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「10年目のリフレクション」松尾 順

2011年05月09日

プロフィール

1964年、福岡県生まれ。早稲田大学商学部卒。
大学卒業後は旅行会社に入社し、団体海外旅行の営業や添乗の仕事をやるも、2年足らずで挫折。次の就職先のあてもなく退社し、フリーターという言葉がまだなかった時代に、フリーターを短期間ではあるが経験した。ところが、アルバイト生活の厳しさにすぐに直面し、早々に再就職したのがマーケティング・リサーチの会社だった。その後、シンクタンク、広告会社、ネットベンチャーなどを経て、現在は独立。マーケティング・リサーチ、Webサイトの企画・開発など、マーケティング系の業務に加えて、キャリア・コンサルティングも行なっている。

 

第一章:10年前、自分は何を考えていたか。

私は2001年2月に独立した。独立は長年の夢であった。しかし、大志を抱いてといったものではない。組織の一員として行動することに限界を感じたためであり、組織から押し出され、独立する以外の選択肢がなくなったというのが現実である。

独立後の仕事内容は、それまでの経験を活かして、マーケティング・リサーチ、Webサイトの企画、設計、ディレクション、マーケティングプランの企画、ITシステム系の上流設計など。一言でいえば、「マーケティング系の仕事」である。

一方で、キャリアデザインに興味があった。自分自身、20代の頃から自分のキャリアをかなり真剣に考えてきた。そして、中小企業診断士の資格取得を目指した25歳くらいの頃から、毎朝4時起きで勉強の時間を確保し、また、キャリアを拡げるための転職を何度も重ねてきたからである。(今思えば、かなり無謀な転職もしている。結果的に幸運であったとしかいいようがない)
そして、独立後は、事業領域は自分の裁量で自由に広げられることから、主軸のマーケティングに加えて、キャリア・コンサルティングを新規事業として取り組みたいと考えた。そして、キャリアカウンセラーを指して学習を始めたのである。

キャリアアーキテクチャ論の受講もその一貫であった。当時のキャリアの第一線の研究者や実務家が登場するキャリアアーキテクチャ論は、とても魅力的で(実現可能なラインアップなら、現在でもキャリアの最前線にいらっしゃる、最も魅力的な講師陣である)絶対に受講すべきだと考えた。なぜなら、この講座は、私のキャリアデザインの知識、そしてキャリア・カウンセリングの技術に深みを与えられると期待できたからである。結果として、この期待は十分以上に充たされた。キャリアデザインの全貌が把握できたし、今後、キャリアデザインに関わる知識・技能をどのように深めていけばよいかの方向性も見えたように思った。

キャリアアーキテクチャ論修了後も、キャリアアドバイザー講座などの関連講座を受講した私は、キャリア・カウンセリングの仕事を本格的に展開する予定であった。最終的には個人に対するキャリアデザインの設計を支援したいと考えていたが、当面は法人向け需要が大きく、そちらに力を入れることも念頭に置いていた。そして、現時点でもまだ、個人向けの需要は十分に高まっているとはいえない。厳しい経済環境では、立ち止まって考えてみるキャリアデザインよりも、まず目先の仕事・収入確保という意識が高まっているようである。

第二章:この10年、自分はどのようなキャリアを歩んできたか

さて、日本は「失われた10年」、さらに延長されて「失われた20年」と呼ばれる景気停滞期が続いてきたが、私の専門とするマーケティング・リサーチやWebサイト企画・設計といった分野は、IT技術の進展が急激であり、むしろ様々な案件が発生し、おかげさまで様々な業務に関わることができた。この背景には、90年代半ばに本格商用化が始まったインターネットに純粋な面白さを感じ、ITやインターネットとマーケティングが交わる新しい分野に、積極的に業務に取り込んできたことが奏功したと思う。

とはいえ、マーケティングの世界も本当に高度化・複雑化して企画・運営が大変になってきたという現実がある。昔はマスメディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)を軸に考えれば良かった。ところが現在は、インターネットメディアやツールが星の数ほどあり、どれが最適なメディア、ツールであるかを見極めること、そして限られた予算を多種多様なメディアにどのように最適配分すべきかを考えるのは、気が遠くなるような複雑な思考と作業を必要とする。

また、大局的に社会全体、そしてマーケティングの直接の対象である消費者・顧客の動向を眺めてみると、個人の我欲を超越した社会的貢献、さらに言えば地球的貢献という意識が大きく高まってきたことを実感している。とにかく小手先のテクニックを駆使して、人間の欲望を都合の良いように煽るマーケティングはもはや受け入れられなくなってきているのだ。

