは、特別なことではないということだろう。実は、ほんの少し思考の枷(かせ)を緩めてやることで、誰でも出来ることだと気づく。
鷲田清一さんは話してくれた。
居心地の悪い空間に放り込まれた時、
どう振る舞えばよいか思いあぐねている時、
空気が読めない人の発言に場が凍り付いた時、
実は、その時、その場の違和感、モヤモヤ感が、あなたの「知的体力」を鍛えてくれる。
藤原さんの場合は、違和感、モヤモヤ感にもうひとつ、FUNの要素を取り入れている。
違和感、モヤモヤ感を「楽しんでしまう」こと。それが思考の枷(かせ)を取り外す方法である。
藤原さんの講義には、その効果を体感してもらうワークショップが随所に散りばめられていた。
開演前、控室で、藤原さんが登ろうとしている「坂の上の坂」について聞いてみた。
本によれば、藤原さんは、5年に一度、それまで持っているものを捨てて無謀なことに挑戦してきたという。リクルートフェロー第一号も、民間人校長もその一環である。
この流れでいくと、つぎは57歳が転機の年、実は今年である。
「リクルートでビジネスをやり、公立中学の校長をやっちゃったから、やるもんがないんだよね。宮内庁の改革でもやろうか(笑)」
あくまでも明るい。自然体である。でも次ぎに自分が乗るべき波が、いつ、どこからやって来そうかという勘どころはしっかりと掴んでいるようにお見受けした。
「情報編集力」の重要性を楽しく語りながらも、訪れつつある新しい波の気配に感覚を研ぎ澄ましているようにも思えた。
この講演に寄せられた「明日へ一言」はこちらです。
・http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/4月11日-藤原-和博/
この講演には、感想レポートの応募が1件ありました。
「坂の上の坂に気付く」(SAMURAI7さん/会社員/40歳代/男性)

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