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夕学レポート

2012年11月27日

組織能力としての「模倣」  井上達彦さん

photo_instructor_646.jpg「明確な意図と工夫を伴って、選択的に意思決定される「模倣」は、立派な経営戦略です」
井上達彦先生の話は、企業活動における「模倣」に市民権を付与することからはじまった。
まずは、競争戦略としての「模倣」
井上先生によれば、多くの成功企業は「Fast Second」戦略で勝ち抜いてきた。
同業リーダーが多大なコストを投じて開発した革新的な製品やサービスを、いち早く模倣することで、開発コストを抑え、その分を製造や流通に回して、低価格・大量生産を可能にし、一気に市場を席巻していく戦略である。
サムソン、LGが半導体や薄型テレビで日本企業を凌駕した戦略である。かつては、日本企業が米国を相手に同じ戦略で勝ち抜いてきた。
歴史を振り返れば、同じような例はいくつでもある。
オランダで生まれた株式会社がイギリス帝国主義の動力機関となった。
欧州で発明された自動車はアメリカで工業化社会を開花させた。
模倣とは、競争への対応として避けられない経営戦略である。
ただし、昨今のグローバル化、デジタル化、ネットワーク化の波は模倣に要するタイムラグを劇的に短縮した。かつて100年かかった模倣が、20年、4年と縮まり、いまでは1年半で世界中から模倣される運命にある。
井上先生が着目するのは、もうひとつの模倣、イノベ-ション戦略としての「模倣」である。
「模倣も徹底すればオリジナリティになる」
井上先生は、ドトールの鳥羽社長の言葉を引き合いに出しながら、模倣がイノベ-ションにつながる理由を説明してくれた。
模倣に必要な能力とイノベーションに必要な能力を要素分解してみると、ほとんど同じあることに気づく。
つまり、模倣を徹底して突き詰めると、イノベーションを産み出す能力を高めることになる。


では、模倣とイノベ-ションをつなぐロジックとは何か。
ひとつは、「遠い世界から模倣すること」である。
トヨタの「ジャストインタイム」はスーパーマケットにヒントを得た。
ヤマト運輸は、吉野屋から「サービス絞り込み」の重要性を学んだ。
いずれも遠い世界から模倣した。
このときにキモになるのは、メタファーというレンズである。
Meta:~を越えて/phor:運ぶ、持って行く
一見無縁そうな世界に、メタファーというレンズをあてることで、自分の世界に模倣できるコアなヒントをみつけることである。
異国、異業種、過去、規模の違うビジネスetc 意外な世界に模倣すべきお手本がある。
遠い世界からの模倣は、高度な知的作業である。誰にでもできることではない。
遠い世界から、参考になる部分だけを切り取って、自分の世界にスムースに埋め込む。
そこには、徹底した模倣や工夫の蓄積が求められる。
もうひとつは、「反面教師、逆にしてみる」という模倣である。
グラミン銀行のコンセプトは、一般銀行のコンセプトを百八十度転換することで生まれた。
・金持ちのため→貧しい人のための銀行
・高額取引中心→少額取引OKの銀行
・都市→農村にある銀行 等々
競争相手にない部分をあえて強調するというのも反面教師的模倣である。
欧州の機械式時計は、日本のクォーツ時計を反面教師として、時計にデザインや所有価値という新たな意味を付与する戦略を強化した。
敵の弱みや、敵が実現できないことをこちらの強みにすることもまた、模倣である。
成功例を聞くと、なんとなく分かる気がするが、では意図的に模倣をするための普遍的な方法論はあるのか。
それが、井上先生がこれから取り組んでいきたいテーマだという。大いに期待したい。
いくつか見えてきたこともあるようだ。
ひとつは、模倣の順序
製品・サービスそのものは、あくまでも枝葉であって、模倣すべきは幹である。それを間違えないこと。
もうひとつは、徹底度合い
徹底して、根本から、深く、深く考えること。見せかけの模倣は見抜かれる。
さらには、実行力
同じことを考えているライバルは多数いる。要はそれを実行できるかどうかだ。
最後に、多面的な観察
目にみえない部分にこそ、模倣すべき本質が隠されている。陰の部分、裏の裏を見抜く必要がある。
<この説明については、『模倣の経営学』7章にある公文の事例を参照されたい>
井上先生の話を聞くと、模倣能力というのは、見えない部分を丹念に作り込む組織能力なのだとつくづく思う。
見えない部分は、他者に伝えづらい、共有化しづらい、つまり時間がかかる。
そのかわり、一度身につけると圧倒的な競争優位になりうる。
身体でいえば基礎体力、知性でいえば教養のようなものかもしれない。
最後に示してくれた、模倣にあたっての「心得と作法」にそれが端的に表れている。
<姿勢>
・素直にかつ徹底的に/経験を積んで常に意識する
<対象>
・真似をする順序に留意/大きな潮流を見極めて対象を選ぶ
・対象に棲み込むように多面的に観察/一を聞いて十を知る

何事においても、手っ取り早い方法などないのだ。

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