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夕学レポート

2011年04月13日

「人口の波」が日本を襲う 藻谷浩介さん

東日本大震災で、我々が強烈に思い知らされたのは、巨大な「波」の力であった。
先人達によって語り伝えられてきた知恵と近代科学技術の集積(と信じてきた)多くのものが、巨大な津波に飲み込まれ、流れ去っていく光景を目にした時、圧倒的な「波」の前に、多くの人々が無力感を感じたのではないだろうか。
藻谷浩介氏は、津波とは異なる、もうひとつの「波」が、日本列島全体に押し寄せている、否、すでに飲み込まれつつある、と指摘する。
photo_instructor_551.jpg
それが「人口の波」である。
一瞬にうちに押し寄せ、引き去っていった海の「波」とは違い、「人口の波」は、100年という長い年月をかけて、ひたひたと押し寄せている。それゆえ我々は、「波」の到来に気づかない、いや「波」の恐ろしさに鈍感にならざるをえない。
海の「波」は、押し寄せると同時に、破壊をはじめたが、「人口の波」は、最高到達点に達するまでは、破壊ではなく、創造と発展をもたらしてくれた。ある局面までは、天恵であった。
ところが、一線を越えた時に、巨大な引き潮となって、衰退という黒い海原へ人々を引きずり込んでいく。
「人口の波」は、いま(2011年)最高到達点に達しつつある。
巨大な引き潮が、日本経済を飲み込み始めている。
藻谷さんの指摘は、そういうことではなかったか。
「引用はご自由」にというお言葉をいただいたので、藻谷さんが使用された12枚のスライドを下記に添付する。
人口の波(藻谷浩介氏発表資料より引用).ppt
スライドショーにして、最初のページから「Enter」キーをポンポンと叩いてみて欲しい。
パラパラマンガのように「人口の波」が左から右へと押し寄せていくのが分かるであろう。


最も大きな「波」は、団塊世代を表す。
1枚目は70年前の日本の人口。日米開戦前夜の日本は、年齢が若いほど人数が多いという、典型的な発展途上国の人口構成であることがわかる。平均寿命が短いうえに、明治維新以降、一貫して出生数が増え続けてきたことが理由である。
2枚目は60年前の日本である。戦争が終わり、平和の到来とともに、出生数がポンとはね上がっている。団塊世代という「人口の波」の発生である。
以降のスライドも10年きざみで、波が動いていくことを表している。
4枚目のスライドは1970年である。団塊の世代は20歳を越え、15歳~64歳の生産年齢人口に入った。これに伴い生産年齢人口は大幅に増加していくことになる。波の頂点が、現役世代ゾーンに突入し、日本に創造と発展をもたらしたのである。
6枚目、1990年の日本はバブル時代であった。団塊ジュニアが第二の「人口の波」として、現役世代に加わり、微増ながらも生産年齢人口は増え続けた。ふたつの「波」の存在がそれを可能にした。
二つの「波」は、加齢とともに性向を変えつつも、50年に渡って、日本列島を覆い尽くし、古くて貧しい日本を押し流し、新しくて豊かな日本を創造した。
生産年齢人口が増えるにしたがい、生産力が向上し、消費が増加し、さらなる生産力の発展へと歯車が回り続けた。
現在の状態は8枚目のスライド。団塊世代という人口の波が、現役引退寸前にところまで到達した。いうなれば、波の最高到達点であろう。
すでに、生産年齢人口の減少がはじまっている。ついに引き潮に変わったのである。
9枚目から12枚目のスライドは、2020年から2050年までの日本である。団塊に続き、団塊ジュニアが現役を退き、巨大な引き潮に掠われている日本が図示されている。
上記が、100年間の「人口の波」である。
さて、引き潮に変わろうとしている「人口の波」は、何をどう変えるのか。
まずは消費の衰退である。
高齢者となった団塊世代は、これまでのように消費をしなくなる。この影響は、景気循環的な動きを駆逐する巨大な引き潮となって日本を襲おうとしている。規制緩和をして商業施設を増やしても、この波には逆らえない。逆に効率を悪くするだけである。
一方で、技術革新が、労働人口の減少を補い、供給力は維持される。かくして起きるのは、過剰生産→過剰在庫→価格の値崩れ→企業の利益率が低下→人件費抑制→さらなる消費が低迷の負の循環サイクルである。これがいまの日本が直面している経済停滞である。
「人口の波」は、金融資産の死蔵を増長される。日本の金融資産の多くを持つ高齢者は、資産を持ったまま長生きし、高齢者となった子供に移譲する。子供も同じことをする。
「人口の波」は、社会福祉費用を増大させ、財政に逼迫を招く。
いつの日かハイパーインフレが起きてしまうと金融資産の価値が消失しかねない。
では、「人口の波」にどう対峙すればよいのか。
藻谷さんは、「スイス化、北欧化」を目指せという。
スイスの高級時計のように、ハイセンス・少量生産・高価格の地域ブランドを作り上げて独自の道を探すことだという。
中高年の退職で生じる人件費の余剰を、若者の給与引き上げや女性の雇用に回して、内需の維持をはかることも大切である。
しかし、本当に必要なのは、すぐに処方箋を求めたがる、我々の思考法を変えることだと言いたいのではないだろうか。
「人口の波」が引き起こしてきた(引き起こすであろう)事実に目を凝らしたうえで、自分の拠って立つ場所に思いを致せば、それぞれが取るべき道は見えてくる。それが実現できている企業は、いまも、そしてこれからも、成長できる。
藻谷さんのささやくような講演を聴きながら、そう思った次第である。
この講演には、11件の「明日への一言」が寄せられました。
みんなの-明日への一言-ギャラリー/4月13日-藻谷-浩介/

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