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ピックアップレポート

2013年07月09日

高山 美智代「健康長寿と生活習慣」

高山 美智代
慶慶應義塾大学医学部予防医療センター

人生90年時代~健康寿命をご存知ですか~

できることなら元気に長生きしたい。皆さんの願いではないでしょうか。ご存知のように日本人の平均寿命は年々延長し、現代の日本は人生90年時代と言っても過言ではありません。慶應義塾大学病院の予防医療センターでも60歳台はもちろん、70歳台、80歳台で人間ドックを受診される方も珍しくなく健康意識の高さを実感しています。

2012年6月に厚生労働省がはじめて日本人の健康寿命を発表しました。健康寿命とは、寝たきりや要介護状態にならずに自立した日常生活を過ごすことのできる年齢のことです。男女ともに平均寿命より短く、男性の平均寿命が79.6歳であるのに対して健康寿命は70.4歳、女性の平均寿命が86.3歳であるのに対して健康寿命は73.6歳でした(いずれも2010年現在の統計)。つまり、男性は平均9年、女性は平均13年の間、何らかの介護を要する状態で生活していることになります。

日本人の介護原因

それでは健康で長生きするためにはどうしたよいのでしょうか。高齢者が要介護状態になる原因を「介護原因」といい、年代や性別によっても特徴があります。たとえば中高年世代から65~74歳の前期高齢者では脳卒中が最も多く、75~84歳の後期高齢者、特に女性では、関節痛や骨折などの骨・関節疾患が増加します。85歳以上の超高齢者になると、虚弱(筋力が低下して家事や外出などの日常生活が困難な状態)、骨・関節疾患、認知症といった、高齢者ならではの病態(老年症候群といいます)が前面にでてきます。健康で長生きするためには要介護状態に陥らないこと、すなわち介護予防が大切です。

介護予防と生活習慣

~中高年、特に男性に多い脳卒中の予防~

脳卒中の原因は主には動脈硬化です。加齢に伴い進行するため動脈硬化を完全に予防することは難しいのですが、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙といった危険因子を減らすまたは管理することによって予防することができます。

これらは生活習慣病の代表ともいえる病気ですから、食習慣や運動習慣の改善、禁煙、適正体重の維持などの生活療法が効果的です。特に “ニコチン依存症”の状態である喫煙習慣は、意志があれば保険診療で禁煙のお手伝いができるようになりました。

~高齢女性に多い骨・関節疾患の予防~

骨・関節疾患は、変形性膝関節症、骨粗鬆症、骨粗鬆症による骨折などが挙げられます。

変形性膝関節症とは、膝関節に過剰な負荷がかかることにより、クッションの役割をしている関節軟骨がすり減り変形をきたした状態で、膝が痛んで歩行困難になります。膝への負担軽減のためは肥満の是正が必要ですが、減量のために運動しようにも膝が痛くて動けない、動かなくなるとますます下肢筋力が衰えて余計に膝関節への負担が増す、といった方が多いのも実際です。負の連鎖に陥らないように、なるべく早期の段階から体重の管理をしておくこと、筋力を維持しておくことが重要です。

骨粗鬆症は、骨の構造がもろくなって、尻もちやくしゃみのような軽微な外力でも骨折しやすくなる病気です。骨折が原因で寝たきりになることも多くあります。骨粗鬆症の診断には骨密度を測定しますが、骨密度のピークは男女とも20~40歳くらいで、その後は加齢に伴って、女性の場合は特に閉経を境に急激に、低下します。骨折しやすい危険因子としてやせ型女性、喫煙、糖尿病、家族に大腿骨頸部骨折(太ももの付け根あたりの骨折)の既往があるなどがあります。該当する方や思い当たる方は骨密度をチェックして骨粗鬆症予防を早期から始めることをおすすめします。また、骨を丈夫にするためには、カルシウムを多く摂ることの重要性はご存じの方も多いと思いますが、骨には負荷が必要なため適度な運動も大切です。

~高齢者の虚弱の予防~

後期高齢者以上の世代で特に問題となる「虚弱」は、筋力低下、意図しない体重減少、歩行速度の低下、活力の低下などが特徴で、その原因には加齢に伴い生じやすい低栄養や慢性炎症が関係していると考えられています。虚弱が原因で日常生活に支障がでるのはかなり高齢になってからですが、加齢に伴う筋肉量の減少はそれより前から生じていますので、予防的観点からすると中高年の世代から筋肉量を維持できるように気をつけていただきたいと思います。加齢に伴い生じる筋肉量の減少はサルコペニア(sarcopenia; 骨格筋減少症)と呼ばれます。50歳台くらいからおしりや太ももの筋肉が落ちて、つまずいたり転倒しやすくなります。やはりバランスのよい食事と適度な運動習慣がサルコペニアの予防につながります。

ロコモティブシンドローム

最近、ロコモティブシンドロームという言葉を耳にする機会が増えました。ロコモティブ(locomotive)とは運動器の意味で、介護予防のためには足腰といった運動器を健康に保つことが重要であるという考えにもとづき、日本整形外科学会が2007年に提唱した概念です。メタボリックシンドロームが生活習慣病の予防や早期発見に役立っているように、ロコモティブシンドロームも介護予防の観点から健康長寿達成に一役買うことが期待されています。

