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「キャリアの術と道と論」鈴木美伸

2011年03月07日

プロフィール

半導体製造装置企業にてセールス・エンジニアを経て人事採用業務に従事。米国ITコンサルティング企業の日本法人採用責任者へ転職し、MBA採用、エンジニア採用に携わる。現在は採用コンサルタントとして活動しながら、全国の大学で就職支援、キャリア教育を通じ、大学生のキャリア形成を支援している。雇用政策の研究で通学していた大学院では、今春から特任教員の使命を受けて喜んでいたが、同時に退学勧告(学生と教員の同籍は不可とのこと)を受け、キャリアのアップダウンを日々実感している。自称『犬も歩けば棒に当たるキャリアの実践者』である。米国CCE,Inc.認定 GCDF-Japan キャリアカウンセラー。

 

キャリアの漂流と戦略

それは10年前、唐突にやってきた。

「俺の言うことが聞けないか!会社にやれと言われたら何でもハイと言うもんだ!よく考えろ!」

新卒で就職した企業の人事部長室で、異動の内示を断ったときに投げられた言葉だ。
3日間考えてから結論を出した。

「良く考えました。どうしても異動ということならば、ここを辞めます。」

再び人事部長の怒号がとんだ。

「辞めるとは何事だ!俺がせっかくお前の出世を考えてやっているのに!」

振り返ってみれば、あれが「キャリア」という言葉を私が初めて意識したときだろう。突発的で衝動的な言動だった思う。しかし、キャリア自立のきっかけは、準備万端整ったときにやってくることはない。大切なのはやってきたきっかけを活かすことだ。理由や言い訳は後からつければいい。

転職先も決めないままに、やや気楽にキャリアの旅に出た。率直にいえば、キャリアの漂流者である。有り難いことに、在職時に縁のあった業者から、コラム執筆や大学での講演の仕事の誘いをうけた。「捨てる神あれば拾う神あり」だ。

お気楽フリーランサーを気取っていたある日、外資系ヘッドハンターからの誘いがあった。いくつかの会社を紹介されてからサンフランシスコ本社のベンチャー企業に決めるとき、自分の中で企業選択のポイントを考えていた。コアとなる人事の仕事は譲らない。しかし、新たな分野にもチャレンジできること。これが社会における自分の初めてのキャリア戦略だったろう。

前職と同じ仕事へ転職することの方がリスクは少ない。しかし、それでは自分のキャリアの進化もない。自分のコアのキャリアの方向性から30度位はズレた分野がいい。90度転換したいなら、社会人大学院等で学び直す必要がある。

その考えは正しかった。タイトルはリクルーティング・ディレクター。日本法人立ち上げのための人材調達がミッションだ。人事の仕事とハイテク業界には慣れ親しんでいた。一方で、ハードウェア中心の業界(製造業)からソフトウェアの業界(サービス業)への転換には、新鮮な驚きが多く、全米トップのMBAリクルーティングなどは刺激的だった。

英語には苦労したが、米国西海岸の文化は東海岸とは違って開放的で楽しかった。自分の成長と会社の成長が同時に感じられる時期だった。瞬く間に2年が過ぎ、そして突然にITバブルは崩壊した。米国本社では1週間で700人がレイオフされ、やがてその波は日本にもやってきた。

そして、私はこのタイミングで起業を決めた。日米企業でのサラリーマンから、本当に社会における自立である。
『キャリアアーキテクチャ論』に出会ったのはそんな時だった。

キャリアの「術」と「道」

『キャリアアーキテクチャ論』はキャリアにおける各分野のオールスターの共演だった。スーパーカーブームのように二度と開催できるものではないかもしれない。
そして、そこに集うメンバーも愉快だった。肩書きを見ると、やはり企業内キャリア形成の担当者が多かった。しかし、ワークショップや飲み会を通じてわかったのは、自らの意志・興味で参加した者が殆どで、しかも衝動的に申し込んだ者が意外に多かった。キャリアには直感に基づく行動も必要なのだろう。

『キャリアアーキテクチャ論』という言葉をきいたとき、アーキテクチャ(建築術)という言葉が気にいっていた。奇遇だが、前職の米国企業では戦略ビジネスコンサルタントの職種を「ビジネスアーキテクト」と呼んでいた。夢や理想の上流戦略だけではなく、それを実現するための具体的な技術まで提供してシステムを開発する。何かキャリアと共通するものがある。キャリアは実現されてこそ意味がある。

「術(じゅつ)」は生きるための術(すべ)である。ゆえに術というものは、実用的ですぐに役立つもの、秘伝のノウハウというニュアンスがある。それは多分に個人的で独善的で自己流だ。
数多くの術を身に付け、それを究めて世の中を渡っていくと、いつか哲学やライフスタイルになり、やがて日本人の好きな「道」となる。剣術が剣道に、柔術が柔道になったのも同じことだ。

「術(architect)」はいつか「道(way)」になる。
キャリアアーキテクチャ論の恩師である金井教授に授けられた「持論」と「理論」の視点とはこのことかもしれない。理論に基づきビジネスのように「あるべき姿」を描いて進むのも良い。しかし、ビジネスと違ってキャリアは着いたところがゴールでも構わない。

持論から理論に辿り着くのは面白い。しかし、理論から導き出される持論はつまらない。
理論を駆使し、お作法にこだわるキャリアの研究も良い。しかし、美術館や博物館のガラスケースに並ぶ完成した装飾品よりも、いまだ試行錯誤で建築中のサグラダ・ファミリアの方が私には魅力的に見える。キャリアは進行中だからこそまた意味がある。

キャリアアーキテクチャ論はいまだに建築中

この講座の修了後、気の向くまま好き勝手にいろんな分野に取り組んだ。起業した当初は、ITコンサルティングが主であったが、徐々に人事採用コンサルティングとなり、やがて大学での就職ガイダンス・キャリア教育の領域が増えてきた。大学非常勤講師の職場はこの春で6校にもなった。

そして、『キャリアアーキテクチャ論』を受講して8年目になるいま、あの時に学んだことや考えていたことを振り返ってみると、相当に視点も指向も変わってきている。しかし、こうして未だにメンバーとの交流が続いていることは変わらない。これまで数多くの研修を受講してきたが、終了後、これだけ縁が続いたものは他にない。サグラダ・ファミリアと同じく、仲間とともにこちらも未だに建築中だったのか。いや、ガウディの理想は常に進行状態であるもの、という気にすらなってくる。

それぞれの者が、それぞれの術をもち、それぞれの道を行き、そして再びここで語りあう。
その物語集を「論」と呼ぼう。そう、『キャリアアーキテクチャ論』はまだ続いていたのである。
それぞれの「術」は、いつかそれぞれの「道」になり、それはやがて「論」を成す。
こんなことを考えながら、『キャリアアーキテクチャ論』10年目を仲間と共に仕上げられたら満足だ。
その先にまた新たな道が見えてくることを期待しながら。

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