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リーダーのための仕事哲学(その2)

2012年04月10日

安藤 浩之
慶應MCCシニアコンサルタント

リーダーのための仕事哲学(その1)から読む

観想と志想に磨きをかける

正解のない問題、抵抗が避けられない改革、経営層と現場の板挟みなど、リーダーは容易に解決できない問題に直面することがあります。その多くはリーダーである自分に巧みさがあれば解決できる問題かもしれません。しかし、中には人の痛みを伴うために巧みさでは真の解決には至らない問題もあります。たとえば、事業の撤退、工場の移転に伴う人員整理、仕事意欲が落ちているメンバーの処遇など。こうした問題は思考ではなく、人と人の感情を相互交流させることで真正面から解決しなければならない問題と言えます。

ところが、こうした問題に直面したとき、リーダーは迷い、その迷いがメンバーの前で態度として表れることがあります。

腕を組む、頭を抱える、言葉に詰まる、沈黙する、下を向く、天を仰ぐ、発言を撤回する、緊張状態に陥る、責任を回避しはじめる、言いつくろう、イライラしはじめる・・・。

なにげなくとも、リーダーのこうした態度はメンバーに伝播し、不安を助長させるものです。イソップ物語の「すっぱい葡萄」に登場するキツネのように合理化することで問題から逃れるわけにもいきません。

リーダーは業績を達成する使命を担っています。メンバーを先導する役割があります。よって、リーダーは迷うことなく、右往左往せずに、一貫した態度で問題解決に向かうべきです。

一貫した態度は、リーダーの観想と志想(すなわち仕事哲学)から導かれます。観想とは、心を集中して物事の本質を洞察することです。一方、志想とは、心を占有するほどの志しを意味します。この観想と志想に磨きをかけるためには、「自分の観想と志想に影響を与えた原体験を振り返ること」「学ぶことに寛容であること」「愚直であり続けること」の3つに留意してみるとよいでしょう。本稿では、この3つについて順を追って考察を深めることにします。

原体験を振り返ること

第一に、自分の観想と志想に影響を与えた原体験を振り返ることです。特に、あまり思い出したくない過去が観想と志想の形成に影響を与え、後に大きな成功体験を得ることで強化している人が多いように思います。

たとえば、ある人は子供の頃に父の仕事の関係で転勤を繰り返したために、全幅の信頼を寄せる友人をつくれなかったことが自らの観想と志想に影響し、大人になった今では人と人のつながりを支援することを自分の生涯の仕事だと考えています。また、ある人は子供の頃にお金がなかったために生活が苦しく、大人になった今では自己の満足のために大きな利得を得ることを仕事にしています。また、同じ原体験であっても反対に欲を持たずに生きることの大切さを得るに至った人もいます。

このように、過去の原体験は意識せずとも、今の自分の観想と志想に影響を与えているものです。よって、過去を紐解くことは今の自分の観想と志想の理解を深める上で有意義なことになるでしょう。

学ぶことに寛容であること

第二に、リーダーは学ぶことに寛容であることです。

リーダーは業務レベルから戦略レベルに至るまで、一日にいくつも判断を繰り返しているものです。それも自分のペースではなく、相手のペースで判断することが多いため、熟慮せずに相手の話に耳を傾ける以前から判断してしまうことがあります。

「私の経験からすれば・・・」といった言葉が示すように、自分の経験知に照らして判断しがちである。「ポイントをかいつまんで話してくれ」といった言葉が示すように、物事の断片から全体を推察して判断しがちである。更には、「だいたい理由はわかっている」といった言葉が示すように、問題の本質を見極めずに表面的なところで判断しがちである・・・。

こうしたところで判断を繰り返す日々では、観想と志想に磨きをかけることはできません。そこで、判断するのではなく、いつもの自分から離れて学ぶことに寛容になってみることです。学ぶこととは、自分が変化することに柔軟であることを示します。自分の思考の枠組みにこだわるのではなく、普段とは異なる、多様な見方をすることです。

たとえば、集団である職場全体に目を向けるとともに、全体を構成する部分、すなわち個人にも目を向けることです。そうすると、集団の利得と個人の利得はかならずしも一致しないことに気づきます。また、成果を追求するとともに、メンバーの仕事意欲に目を向けることです。そうすると、成果の追求とメンバーの仕事意欲がかならずしも連動しないことに気づきます。

判断するのではなく、学ぶことに寛容になること。さまざまな矛盾や不条理と向き合い、普段とは異なる、多様な見方で物事を洞察してみることが観想と志想に磨きをかけることにつながることでしょう。

愚直であり続けること

第三に、リーダーは愚直であり続けることです。

私たちは困難な問題に直面した際、巧みに問題を解決しようとします。たとえば、相手がなかなか納得しないときには交換条件を持ちかけたり、さらに頑なに拒まれたときには、自分よりも高いポジションの人に説得してもらうこともあります。

しかし、観想や志想に磨きをかけるために大切なことは、そうした巧みさを用いることではありません。相手と真正面から向かい合い、相手を尊重しつつ、愚直なまでに自分の観想と志想を相手に説き続けることです。

巧みさと愚直さでは、どのような違いがあるのでしょうか。

巧みさによって得られるのは成功です。成功は戦略によってもたらされ、迅速に振舞うことが肝心です。一方、愚直さによって得られるのは互いの納得です。合理的な思考で判断するのではなく、人と人の感情を相互交流させることで解決すべき問題では互いの納得が大切です。もし、自身の観想と志想が単なる一方的な主張ではなく、現場の人々と広く共有できる内容であると確信しているならば、時間はかかってもひざを突き合わせて愚直なまでに話をすることです。

コミュニケーションとは片側からみるとコストにすぎません。しかし、反対側からみると付加価値をもたらします。話し合う相互交流のプロセスが目覚ましい成果を生むのであれば、愚直なまでに話し合う時間を惜しむ理由はないはずです。

安藤浩之(あんどう・ひろゆき)
安藤浩之

  • 慶應MCCシニアコンサルタント
明治大学法学部卒、英国ウェールズ大学大学院卒(M.Sc取得)。HOYA株式会社人事部を経て、1992年に産業能率大学総合研究所に入職。2004年同大学経営情報学部兼任教員、2006年主幹研究員、2008年同大学院総合研究所教授。2009年11月より現職。組織・人材マネジメント、戦略的意思決定論を中心に企業内教育で活躍中。
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