HOMEへ戻るMCCマガジン田村 次朗「イノベーションとは 伝統や本来の良さを活かし、進化し続けること」

田村 次朗「イノベーションとは 伝統や本来の良さを活かし、進化し続けること」

2013年04月09日

田村 次朗
慶應義塾大学法学部教授、ハーバード大学交渉学研究所 インターナショナル・アカデミック・アドバイザー

田村先生には、2001年の慶應MCC開設当初から「交渉力」プログラムの講師として最も長く関わっていただいています。プログラム開設までの経緯をお聞かせください。

私は1984年にハーバードで交渉学に出会いました。日本では知識の多いことが一流・優秀であると思われていた時代に、すでにハーバードでは、知識偏重型教育の見直しが声高に叫ばれていました。
授業は、先生が一方的に講義をするのでなく、正解のない問いに学生たちが自分で答えを模索する進め方で、一方的に先生が講義をするのが当然だと思っていた私の考えは、健全に否定されました。

日本でもこういう教育がなされるべきだと確信して帰国しましたが、当時は慶應大学に限らずどこにも交渉学という科目がありませんでした。この新しい実践的領域の学問をどうやって広めていけばよいだろうかと思案している時に、慶應MCCが開設され、声をかけていただきました。

実際に社会人相手の講座ということでご苦労はございませんでしたか。

交渉というと「交渉の仕方」というイメージを持たれやすいのですが、交渉学とは「問題解決のための学問」です。いま目の前で刻々と変わる世の中のさまざまな問題に対処するための学問、いわば「実践の学問」と言えるでしょう。

実践の学問に絶対解はありません。ですから、初めての慶應MCCでの授業は非常に緊張しました。レクチャーを短くし、ロールプレイに時間を割く授業は、必ずしも想定通りには進みません。

もっと自分が教えなければならないことがあるといったことばかりが気になったときもありました。しかし、参加されたビジネスパーソンの皆様の満足は、私が予定通りにレクチャーすることではなく、皆で一緒に課題を考え、よりよい解答を求めた点にありました。思えば自分が学生の時は、90分間も集中して講義を聞いていられなかったのに、自分が教壇に立つと当然のようにそれを強いていたわけですね。
参加者が活き活きと演習に取り組む姿を見て、これこそ生きた教育だという自信と手応えを感じました。

慶應義塾大学でも「交渉学」の授業が始まったそうですね。

慶應MCCと連携して10年間継続した結果、ついに慶應大学でも交渉学の授業が開設されました。大学で交渉学が一つの科目として認められたことは大変なことで、慶應MCCの協力があってこその成果だと思っています。

大学の授業もロールプレイを行いますので、学生の嫌がる「出席確認あり」「課題あり」の授業なのですが、初年度から380人ほどが登録し、ほとんどが脱落せずに最後まで出席しました。 大教室で、大人数の学生があれだけ積極的に参加してくれた授業は初めての体験でした。前例も口コミもなく、評価基準もわからない授業に熱心に挑戦してくれたことに非常に感激しましたね。

ところで最近の国際情勢を見ていても、グローバル社会における交渉力の必要性は益々高まっているように思えます。

国が異なれば、当然ながら交渉の仕方は変わります。しかし日本人が海外に出て行って日本人の良さを出すのであれば、日本的な交渉の良さも発信していかなければならないと感じています。

たとえば交渉学には、ブレインストーミングセッションという手法があります。本交渉に先駆けて、接待、それが難しいなら一緒に食事でもしませんかという投げかけをして、そこで非公式な交渉をしましょうと提案する手法です。これなどは、まさに日本的根回しそのものですよね。

しかしながら、古くから日本人同士の交渉において、BATNA(代替案)という考え方はありませんでした。近江商人の「三方良し」といった日本ならではの信頼・誠実の精神がベースにあったからです。この考え方は、『日本社会だからこそだね』との注釈つきではあるものの、ハーバード流交渉学の大家であるシャピロ先生も絶賛しています。

実際に、日本の商社をはじめとするビジネスパーソンが世界で成功している理由の一つは、信頼を得るために最後まで忍耐強く頑張り抜く日本人の精神があるからだと思います。

最後に、慶應MCCにこれから期待している点をお聞かせ願います。

慶應義塾の創設者である福沢先生の精神に立ち戻って考えてみましょう。
福沢先生は、あの時代において「異端児」だったのではないでしょうか。しかし先生は、ぶれずに自分の信念にもとづいてさまざまなことに取り組まれ、先生の周りには先見の明がある人や、次の時代を感じ取っていた人たちが集まっていました。そういう先生のスピリットを、慶應MCCにも持ち続けてほしいと思います。

「本当に現状を維持したいのであれば、逆に進化し続けるしかない。」という考えがありますが、まさに私もそう感じています。
われわれ講師も、参加者やラーニングファシリテーターの意識の高さに常に触発されていますので、まさにぶれない組織として、慶應MCCがこれからも進化し続けることを期待しています。

大変励みになるとともに、背筋が伸びる思いです。これからもよろしくお願いいたします。

田村次朗(たむら じろう)
慶應義塾大学法学部教授、ハーバード大学交渉学研究所 インターナショナル・アカデミック・アドバイザー
慶應MCC 『戦略的交渉力』講師
ハーバード大学ロー・スクール修士課程、慶應義塾大学大学院法学研究科民事法学専攻博士課程修了。専門は経済法、国際経済法、および交渉学。 各省庁などの委員を務めるとともに、日米通商交渉、WTO(世界貿易機関)交渉、ハーバード大学国際交渉プログラムのインターナショナル・アカデミック・アドバイザー、ダボス会議(世界経済フォーラム)の「交渉と紛争解決」委員会の委員を務める等、最前線における国際交渉の活躍経験もある。またその一方で、実務教育としての「交渉学」の開発に取り組んでいる。

田村 次朗(たむら・じろう)
高田朝子

  • 慶應義塾大学法学部教授
  • ハーバード大学交渉学研究所 インターナショナル・アカデミック・アドバイザー
  • 戦略的交渉力』講師
ハーバード大学ロー・スクール修士課程、慶應義塾大学大学院法学研究科民事法学専攻博士課程修了。専門は経済法、国際経済法、および交渉学。 各省庁などの委員を務めるとともに、日米通商交渉、WTO(世界貿易機関)交渉、ハーバード大学国際交渉プログラムのインターナショナル・アカデミック・アドバイザー、ダボス会議(世界経済フォーラム)の「交渉と紛争解決」委員会の委員を務める等、最前線における国際交渉の活躍経験もある。またその一方で、実務教育としての「交渉学」の開発に取り組んでいる。

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