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夕学レポート

2012年10月10日

有名人ビジネス体験記  勝間和代さん

photo_instructor_629.jpg旅行記、戦争記、経営記etc。さまざまなジャンルに「体験記」と呼ばれるものがある。
体験記は、当事者でしかかけない臨場感が魅力である。皮膚感覚、風の匂い、その時沸き起こった感情が散りばめられていることが不可欠である。
一方で、情緒的になり過ぎてもいけない。読む人がどう受け取るかを意識しながら言葉を選ばねばならない。
きょうの講演は、勝間和代さんによる、秀逸な「有名人ビジネス体験記」であった。
勝間さんによれば、アイドルビジネス、パンダビジネス、のように、有名人ビジネスといううべきものがあるようだ。
中核をなす人物(動物)から産み出される力、影響力、エネルギーを、経営資源として活用しようという人々が集積することで発生するビジネス形態である。
アイドルであれば、CD、コンサート 写真集 キャラクター商品、冠番組などが派生的に生まれ、総額ウン百億円という巨大ビジネスになる。
有名人ビジネスもよく似た構造だという。
文化人、経営者、作家、モデルなどを「有名人」に育て上げ、彼・彼女の書籍、講演、企画でビジネスをしようとする人達がたくさんいる。
アイドルと同じでヒット率は低いが、当たると大きい。
アイドルのように、しつけ、化粧、演技や歌等々の基礎トレーニングや、悪い虫がつかないように身辺警護をしなくてよい分だけ、投資効率は高いかもしれない。
勝間さんの本は累計で500万部近くになる。一冊1000円として500億円の巨大市場。
パンダほどではないにしろ、本人の実入りが驚く程少ないというのもアイドルと同じ。産み出された富の多くは、ビジネスに参集した人々に分配される。
アイドルビジネスと有名人ビジネスが違うのは、多くの場合、プロデュースを自分でやらなければいけないということ。彼・彼女に、つんくや秋元康はいない。
自分で自分をプロデュースした勝間さんに言わせると、
有名人になることは意外と簡単だという。
経営コンサルが、経営不振企業を建て直しに際して立案するマーケティング戦略のプロセスと同じだという。

有名人になる5つのステップ
ステップ1 自分の商品性を把握し、顧客やパートナー、競争相手を特定する
ステップ2 自分がターゲットとする市場について、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを行う
ステップ3 自分を売り込むためのサービスを開発し、そのサービスの提供プロセスを管理する
ステップ4 自分がつくったサービスを普及させるための適切なチャネルを見つける
ステップ5 自分のサービスに適切な価格をつけ、品質を保証する
                          <勝間さんの講演資料より抜粋>

勝間さんで言えば、
自分の商品性は「わかりやすいビジネス書を書くこと」にあると定めた。
ターゲット市場は、人材流動化時代に適応すべく、強い自己開発欲求を持ったビジネスパースンに据えた。
ターゲットに食い込むためのクサビとして『年収10倍アップ勉強法』というベタなタイトルの本を書いた。
有名人のゴールは「紅白歌合戦の審査員」と「金スマで特集される」ことと定め、ともに実現した。
きょうの夕学は、有名人ビジネスにピリオドを打つ引退興行のようなものだろうか。
徹底的に自分をマーケティングしている人である。
勝間さんは、有名人になることのメリット・デメリットをズバリ解説してくれた。
収入はたいしたことない。人脈の広がりこそが、最大のメリットだという。
日本であれば、2~3人を介せば、会いたいと思って会えない人はいない。
新しい出会い、機会がある、それが心から楽しいと思える自分(勝間さん)には大きなことだったという。
発言力がつき、やろうとしたことが実現できる、伝えたいメッセージが届きやすくなる。
caboというプロジェクトを通じて1億円の寄付が実現したのも、有名人になった効果である。
デメリットは、衆人環視の中で生きることを余儀なくされること。
人から見られることが日常になる。
「私くらいの有名度だと、”あの人テレビで見たことあるんだけどなんて名前だっけ”となるようで、余計気になるみたいです(笑)」
と面白おかしく描写してくれたが、衆人環視の中にいることを気にしないでいられる術を身につけないと生きていけないようだ。
有名人になってわかったこともあるという。
自分の不得意なことは続かないし、儲からない、というシンプルな原則である。
40冊近い著作のうち、会心作と呼べるのは10作品程度、残りは持ち込み企画に乗ったり、連載を本にしたもの。こういう本はやっぱり売れなかった。
本が一番売れるのは、丸の内丸善。ホームグラウンドでの評価がやっぱり高かった。
ムリして顧客を広げようとしても、ムリなものはムリだとわかった。
一度有名人になると、もう「ふつうの人」には戻れないこともわかった。
有名人から元有名人になるだけの話。
有名人であったという事実は永久に消せないし、ネットには、有名人の痕跡が残り続ける。
だとすれば、それを与件として、ブームは終わったけれども、「あの人はいま」にもならない程度の生き方をしよう。
レギュラーのテレビ出演は全て降りたが、視聴率の高い番組を選んで、時折出るようにしている。元有名人にならない程度の生存信号を発信する意味があるから...。
そのうえで、勝間和代を定番化すること。
いつまでも、そこにあるものとして、残り続ける存在になること。
それが、勝間さんがいま考えている戦略のようだ。
今度は『やせる』という本を出すとのこと。
生存信号発信の意味で引き受けたテレビで、ダイエット企画に挑んだ際に仕入れた健康ノウハウを詰め込んだ自信作である。
ダイエット本ではなく、健康本。それなのに、タイトルはベタに「やせる」と付けるのが勝間さんらしくていい。
私塾 勝間塾には1000人近い人々が集っている。はじめて婚約カップルも生まれた。
長期的には、日本社会がもっとマイノリティを受け入れる多様性を持てるように働きかけ続けること、が勝間さんのミッションだという。
学生結婚、ワーキングマザー、40歳での起業、有名人ビジネスと、常にマイノリティ的な生き方を選び取ってきた勝間さんならではの筋の通ったビジョンである。

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