夕学レポート
2012年06月01日
財政健全化に向けた改革課題の全体像
まずはじめにおことわり(言いわけ)から。
私は、夕学講演の翌日にブログをアップすることを基本にしている。何もなければ翌日の昼まで、午前中に予定がある時は、夕方にはアップをする。講演翌日が週末休暇の場合には、休み中に書いておいて、翌週の朝にアップする。
今回は、31日(木)に土居丈朗氏、1日(金)古賀茂明氏と連続だったが、1日は朝から3時近くまで用事があったので、土居さんのブログを書きかけ途中で、古賀さんに講演時間が来てしまった。
お二人の講演は、日本財政の課題を取り上げた点は同じであった。そして、大きな意味での問題意識と解決の処方箋についてはそれほど変わらないと理解した。
ただ、ご承知のように、野田内閣が取り組んでいる消費税増税法案に対する立場は180度異なる。
その違いは、どこに起因するのかを整理することで、二つの講演をまとめて、ひとつのブログにすることにした。
さて、日本財政が危機的状況にあることを否定する人はいない。
政府債務残高の対GDPが220%を越えて、世界最悪の状態にあることは揺るがない事実である。
財政健全化の処方箋がひとつで済むという人もいない。複数の改革を同時並行的に取り組む必要がある。
お二人の話を参考に、財政健全化に向けた改革課題の全体像を列挙すると次ぎの4つになる。
1)使うお金を減らすこと=歳出削減(ムダの削減)
2)お金の使い途を変えること=構造改革(社会保障制度の改革、地方分権改革など)
3)お金の集め方を変えること=税制改革(消費税増税)
4)集めるお金を増やすこと=成長戦略(規制緩和)
お二人の意見で共通するのは、1)歳出削減は必要で、やり続けなければならないけれど、財政健全化への効果には限界がある、という認識であった。
事業仕分けも、公務員人件費の削減も、議員歳費の節約も、象徴的な意味以上の効果はない。「予算の組み替えやムダ削減などで16.8兆円の歳出削減が可能である」という民主党の公約は完全に破綻した。
となると、財政健全化には、残りの3つが鍵を握るということであろう。
消費税増税は、3)税制改革にあたる。土居さんはこれを支持している。
日本の租税体系の骨格は、1989年消費税導入時以来変わっていない。つまり23年前に作られた構造のままで現在に至っている。
にもかかわらず、世界と日本を取り巻く環境は大きく変わったか。
だとすれば、それに合わせた手立てをするのは当たり前である、という意見であった。
古賀さんは、逆の立場である。
消費税増税を優先するのは、2)構造改革によって、自分達が握ってきた予算配分権を侵害されることを嫌う財務省の戦略である。
これを許せば、2)構造改革、4)成長戦略をおざなりに済ませて、消費税増税を繰り返すことで財政再建を謀ろうとする動きが加速するに違いない。
いわゆる「アリの一穴論」である。
まずもってやるべきは、4)成長戦略である。小泉改革の反動で手つかずにされてきた規制緩和を進め、新たな産業を育成することで経済成長を実現しなければならない。
この指摘について、土居さんは、「税収弾性値」という概念を使って、経済成長によって増える税収を過大に見積もる人がいると、あらかじめ言及していた。
(税収弾性値=税収増加率÷名目経済成長率 政府試算では1.1)
経済成長率が1%上がることで増える税収は1.1%に過ぎない。経済成長重視派が掲げる4%の経済成長が実現したとしても、増加する税収は4.4%程度。仮に11年度の税収41兆円にあてはめてみれば、2兆円にもならない。まったくもって足りない。
また土居さんは、2)構造改革についてもかなりの時間を割いて改革の方向性を提案していた。
高齢化社会が加速する以上は、社会保障給付の効率化は不可避である。一定以上の所得がある高齢者の医療費負担増、年金給付減は避けられない。
医療から介護へと政策の重点をシフトすることで、社会保障費を抑制しつつ、質を維持する工夫を進めなければならない。
国と地方の財政のあり方を抜本的に変えることも急務である。
お互いの役割分担を見直し、地域主権確立に向けて必要な改革を進めるべきである。
しかしながら、2)構造改革は、官僚組織と政治家(一部の改革派を除く)の両方を敵に回すことでもある。改革派官僚として、官僚組織の凄まじい風圧と嫌がらせを受けてきた古賀さんが語る体験談には、背筋が冷たくなる思いがする。
学者の高邁な理想論を換骨奪胎することなど、官僚にすれば容易いことでしかない。
改めて考えてみると、健全化に向けた改革課題の全体像を共有しながら、具体論で180度異なる二人の見解は、それぞれの方が生きてきた、あるいは立脚する基盤の違いであって、どちらも「一本筋が通っている」としか言いようがない。
実は、二人の共通点はもうひとつある。
大阪府市統合本部の特別顧問を務めていることである。
どうやら二人とも、橋下徹という人物の掲げるビジョンや人間的魅力に惹かれて集ったわけではないようだ。
彼(橋下さん)の放つ、強いリーダーシップに期待しての参集である。
政治と官僚組織の強固で狡猾な互助システムを壊さなければ、日本の改革は実現出来ない。それには、強いリーダーが出現しなければならない。既成政党からは生まれ得ないこともはっきりしてきた。
よくわからないけれども、いま橋下徹に賭けてみよう。
おしかりを受けることを覚悟して言うと、そういうことではないだろうか。
この問題も、最後はリーダー論に帰結してしまう。
国の主権者である私たちに出来ることは何なのか。一抹の寂しさが残る。
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慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
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稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
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『VIVANT』とテレビ局社員
福澤 克雄
(株)TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部、演出家・映画監督
私にとっての道は、TBSにありました。『VIVANT』は、同じような夢を持つ若者たちの道標になってほしい、そんな思いも込めてチャレンジした作品です。日本のドラマ界、映画界を目指す皆様、夢はあるけど方法がわからない皆様の一助になればと願っております。
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