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國領 二郎「ソーシャルな資本主義」

2014年08月12日

國領 二郎
慶應義塾大学総合政策学部教授、慶應義塾常任理事
講演日時:2014年1月28日(火)

國領 二郎

國領氏は、まずITにおける技術革新によって、「パソコン」の出現以来の大変化が進行中であると指摘しました。それは、インターネットで結ばれたネットワークに、パソコン、スマートフォン、車に搭載されたカーナビなどの様々なハードウェア(機器)が接続され、相互につながることで、新たなサービス価値が次々と生まれている状況のことです。すなわち、ネットワークとハードウェアが連動することで、パソコンが単体で機能する以上のサービス価値が生まれる経済になりつつあるということです。

卑近な例で言えば、「ラーメンが食べたい」と思えば、スマートフォンで、現在地周辺のラーメン屋をすぐに探し出すことができます。こうした便利なサービスが可能になった背景には、ラーメン屋のデータベースがどこかに存在していて、それとスマートフォンがネットワークで結びつくこと、また、スマートフォンのGPS機能によって自分の現在地点が認識され、その位置情報が最寄のラーメン屋の検索条件として利用されている、といった要件があります。まさに、ネットワークと機器が結ばれているからこそ実現可能なサービス価値です。

このネットワークでつながりつつある現在が過去とどのように違うのか、国領氏は、以前の状況を「切れていた近代」、今、そしてこれからの状況を「つながる未来」という対立構造でわかりやすく説明してくれました。

「切れていた近代」においては、大量生産された製品を大量に販売するモデルが主流でした。全国の小売店の棚に並んだ定価で販売される製品を消費者が選び、貨幣を支払い購入していく。したがって、売り手にとって、1人ひとりの消費者の名前を知ることはなく「匿名」の存在だったのです。

一方、買い手たる消費者にとっては、大量生産品を安心して購入するためには、信頼できるメーカーの製品であると確信できること、すなわち「ブランド」が確立していること、また品質や容量などのばらつきがないことがわかる、パッケージされた製品であること、定価で売られることなどが重要であったのです。

しかし、「つながる未来」においては、企業は製品を売り切る(所有権の移転)のではなく、利用権を与える、例えばカーシェアリングのように、複数の利用者で共同利用してもらうシェアリングのビジネスが台頭しつつあります。そこでは、企業は1人ひとりの個人情報の登録を求め、個客の名前をすべて把握するという「顕名」でのビジネスとなるのです。

そしてまた、取引の仲立ちの役割を果たすのは必ずしも「貨幣」に限らず、お互いになんらか相手に役立つ「もの・ことを交換しあう「互酬」の社会も成立しうるのが「つながる未来」です。

また、「切れている時代」においては、前述したように製品を売り切ること、すなわち、メーカーから消費者へと「所有権」が移転していたのに対し、所有権ではなく「利用権」を販売するビジネスが可能となったのが「つながる未来」です。

例えば、電子書籍は、従来のように、書店で購入し自らの所有物とするのではなく、書籍の利用権(閲覧する権利)を購入する取引です。(したがって、仮に企業側の事情でサービスが停止されたら、利用権を購入しただけの電子書籍は読めなくなることが起こりえます)
このように、ネットワークを通じて多種多様なハードウェアが結びつき、相互に情報がやりとりされるようになったことで起きている変化は、単なる技術レベルのものではないのです。従来の「匿名大衆への大量生産大量販売モデル」から、「つながっている個客への継続サービスモデル」への移行であり、國領氏曰く「21世紀型産業モデル」への大転換を意味しているのです。

さて、國領氏によれば、「つながる未来」においては2つの大きなインパクトがあります。一つは「可視化(見える化)のインパクト」、もう一つは「創発性のインパクト」です。

「可視化のインパクト」では、ネットワークにつながれた多様な機器(PCやスマートフォンなど)を通じて、蓄積された利用者の様々なデータを分析することで過去がわかるという点が挙げられます。

さらに、様々な場所に設置された機器で探知されたデータがネットワークを通じて集約されることで、現状をリアルタイムに見ることができます。例えば、自動車や道路のあちこちに設置されたセンサーを通じて位置情報が吸い上げられることによって、現在どこに渋滞が発生しているかの把握が可能です。しかも、個々の車がどこに向かっているか、という今後の動きも加味することにより、今後渋滞しそうな場所を予測することができ、未来も見られるのです。

このように、「つながる未来」における可視化は、私たちの社会の過去、現在、未来を詳細、正確に認識、あるいは予測することを可能にするということです。これは、複数の異なる種類のデータが結びつく、また時系列で結びつくことでその情報の価値が高まることでもあります。

ただ、可視化についてはプライバシー問題が関わってきます。例えば、電力会社は、電気利用量の変化を見ることで、各家庭がいつ留守にしているかをリアルタイムで知ることができます。利用者にとっては、情報を提供することで、知られたくないことがあからさまになってしまうのです。したがって、企業としては、利用者からの「信頼度」を高める努力が必要だと、國領氏は指摘します。

もう一方の「創発化のインパクト」とは、多様な主体が協働しあい、様々な要素が絡まりあい相互に影響しあう中で、思いもしなかった新たな価値が生まれることです。國領氏は、創発のプロセスが円滑に行えるような「プラットフォーム」、すなわちコミュニケーションの基盤となる道具や仕組みづくりの大切さを説きます。

プラットフォームをつくることは、ビジネスにおいては、できるだけ多くの企業のシステムとうまく連動して、協働しやすい仕組みを構築することです。そうすることで、創発的な価値創造生態系の盟主になりえます。つまり、企業単体として生き残りを図ろうとするのではなく、様々な企業と相互に連携しあいながら、大きなひとつの「生態系」としての戦略を実践することが求められているのです。

「切れていた近代」から「つながる未来」への大変化が起きつつある今、企業として、また個人としてどのような戦略を立てるべきか、とても示唆に富むお話でした。

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