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夕学レポート

2014年07月29日

知的創造には、ダイジェストする力。阿刀田 高先生。

takashi_atouda.jpg今期の最終回にまさにふさわしいご講演でした。小説家 阿刀田高先生による『知的創造の作法』。
阿刀田高先生は、短編小説、なかでもアイデア小説の書き手、として知られます。これまでなんと900篇以上の作品を生み出してこられました。それからもうひとつ。難しい古典をやさしく、楽しく、ダイジェストする、”知っていますか” シリーズでも人気です。ギリシャ神話、旧訳・新約聖書、古事記、源氏物語etc。私自身、阿刀田先生のダイジェストのおかげでどれほどに古典の理解が深まり、世界が広がったことでしょう。
まさに、知的創造の達人。アイデアを探すプロフェッショナル。
そんな阿刀田先生がその作法を明かししてくださいました。
すごいことだなあ、と同タイトルの著書が出版されたときにも私はいたく感心しました。そして今回は、本に込められたメッセージの、さらなるダイジェスト、でした。ぎゅっと。
では、知的創造の作法とは何でしょうか。
ダイジェストする力
このひとことに尽きる。と私は講演から受け取りました。
知識を、目的にあわせて、自分なりにダイジェストし、自分の知識として蓄えておく。それがクリエイティブになるための、知的創造のための方法。
では、ダイジェストとは何でしょうか。
「知識」「目的」「自分」の3つが重なっているところ、だと阿刀田先生は解説されます。
『知的創造の作法』のP19に図が載っています。私は、「知識」X「目的」X「自分」=知的創造 のかけ算でもあるのかな、と思いました。
「知識」
ダイジェストする対象そのものです。当然、豊かであるに越したことはありません。けれども多ければそれでよいかというとそうではありません。役立っている知識や語られ信じられてきた知識というのは、案外とてもいい加減なんですよ。先生はそう添えられます。


例えば、「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」。秀吉・信長・家康が、実際にこれらの歌を読んだとは誰も思っていないですね。でも、3人の性格を実によく表している。歴史的事実を理解し推測するのにも役立ちます。知識とは案外そんなものです。だからこそ必要なのが、次の「目的」と「自分」です。
「目的」
どうダイジェストするかです。目的がないと生きたダイジェストにはなりません。自分なりの視点です。それに合わせて、自分なりに知識をダイジェストするわけです。
「自分」
自分なりの目的、自分なりの視点で、自分なりの分析、自分なりの解釈をします。自分なりのダイジェストであることが肝心です。つまり、自分がその知識と、どう関わるのかです。
阿刀田先生は、『アーサー王物語』『新トロイア物語』のような、歴史、史実を題材にした長編・短編小説も書いていらっしゃいます。『知っていますか』シリーズは、聖書や神話、古典を題材にしています。
「なぜ、それを私が、ダイジェストして新しい解釈を付加するのか」、つまり「自分」がそこになければ、「ダイジェストに励む甲斐はない」とはっきりとおっしゃいます。
なぜ自分がそれに関わるのか。
だとわかります。これは、小説を書くだけにとどまらず、どんな仕事をしていても、どんな活動をするにしても、言えることに違いありません。
さいごに。では、知的創造”的”になるためには、どうしたらよいのでしょう。
メモをとる。ダイジェストしてみる。毎日続ける。
日常の努力。

これらに尽きます。
もしかしたら、なあんだとがっかりされた方がいらしたかもしれません。がっかりされた方は、目から鱗の即効性あるヒントを求めていらしたのでしょう。けれども900篇のアイデア小説を生み続けてこられた阿刀田先生の結論、これ以上の説得力はないのではないでしょうか。そして、それだけに本質であることがわかり、私は感動しました。
さて。夕学五十講2014年度前期、最終回でした。
全25回、たくさんの皆さんにお越しいただき、ありがとうございました。改めてお礼申し上げます。と同時に。知的創造の作法のヒント、今日のお話をこれからどう活かし実践していくかが私たちのこれから。テーマがあり、先生がいらして、参加者の皆さんがいらっしゃる、場があり、時がある、これらに”私”がなぜ関わるのか、”私”が関わる意味は何か、それを加えられてこそ実現する価値をめざしていきたいと思います。皆さんどうぞ来期もぜひご期待ください。
知的創造の作法
方法論やヒント、具体的なお話、例がたくさんご著書に掲載されています。ぜひご一読ください。
慶應MCCのメインキャンパスでは少人数制の文化・教養講座『agora(アゴラ)』も開催しています。
この秋の阿刀田高先生agoraは、『短編小説と知的創造』。知的な探索をゆるやかに豊かに楽しむagoraです。どんなことについてもご存じで、お話くださり、どんな問いにもお答えくださる、阿刀田先生の教養の深さ・広さと、アイデアの豊富さには、つくづく感動します。とても楽しいですよ。ぜひお待ちしています。
(湯川真理)

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