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プロフェッショナリズム再考

2011年09月13日

伊藤良二
慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、横浜市立大学客員教授、株式会社プラネットプラン代表取締役

1.日本の現況に思うこと

 日本の将来に輝かしい未来が待っていると自信をもって答えられる人がどれだけいるだろうか?首相は日替わり定食のように変わるし、政権政党からも国際的視点をもった中長期的な日本のとるべき戦略構想は聞こえてこない。となれば個人の能力を高めて、せめて自分だけはなんとか生き残って行こうと思う若者のニーズに呼応するかのように、書店にはノウハウ本やスキルを高めるための書籍が並ぶ。確かに長年にわたって引き継がれてきた政治体制を一挙に変えることは難しい。しかも”政治は二流、経済は一流”などと海外から揶揄されてしまうように、日本の場合には人材面でも経済分野に優秀な人材が流れているのは実態のようだ。だとすれば、日本の企業に日本経済を牽引していってもらいたいと願うのだが、日本企業の舵取りに依存するシナリオで大丈夫か?経済がますますグローバル化していく中で、日本企業はその国際競争で生き残りかつリーダーシップを発揮していくだけの勝ちパターンを見出しているのだろうか?いやそこまで考えを進めなくとも、仮に国内にとどまっていたとしても、今の日本の経営で輝かしい日本経済の未来が見えてくるのだろうか?

 昭和50年代、そこには井深大と盛田昭夫の”日本の技術を世界に”と志す経営者に率いられたソニーがあった。技術のホンダを自称する本田宗一郎と藤沢武夫に率いられたホンダがあった。世界に冠たる企業を創るリーダーの気概とそれを支えるサムライ軍団がそこにいた。時代が違うとはいえ、いま同じような高揚感と期待感を持って日本の将来を託そう、と確信出来る日本企業はいったいどのくらいあるのだろうか?

2.プロフェッショナリズム再考

 先日、ある企業の依頼で”プロとは”というテーマでお話をした。そのテーマを討議するうちに、前述した現在の日本企業が抱える問題の根源は、プロ人材が圧倒的に少なくなってきていることにあるのではないかとの危惧を抱いた・・・心細い限りである。

 ここでいうプロとは、

  • 卓越した知見と技量に加えて
  • 高い志と向上心をもって
  • 常に顧客の期待に応えようと研鑽し
  • 期待以上の結果を残すことによって
  • 顧客を魅了し続ける仕事師
  • そして・・その仕事に見合った対価を受け取る人達というのが私の考える定義だ。

 プロである以上、卓越した知見と技量をもって、事に臨むべきであるし、高い志をもって組織を引っ張っていってもらいたいものである。もし知見・技量が足らないならば、必死で勉強する姿勢が欲しい。企業経営も本来、プロ集団によって舵取りがなされるべきである。社会の公器として地域社会も含めたステークホールダーへの影響も大きく、従業員の生活を支えているわけだから、その重責を問うて余りある。

 一方、プロに関する討議の中で、プロに向かない人というのはどんな人だろうかという話題も上がった。いくつかを例示すると以下のような人たちだ。

  • お客様(政治家ならば国民)より自分のこと(名声・地位向上)が大事な人
  • その”仕事”よりその”キャリア”に興味のある人
  • オーナーシップのない人
  • 自律心に欠けてる人
  • 苦労をいとう(厭う)人・・効果より効率重視
  • Go Extra Mile(究極の努力)をできない人

 確かに、世界環境が大きく不確実性を増しつつある昨今、プロとしての姿勢を貫いていくことは政治家であれ、経営者であれ、大変なことと思料する。しかしながら、自分の票獲得を最重要事項として政治活動に邁進する政治家や自身の任期中は大過なく過ごすべく10年先のあるべき姿の追求よりは既定路線の踏襲を重視する経営者が散見されるにつけ、いわゆる”高い志をもって事に当たる”プロフェッショナリズムの追求が、益々重要性をもってきているように思われる。企業も創業経営者が元気な時代は、彼らの企業哲学が事あるごとに組織の隅々までいきわたり、企業の羅針盤としての役割を果たす。しかし時代を経るうちに、企業としての目指すべき方向と高みが組織内で共有されにくくなり、徐々に組織としての活力が失われていくリスクが上がっていく。この際に重要なのが、組織の中でプロフェッショナリズムの醸成が時を超えてなされているかである。

