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夕学レポート

2016年07月28日

次世代のニュースメディアのあり方 水島宏明教授

photo_instructor_833.jpg父親が死んで、まず新聞をとめた――。講演中に水島宏明教授が仰った言葉である。かく言う私も、父が死んだあとすぐに新聞をとるのをやめた。家族の中で父しか読む人がいなかったからだ。このようなケースはわりとあるそうで、新聞読者の多くは高齢者であり、発行部数は減少傾向である。
うってかわって、現代の若者は日々のニュースはスマホで読んでいる。これまでは、新聞やテレビでチェックしてきたが、今となってはヤフーなどで新聞社や出版社から配信される記事や情報を多面的に入手できるようになった。教授曰く私たちは現在「メディアの大変革期」にいる。そこで、直面している問題が大きく二つにわけて「ジャーナリストのあり方」と「ニュースメディアのあり方」である。

ジャーナリストのあり方

ジャーナリストと聞くと、どういう人物像が浮かぶだろうか。強い信念があって、とことん事実を追求する人たち…。かつてはそうだった。しかし、ネットの普及により、最近は記者の質が低下してきているという。例えば、今年の2月に報じられたイクメン議員の不倫騒動。フジテレビはウラを取らずに「週刊文春はこのように報じています」と報じた。不倫が事実だったから良かったものの、一歩間違えれば誤報になった可能性がある。
他にも舛添氏が都知事を辞任した際に、「次の都知事は?」とテレビで街頭インタビューに答えていた女性が、とあるNGOの職員によるサクラではないか?という疑惑がネットに流れ、その事実無根の噂を産経新聞が記事にしてしまった。以上のことは、ネットの普及により、記者が「現場」を軽視していることが原因で起きていると教授は指摘された。昔は「ガンクビ探し」と言って、容疑者の写真や聞き込みなど、記者が現場に足を運んでいた。しかし、今は違う。情報はSNSから拾ってくるのが主になっている。これでは、現場に赴き人の話を聞くことで養われる取材勘や想像力が身につかない。現代のジャーナリストのあり方に水島教授は疑問を投げかける。
そして、この取材勘や想像力の欠如がNHK「クローズアップ現代」のヤラセ問題を引き起こしたのではないかと考えていらした。世間で議論されるのはヤラセかどうかだけであり、「なぜ、ヤラセが行われたか?」についてはBPOも総務省もその背景には踏み込んでいない。これでは問題解決に至っていない。なぜヤラセは起きてしまったのか?理由として挙げられるのは、経費削減などの取材の効率化目的。そして、組織内の点数稼ぎではないかと仰った。従来の記者は「事実に教えられ」「事実が自分を鍛えてくれる」という経験をしているからこういうことはしなかった。しかし、時代を憂いていても仕方がない。事実を伝える大事さを教えていかなくてはならないのだ。

メディアのあり方

また、今回のお話で「メディアのあり方」について新しく気付かされた点があった。私はテレビの表現は挑戦的なものからマイルドなものになってきていると感じていたし、脚本家の大石静さんの講演でも「3.11以降、テレビは複雑で不条理な人間関係を描くよりも人情話が増えた」と仰っていた。しかし、水島教授によると最近のテレビは行き過ぎた表現が多いとのこと。「テレビが弱い立場の人、心が弱い人をケアするのは基本的な原理」とし、2014年に放映されたテレビドラマ「明日、ママがいない」を例として、他者への想像力の大切さを説明してくれた。
ご存知の方も多いと思うが、このドラマは児童養護施設の子供への加害性があるとして、協議会や里親会による抗議によってスポンサーが降板した。実際に、教授が取材したことある児童養護施設出身者の方は、記憶がフラッシュバックしてしまい、リストカットに至ったという。正直に言うと、私はこの降板劇を反対側から見ていた。つまりは、クレームでスポンサーを降りるのは、企業の過剰対応ではないか。表現の自由の自主規制になってしまうのではないかと考えていたのだ。しかし、お話を聞いて、別方向の視点で見ればまた違った世界なのだということ痛感した。
「明日、ママがいない」のスポンサー降板劇からもう一つ言えることは、個人の発信がテレビ等のメディアに影響するということだ。今年の3月には「保育園落ちた日本死ね」という言葉が匿名ブログで発信された。これを一部のテレビが取り上げたことによって、拡散され、ついには国会前でデモが起きた。ネット出現前のマスメディアは受け手に流す情報を取捨選択する”Gate Keeper”であった。しかし、ネット出現後はSNSなどの発信により、「個人の声」が社会を動かすことができるようになり、”Gate Keeper” としての役割が弱くなってきている。以前のメディアは一方向に情報を伝えるだけであったが、今では双方向のコミュニケーション、教授曰く「つながる時代」へとメディアもシフトしつつある。
現代の若者は「マスコミは煽るもの」だというネット言説に惑わされている。つまりは、テレビや新聞は偏った情報を伝えるものであり、不信感が漂っているという。そんな時代にジャーナリストとして体験してきたことや、事実を追求すること大事さを伝えていきたいと結びの言葉とされた。

ほり屋飯盛

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