簡単な自己検診方法(ロコチェック)が日本整形外科学会のホームページに公開されています。(https://locomo-joa.jp/check/)さて、ご自身の筋肉量は果たして適正でしょうか。気になる方は体組成(脂肪量や筋肉量)を測定することをおすすめします。慶應義塾大学病院予防医療センターの人間ドックでは、X線を利用した検査機器で骨密度や体組成を精密に測定することができます。ご興味のある方はお問い合わせください。

健康長寿と生活習慣

さいごに、最近の研究を通して、健康長寿と生活習慣について考えてみましょう。

~スウェーデンの高齢者研究から~

スウェーデンのカロリンスカ研究所がおこなった、75歳以上の高齢者1810名を生活習慣と長寿の関係について18年間追跡した縦断研究(1)をご紹介します。喫煙習慣、飲酒習慣、肥満度(BMI;体格指数)、社会との交流(ソーシャルネットワーク)、余暇活動(運動など身体的活動、読書や勉強など知的活動、旅行やサークル活動など社会的活動、料理、園芸、手芸など創造的活動)について詳細に調査し、死亡年齢との関連を検討しています。

生活習慣のプロファイルを「リスクが低い」、「ややリスクが低い」、「ややリスクが高い」、「リスクが高い」の4段階に分けて死亡年齢を比較しました。リスクが低い生活習慣とは、適正体重でタバコは吸わない、家族や友人と社会的交流があり、少なくとも1つ以上の余暇活動を持っていることを意味します。

解析の結果、リスクが低い生活習慣をもつ人は、リスクが高い生活習慣をもつ人に比べて、5.4年長生きでした。対象者を75~84歳の高齢者と85歳以上の高齢者に分けて解析してもこの傾向は変わらず(75~84歳では6.1年長生き、85歳以上では4.0年長生き)、85歳以上の超高齢者においてもよい生活習慣がその後の長寿と関係していることが明らかとなりました。この研究は、タバコを吸わないことや余暇活動が85歳以上の超高齢者においても長寿に好ましい影響を与えることを初めて示した点が有意義といえます。

健康長寿の秘訣 ~百歳の方の研究から~

次に百歳以上の方へのインタビューからわかった健康長寿の秘訣をご紹介します(東京百寿者研究)(2)。100歳以上の長寿者を百寿者と呼びます。1963年当時、百寿者は全国で153人ほどでしたが、その後爆発的に増加し、2012年の統計では日本全国で5万人以上になりました。「人生100年時代」もそう遠くない未来といえます。

2000年から2002年にかけて300名以上の百寿者の身体機能、認知機能、生活習慣、性格などを訪問調査したところ、百寿者の中で自立した生活を営み、認知機能も良好で、健康長寿を達成している方々には以下のような特徴がありました。

  • タバコは吸わない。
  • お酒は適量。(適量とは、日本酒なら1日1合:180mlまで、ビールなら500mlまで、ワインならグラス2杯:200mlまで、焼酎なら70mlまで、ウィスキーやブランデーはダブル1杯:60mlまでです。これらのうちどれか1つです。)
  • 栄養状態が良好。(バランスのよい食事を摂っていることが推察されます。)
  • 糖尿病が少ない。(がんや心臓病や脳卒中を免れて100歳に到達した方が約6割いらっしゃいました。)
  • くよくよしない、何事も前向きにとらえる。(ポジティブシンキングでストレスをためない。)
  • 意志の強い人が多い。(たとえば、毎日体操をするなど、決めたことをやり遂げる。)

やはり健康長寿と生活習慣は関係がありそうです。生活習慣は長年の蓄積ですので、「今更見直しても手遅れ・・・」と思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、生活習慣の見直しは遅すぎるということはありません。是非、ご自分の健康のために1つでもよい生活習慣を実行するようにしましょう。病気予防の第一歩は、自分自身の現在の身体の状態を知ることから始まります。そのために人間ドックを活用していただきたいと思います。

(参考文献)
(1)Rizzuto D, et al. Lifestyle, social factors, and survival after age 75: population based study. BMJ 2012; 345: e5568 doi: 10.1136/bmj.e5568
(2)高山美智代、広瀬信義.百寿者のライフスタイル.日本医師会雑誌 2006; 135: P.1258.

高山 美智代(たかやま みちよ)
慶應義塾大学医学部助教・予防医療センター
東京女子医科大学卒業後、慶應義塾大学医学部老年内科に入局し、高齢者医療を学ぶ。主に高齢者の生活習慣病や動脈硬化性疾患を研修。(旧)慶應健康相談センターで人間ドック業務に従事した。2012年より現職。
日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本老年医学会老年病専門医・指導医、日本人間ドック学会認定医、日本動脈硬化学会、日本循環器学会、日本糖尿病学会、日本臨床栄養学会評議員。

<論文>
「生活習慣からみた健康長寿の阻害因子:超高齢者疫学調査より」
高山 美智代, 新井 康通, 広瀬 信義
JOHNS(0910-6820)28巻9号 Page1274-1278(2012.09)
「超高齢期におけるビタミンD欠乏症と生活習慣の関連についての検討」
高山 美智代, 住谷 智恵子, 阿部 由紀子, 新井 康通, 広瀬 信義
未病と抗老化(1347-667X)20巻 Page113-116(2011.06)
「百寿者の生活機能」
高山 美智代, 広瀬 信義
体育の科学(0039-8985)60巻10号 Page706-710(2010.10)
「病歴からみた百寿者」
高山 美智代, 広瀬 信義
日本臨床67巻7号 Page1343-1347(2009.07)
「百寿者のライフスタイル」
高山 美智代, 広瀬 信義
日本医師会雑誌135巻6号 Page1258(2006.09)

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