 プロフェッショナリズムが組織に根付いているか否かの判断に有効な分かり易い例を挙げてみよう。仕事柄、いろいろな企業の事業計画や戦略案を拝見する機会が多いが、よく見受けられるものに以下のような表現がある。

  • の検討
  • を推進する
  • の達成
  • の活性化
  • の強化
  • の充実
  • に注力

 戦略課題解決をやりきる、という視点からみると、いずれの表現も解決に向けての打ち手が具体化されていないという点で心もとない。何故、このような表現になるかといえば、さまざまな心理的要因がその背景にある。十分な分析によって問題点が詰められていないために、具体的な打ち手がわからないので、表現がどうしても曖昧になりがちになる、ある程度、解決の道筋が見えていても、詳細は実施し始めてから詰めようという安易な竹やり精神からきている場合もあるだろう。もっと言えば実行に対する責任感と意欲が不足していて、不退転の決意で結果を出すというプロ意識の欠如が、このような表現になってしまっているということすら想定される。このような表現を徹底的になくすだけでも組織内の空気は変わってくるはずだ。

 人材育成、ひいては組織風土の改革には時間もコストもかかる。しかし、過酷なグローバルな戦いに直面する日本企業にとって、高みを目指して自らの信念に従い、難解な事業課題解決に取り組むプロ意識をもった人材の育成は、最重要の経営課題の一つなのである。

3.企業参謀養成講座

 キャリア・リソース・ラボの共催で、昨年の秋から慶應丸の内シティキャンパスで『企業参謀養成講座』を開講している。この背景には、前述したプロフェッショナリズムに関する問題認識がある。すなわち、企業経営者を支える企業参謀プロフェッショナルの養成だ。

 経営環境が未だかつてない速さで大きく変化しているいま、企業の経営課題は年々複雑さを増し、課題の本質を見極め、最適な解決策をタイムリーにとることが求められている。そのような中、企業の命運を分けるのは、経営者の右腕であり現場ラインの羅針盤となる”企業参謀”の存在だ。それは、企業内にあって戦略構築や企画立案に携わっている場合もあるし、企業を外部から支援するコンサルタントの立場の場合もある。

 本プログラムでは、経営課題の解決に求められる”企業参謀”の役割について理解を深めるとともに、課題解決のための情報収集から分析、仮説検証といった一連の方法論に加え、実行に移していく際に必要な課題把握力、コミュニケーション力、戦略立案力まで習得し、企業の次なる成長戦略を描くプロフェッショナル人材を育成することを目的にしている。特に重視しているのは、スキルもさることながら、プロフェッショナリズム醸成の基本となる姿勢やマインドの部分だ。どんなにスキルが卓越していたとしても、常に高みを目指して企業の羅針盤づくりに注力していくには、不断の努力を支える志と姿勢が不可欠だからだ。
 
 これから10年後、20年後の中国、インドの台頭による世界経済地図の大転換点において、日本が世界における存在意義をもち続けるためにも、世界に通用する経営プロフェッショナル人材の育成は喫緊の課題である。グローバル市場で闘える企業参謀の輩出はまさに急務なのである。

※2010年11月に配信された慶應義塾大学SFC研究所キャリア・ リソース・ラボラトリーのニューズレター内「社会とキャリアの今」より研究所代表、著者の許可を得て転載。無断転載を禁じる。

伊藤良二(いとう・りょうじ)
伊藤良二
  • 慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)
  • 横浜市立大学客員教授
  • 株式会社プラネットプラン代表取締役

慶應義塾大学工学部管理工学科卒業、シカゴ大学経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーを経て、UCC上島珈琲の経営企画、商品開発担当取締役に就任。その後ベンチャーキャピタルのシュローダー・ベンチャーズの代表取締役、ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン・インコーポレイテッド 日本支社長を経て現在に至る。

  • 担当プログラム

企業参謀養成講座

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