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夕学レポート

2012年06月14日

自分が変わるから、周りが変わる。 周りが変わることで、自分も変わる。 金井壽宏さん

photo_instructor_622.jpg金井壽宏先生は、若い頃、臨床心理学を学び、カウンセラーを目指したことがあったという。
京都大学教育学部で、故河合隼雄氏の心理学講義を三年連続で履修するほどに惹かれたことが理由のひとつ。困っている人、悩んでいる人の役に立ちたいという思いが強かったことがもうひとつの理由だった。
紆余曲折を経て、人と組織に関わる領域を専門とする経営学者になった金井先生が、「組織開発」というテーマに辿り着いたのは、必然だったのかもしれない。
経営学全般の知見、組織行動論の専門性、心理学や臨床技法に対する造詣を持ち、どんな相手にも敬意を払い、ユーモアと人なつっこい笑顔で接する金井先生こそ、「組織開発」を語るにふさわしい学者ではないだろうか。
ジャングル化の様相を呈しつつある「組織開発」を、学問的に俯瞰してくれる一方で、自分の立ち位置も明確にして、「だから私はこう考える」という見解を述べてくれた。
金井先生は、「組織開発」には二つのアプローチがあるべきだとする。
クリニカルアプローチ=支援と働きかけのアプローチ
エスノグラフィックアプローチ=観察と記述のアプローチ
のふたつである。
クリニカルアプローチ=支援と働きかけのアプローチ
臨床心理学の知見を使うことから、この名前を付けている。
相手(組織)が自ら元気になるプロセスに役立つために、さまざまな働きかけを行うことである。
金井先生の恩師であるE・H・シャイン氏(MIT教授)はその大家といえる。
エスノグラフィックアプローチ=観察と記述
文化人類学で用いる調査手法の名に由来する。
相手(組織)の内側に入り込み、内部者のすぐ横で、そこで何が起きているのかを観察し、記述することである。
シャインがMITに招いたJ・V-マーネン氏は、組織エスノグラフィーの第一人者である。


クリニカルアプローチは、相手(組織)が変わることが上手くいった証左である。
組織が元気になるためのアイデアは、実は個人の中にある。
しかし、どれがいいアイデアかは、皆で議論をしてみないとわからない。
質のよい熟議を、何度も、いろんな形で行うことが大切である。そのファシリテイトが専門家の役割である。
働きかけの決め手は「どんな手法を使うのか」ではない。
世の中には、「組織開発」の手法が数多ある。どれがよい、どれが悪いというものではない。
状況に応じて、さまざまな手法を統合的に用いるべきだ。手法オリエンテッドになってはいけない。
しかし、相手に役立ちたい(組織を元気にしたい)という思いが強すぎて空回りする可能性もある。頑固な相手には、もっと根本から揺さぶりをかけないと動かない。
エスノグラフィックアプローチはそういう時に効果を生む。
相手が、組織エスノグラフィーによって、観察・記述された生々しい姿を読んで(見て)「確かにその通りだ」と言われるかどうかが上手くいった証左である。
その組織は、いつ、どういう時に、どんな反応をし、どんな行動を取るのか。中に入り込んだ人間でないと気がつかない実像データを、改めて眼前に突きつけられることが、「変わらなければならない」というモチベーションにつながっていく。
「組織開発」の対象は、個人であり、組織である。
なぜなら、個人が元気にならずして、組織が元気になるはずがない。また組織への働きかけが、結果として個人の元気につながることもあるから。
両者は入れ子構造のように絡み合う。だから両方に働きかけねばならない。
クリニカルアプローチ、エスノグラフィックアプローチを駆使し、両者の専門家の協力を仰ぎながら、マルチレベル、クロスレベルで取り組む必要がある。
更にいえば、個人と組織が元気になるためには、地域が、産業が、国が元気にならねばならない。皆で力を合わせれば出来る、変わることが出来るという自信を取りも戻さねばならない。
「組織開発」という取り組みは、企業組織のみならず、社会各層に渡って求められている専門性と言えるだろう。
しかし、そのためには、まずは自分の手の届く範囲から、更には自分から始めなければならない。
自分が変わるから、周りが変わる。
周りが変わることで、自分も変わる。
その両方であって、どちらかが先ではない。
それを忘れてはいけない。

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