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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2014年07月08日

アインシュタインの最大の偉大さは「あきらめなかった」こと  上田正仁さん

かつて、慶應MCCのファウンダーである妹尾堅一郎先生が「問題解決症候群(シンドローム)」ということをよく言っていた。
・問題は与えられるものである
・問題には唯一の正解がある
・問題の解き方は誰かが知っている
日本人には、これらの思考の癖が、病魔の如くに染みついているというものだ。
photo_instructor_729.jpg20年前、東大で物理学を教えていた上田正仁先生も、同じ問題意識を抱いたようだ。
大学で伸びる人、社会(大学院)で伸びる人とそうでない人を分かつものは何か。
それは、自分に対する評価基準が変わることへの「変化適応能力」の有無ではないか。
上田先生は、そう考えた。
「問題は与えられるもの」から、「問題は自分で設定するもの」へ
「問題には唯一の正解がある」から、「正解は複数あってよい」へ
「問題の解き方を憶えること」から、「新しい解き方を見つけること」へ
評価の基準が変わることに、思考の型が適応できるか否かである。
上田先生は、優秀さを三つの力の三層構造で整理している。
マニュアル力、考える力、創造力の三層である。
1)マニュアル力
答えが決まった問題を、速く、正確に解く力。 受験勉強にはこれが必要である。
2)考える力
ひとつの難しい問題を長時間考えつづける力。 大学はこれを求める。
3)創造力
自ら課題をみつけ、独自の解決方法をあみだす力 博士課程、社会はこれを問われる。


三つは相互に関連し、マニュアル力の蓄積なくして考える力、創造力は身につかないが、マニュアル力がいくらあっても、考える力、創造力は身につかない。
一般的には、マニュアル力の蓄積は日本人の強みだと言われる。しかし、考える力、創造力は苦手分野だとされている。
ではどうすればよいか。
上田先生は、「地図メソッド」と呼ぶ方法を提唱する。
あるテーマについて関連資料・情報を徹底的に集め、丹念に読み込んで理解し、相互の関係性を整理する。
そうすると自分の頭の中に「思想・理論の地図」が出来上がる。
地図があれば、辿り着くゴールと道筋が見えてくる。
更には、「情報を知恵に変える」営みも必要である。
上田先生によれば、収集→理解→選択→収集→理解→選択のサイクルをひたすら繰り返すことだという。
これは、河床の砂粒の中から砂金を見つけ出す作業に似ている。繰り返すことで、砂金の如き本質が残ってくる。
効率的な方法はない。ただひたすら繰り返すことしかない。
「古典に学ぶこと」も欠かせない。
それぞれの領域で、一時代を画す記念碑的文献を押さえることである。
物理学ならアインシュタインの相対性理論の原論文、ファインマンの量子コンピュータの原論文がそれにあたる。
そこには、未知の荒野を切り拓いた開拓者だけが辿り着ける哲学や思考の型が凝縮されている。
物理学史上最大の天才アインシュタインはノーベル賞を5つ貰ってもおかしくないほどの学問的功績があったと言われる。
しかし、アインシュタインの最大の偉大さは「あきらめなかった」ことだと、上田先生は言う。
彼は、大学受験に失敗し、大学に残れず、就活にも失敗して、友人のコネでどうにか特許局に潜り込んだ。
だが、物理学の夢を諦めずに、コツコツ研究を続けた。
彼と同じくらい頭のよい人間はいくらでもいた。だが彼ほど「あきらめなかった」人間はいなかった。
考える力から創造力へと突き抜けていくためには、「諦めない人間力」が必要なのだ。
諦めないということは、365日、24時間考え続け、走り続けることではない。
調子が悪い時、運が逃げている時は誰にだってある。そんな時にはどうするか。
これもアインシュタインの人生が教えてくれる。
無理をしなくてもよい、走れなければ歩いてもいい。でも歩くのを止めてはいけない。ゆっくりでも歩きつづける。志を失わないこと。
「諦めない人間力」とはそういうことである。

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