夕学レポート
2005年05月18日
企業が善くならなければ、社会はよくならない 「経営革新のためのCSR」梅津光弘さん
JR西日本福知山線の悲しい事故の記憶も新しい中、きょうの夕学は「企業の社会的責任(CSR :Corporate Social Responsibility)」がテーマでした。講師の梅津先生は、慶應の文学部を卒業後、米国で企業倫理学のPh.Dを取得し、いまは商学部に所属されています。倫理学という人文科学の真ん中から生まれた学問が、企業経営の最前線のトピックになるところに企業倫理やその隣接領域であるCSRの奥の深さがあるのでしょうね。
講演は、やはり事故の話題からはじまりました。Responsibilityという言葉が [“Response”:応答する]という語彙を持つということは、CSRとは「社会の期待に応えることが企業の責任である」という意味になります。「・・・問題視されているJRの過密ダイヤも周辺住民の増発・スピードアップという期待に応えようとした過剰な企業行動の結果という側面もあるかもしれない。CSRは、企業に何をどこまで期待するのかという私達の意識と社会の期待にどこまで応えうるのかという経営サイドの判断とが複雑に交錯した、一筋縄では括れない問題をはらんでいる。・・・」梅津先生がそうおっしゃったのが印象的でした。
梅津先生は、研究者・教育者であると同時に、企業の倫理規定の策定や社内教育にも積極的に関わっているので、日本企業の企業倫理への取り組み状況に精通しています。そんな梅津先生から見ると、日本企業の取り組みは「形式は整ったが態勢はこれから」とのこと。
倫理コードも作成した、専門部署も設けた、立派なCSR報告書も出来た。でもそれを適切に運用できるかどうかはこれからの努力にかかっているという評価だそうです。
確かに倫理コードはコンサルタント会社に丸投げ、組織が出来ても専任は一人だけ、CSR報告書は広告代理店に発注なんていう会社もあります。もちろん何もやらないよりはいいのでしょうが。
「例え最初はA4-2枚のCSR報告書であっても、年を重ねるごとに中身が充実し立派な冊子に変わっていけばよい。いきなり無理をして見栄えのいいものを作らなくてもいいんです」という言葉に、時間をかけてでも企業倫理を浸透させていきたいという真摯な想いが感じられました。
企業倫理に関心のある方は梅津先生も中核メンバーである「経営倫理実践研究センター」の活動をご覧になったら如何でしょうか。
また、慶應MCCでも梅津先生が講師を務める「ケースメソッドで学ぶ企業倫理」というプログラムが6月に開催されます。企業倫理やCSRの教育は各企業の独自性や業界特性を反映したものでないと効果がないそうです。その会社の裏も表もしった人間が手作りで展開するのが一番いいとのこと。そんなリーダーを育成するプログラムです。
がっちり勉強したい方は梅津先生の下記の書籍をどうぞ。
『ビジネスの論理学』 『ハーバードのケースで学ぶ企業倫理』
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