夕学レポート
2013年07月16日
縮小社会への適応力が必要だ 萱野稔人さん
猛暑突入を避けたかのように15日までイギリスに出掛けていたという萱野稔人先生。「日本のナショナリズム」について話して欲しい、という学者仲間の招請を受けた講演旅行とのこと。
萱野先生によれば、英国では、日本のナショナリズム、ことに東アジア情勢の不安定化に連動して起きている動きに関心が高いという。
竹島、尖閣諸島をめぐる日韓・日中の軋轢、新大久保でのヘイトスピーチ、安倍首相の発言、橋下大阪市長の慰安婦問題発言等々、当事者である日本人以上に緊張感を持って状況をみている。
それはなぜか。
日本のナショナリズムは、欧州のナショナリズムと同じなのか、違うのかを見極めたい。
英国の知識人は、そう考えているようだ。
英国では、2年前の統一地方選で極右政党の「英国国民党」が大躍進した。フランス、ドイツ、オランダでも極右政党の動きは活発である。移民排斥、死刑復活、反EU等々、彼らの主張はよく似ている。
萱野さんの見立てでは、
日本と欧州で起きているナショナリズムの伸長は構造的類似性がある、という。
いずれも、縮小社会にあって、これ以上限られたパイを奪われたくない、寄生されたくない、という国民意識に起因している。
低所得者層を中心に沸き起こったその意識運動が、欧州では移民排斥へ、日本では反韓・反中へ向かっているという図式である。
萱野先生によれば、現代のナショナリズムは、かつてのような無知・無教養に起因するのではなく、縮小社会のリアリズムを反映した根の深いものだ。縮小社会が構造的な問題である以上、人権や人類愛などの普遍的価値を説いたところで、問題の根っこはなくならない。
では、世界の先進国を覆う縮小化の波はなぜ起きたのか。たまたまなのか、避けられないのか。文明論的な巨視的な分析が必要である。
萱野先生は、現在の経済停滞は、化石エネルギーのポテンシャルを消費しつくしたことから起きた不可避の現象だと見ている。
講演では、経済史家アンガス・マディソンの『経済統計でみる世界経済2000年史』という本を紹介しながら文明史的な解説をしてくれた。
人類2000年の歴史を振り返ってみると、経済成長と呼べる時代は19世紀以降の200年に過ぎない。それ以前の1800年間、一人あたり所得でみると世界はほとんど成長していない。
経済成長とは、ごく最近に起きた新しい現象なのだ、という。
それを可能にしたのが、化石エネルギーの登場であった。
19世紀のエネルギー革命の主役は石炭であった。
石炭を燃料源とした蒸気機関の発明と、それを積み込んだ鉄道と蒸気船によって産業革命が実現した。世界の覇権はイギリスが握った。
20世紀は石油が主役の座を勝ち取った。
米国で生まれた機械掘り石油採掘法の普及は、エンジンという内燃機関の登場を促し、自動車と飛行機の時代を切り拓いた。 世界の覇権はアメリカに移った。
21世紀を迎え、化石エネルギーが可能した拡大再生産システムによって、人類は需要以上の供給力を持つに至った。資本主義は拡大を宿命づけられたシステムなので、生産拡大が飽和状態に達した時に、拡大の圧力が金融に向かうのは必然であった。
有り余ったマネーが世界のどこかにバブルを産み、バブルは必ず崩壊する。
それがこの20年間に繰り返されている世界経済の実像である。
いまのところ縮小社会は、欧米と日本が直面している課題である。先進国に変わって、中国が急成長時代を迎え、アジアがそれに続こうとしている。
しかし文明史的に考えれば、拡大再生産システムが飽和する時に、縮小社会は必ず起きる。
欧州や日本と同じ道を、中国もアジア諸国も辿っている、しかも乗り遅れた分だけ速度は速い。
ではどうすればよいのか。
文明史的な現象である以上、政策レベルで対処できるほど単純な問題ではないようだ。
抽象的ではあるけれど、間違いのない緩やかな方向性を失わないことであろう。
・成長拡大の時代が再び来るという幻想を持たないこと。
・短視眼的な成長の誘惑に惑わされないこと
・成長しなくとも持続維持できる社会システムに変えていくこと
等々、要は縮小社会への適応力を付けていくこと以外にないようだ。
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