夕学レポート
2012年06月06日
気づく、考える、比べる おちまさとさん
プロデューサーおちまさと氏は、
10歳のとき、人生を決めた。
映画『ジョーズ』を見て、「自分はスクリーンの向こう側(作り手)に立つ!」と。
20歳のころ、道を切り拓いた。
『天才たけしの元気が出るテレビ』の放送作家オーディションで、4千人の激戦を勝ち抜き、テリー伊藤氏の弟子となり、この世界に入った。
30代後半になって、世界を広げた。
TVからファッション、ネット、企業コラボへと、プロデュース活動のウィングを伸ばしたのだ。
46歳のいま、何かを始めようとしているように思える。
育児とデュアルライフ(ハワイ&日本)を楽しみながら、ライフスタイルプロデューサーとしても注目されている。
著書名に擬えていえば、そんな「ひとりコングロマリット」的な生き方を可能にしてきたのは、秀でた「企画力」なのであろう。
おちさん流の企画は、「きかく」という語呂にちなんで、
き:気づく
か:考える
く:比べる
の三段階で構成されるという。
「気づく」という行為は、
クイズ番組の早押しと同じだという。
誰も気づいていないことに、一番に気づくことが勝負を決める。
例えば
おち少年は幼いころから、人と違うところに目がいった。
友人達との誕生会でケーキのロウソクを吹き消すシーン。
全ての友達は、誕生日を迎えた友人が「フーッ」と吹き消すさまに集中する。
ところが、おち少年の視線は、別の友人が「アホ面」を浮かべて眺めている様子にロックオンされる。あとでその様子を描写することで、座が一気に盛り上がる。
気づきとは、こういうものらしい。
「おちさんの情報源は何ですか」という質問をよくされるという。
それは愚問である。企画とはソース(情報源)の問題ではない。
お誕生会の例を出すまでもなく、どこからでも、誰でも「気づく」ことはできるはずだ。
誰もが経験する、日常の出来事、人、ニュースから、誰もが思いつかないやり方で、誰もが思いつかない、ある一面を切り取る。
そのスピードとユニークさが「気づく」という勝負である。
「考える」という行為は、
しつこさが決め手になるという。
「気づき」は素材であって、企画そのものではない。素材をどう料理するかが「考える」という行為である。
例えば
オウム指名手配犯逮捕のニュース。
今回逮捕された菊池直子容疑者が使っていた偽名が「さくらいちずこ」
年明けに捕まった斉藤明美容疑者が使っていた偽名は「よしかわしょうこ」
おちさんは、その奇妙な符号の一致に気づいた。何が奇妙なのか。
「しょうこ」→しょうこう→麻原彰晃
「ちずこ」→ちずお→松本智津夫
何かあるのでは、二人の女性の心の闇につながる糸口かもしれない。
そんなことをしつこく、考え続けているのだという。
「え!そんなことを」ということをしつこく考え続ける
このプロセスで気づきが練り上げられる。ユニークさのエッジが立ち、企画の輪郭が浮かび上がってくる。
「比べる」という行為は、
比較する対象の選び方がキモである。
気づきから生まれた企画がいけるかどうか、本当にこれでいいのかを検証するときに、まったく異なる世界と比較することで見えてくるものがある。
例えば、
「ありそうでなかったゲーム」を開発しようとする。
この時に企画としてのユニークさを、過去のゲームのヒット策や競合と比べてはいけない。
そこで、比較対象をお菓子のヒット商品に転じ、「ありそうでなかったお菓子」の代表として「甘栗むいちゃいました」と比べてみる。
「甘栗むいちゃいました」が持つ、イケてる要素を、自分のゲーム企画がいくつ持ち合わせているか。多ければ多いほどイケるという確信になるという。
おちさんには、7年前にも夕学に来ていただいた。
当時は、プロデューサーとして活躍の世界を広げた頃。この7年間の大活躍は紹介するまでもない。
7年前と今回で大きく違ったのは「育児」の話を楽しそうに、かなりの時間を割いて話してくれたことだろう。
おちさんには、「育児」という多くの人が経験する人生イベントを「気づき」の宝庫だと面白がる感性がある。
面白がるだけでなく、「考える」「比べる」段階を経て、子供服やベビー用品開発の企画につなげてしまうマネタイズ能力もある。
この4月には、厚生省イクメンプロジェクト推進メンバーに就任したという。
「育児」と「役所」という、おちまさとのイメージからは連想できないユニークな組み合わせの中で、どんな「ありそうでなかった」ものを産み出してくれるのかが楽しみだ。
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