私としては、以上のような仕事環境の変化に必死でついていこうとしてきてはいる。しかし、残念ながら、例えば「携帯系のメディア・ツール」などには、自分自身で積極的に取り組んでみて、利用方法をマスターすることが難しくなってしまった。そもそも、なんとかして使いこなしてやろうという意欲がなかなか出なくなったのである。要するに、こうした新しい機器を易々と使いこなす若い人にはもはやついていけないということだ。したがって、残念ではあるが、これからも次々と登場すると思われる新しい機器は、そうした新しい機器ネイティブで抵抗感のない若い人たちに任せるしかないだろう。

そして、私はといえば、「心理学」、および「英語」という2つの切り口とマーケティングを組み合わせた2つの新たなコンテンツ、すなわち、「マーケティング心理学」、および「英語で学ぶマーケティング」を開拓・体系化し、次世代のマーケッターの育成にこれからのキャリアを捧げたいと思っている。

ちょうど今年(2011年)で、独立して10年になる。会社勤めしていれば、何はともあれ、毎月の収入がある程度約束されているのと違い、個人経営の収益は不安定である。しかし、実のところ、大会社でも収益は上下動を繰り返しているが、会社として短期借入金などによって一定のキャッシュフローを確保し、社員個々の給料に影響を与えないようにしているだけなのである。(本当に経営厳しくなると、そうもいかなくなるが・・・)

しかし、個人経営だと、会社の収益と自分個人の年収が完全に連動してしまう。自分の給料は会社から出ているのではない、実質的にはお客さんが出してくれているということを実感せざるを得ない。そして、明白な因果応報があり、やるべきことをちゃんとやれば良い結果になり、ちょっとでも手を抜けば悪い結果が返ってくる。また、前述したように、会社全体の事情で、特定の事業領域に縛られることはなく、自分の判断で柔軟に事業内容を変化させていくことができる。誰にも責任を転嫁できないものの、自らが最終決定者として、経営の道筋を決めることができる醍醐味は素晴らしいものである。

考えてみれば、人は皆、自分という人生の経営者であり、自分のことは自分で決めるしかない。いや、自らの判断で決めるからこそ、人生の醍醐味が楽しめるのだ。この10年での最大の学びは、自己責任・裁量で決定することの醍醐味を知ったことだと言えるだろう。

第三章:10年後のいま、自分は何を考えているのか

今の私にとっての「キャリアの持論(「自論」に置き換えてもよい)」はふたつある。ひとつ目は、キャリアデザイン、つまりキャリアの設計をすることは必要だが、普段は適当に流された方がよいということだ。神戸大、金井壽宏先生の説く「キャリアデザイン&キャリアドリフト」である。

数年に1回、立ち止まって、来し方を振り返り、これからの道筋を考えてみるのは極めて大切なことだと思う。ただ、キャリアデザイン時に作成した計画・設計書のたぐいは、アルプス山中で迷った人が持つ「ピレネー山脈の地図」のようなものである。
地図そのものは、たいして役には立たない。キャリアは、いや人生は、自分の思い描いたようには決して展開しないから、計画にこだわりすぎてはいけない。状況の変化に応じて、自分の考えや行動を柔軟に変えていくほうがよい。ただし、地図があることによって、大きな方向性はぶれない。そして、地図があるからこそ、勇気をもって先行き不透明な中、前に進んでいける。だから、地図=キャリアの計画は絶対的に必要であるのだ。

ふたつ目は、まさに、明確な「キャリアの持論」を一人ひとりが持つことが、よいキャリアづくりに大きな役割を果たすという点である。自分にとって、仕事とは何なのか、人生において、仕事はどんな位置づけにあるのか。仕事を通じて自分は何を成し遂げ、また、どのように成長したいのか。こうした、キャリアに対する基本的な考え方が明確な人は、着実に前に進んでいける。

各人が持つべきキャリアの持論とは、端的に言えば、キャリアにおける「使命(キャリアの目的、自分の「命」の望ましい使い方)」、「ビジョン(理想像、将来こうなりたいというイメージ)」、「価値観(判断基準、行動基準)」のことである。これがスパッと明快に言えるなら、キャリアの持論を既に持っていると言える。そして、キャリアの持論の後には、具体的なキャリアの目標(長期・短期)、行動計画、評価方法といった、従来のキャリアデザインで行われてきた作業が続くのだが、大事なのはまずキャリアづくり基礎となる持論である。すなわち、キャリアの「グランドデザイン」である。

私自身も今ちょうど、グランドデザインに再修正を施し、新たな第一歩を踏み出したばかりである。そんな時期に、こうした貴重な内省(リフレクション)の機会を与えてもらったことに、大いに感謝しています。ありがとうございます!

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