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ピックアップレポート

2013年10月08日

新見 正則「イグノーベル賞に輝いた「マウスとオペラ」実験が教えてくれたこと」

新見 正則
帝京大学医学部外科准教授、愛誠病院漢方センター長

2013年9月12日、ハーバード大学にて、「イグノーベル賞」をいただきました。イグノーベル賞とは、人々を笑わせるような実験内容で、でもとても考えさせられる結果に対して与えられる、国際的な賞です。
今回、僕たちの研究チームは「医学賞」を受賞しました。僕のライフワークでもある移植免疫学に関する実験で、心臓移植をしたマウスに、さまざまな音楽や音を聴かせたところ、オペラを聴かせたマウスの生存期間がもっとも長く延びた、という大変興味深い結果が得られました。

心臓を移植したマウスは、免疫の拒絶反応によって平均7日間で死んでしまいますが、ヴェルディのオペラ「椿姫」を聴かせたところ、生存期間が平均で40日間にまで延びました。次に長かったのがモーツアルトで、平均20日間でした。エンヤの歌では平均11日でした。ほかにも英語のリスニングCD、工事現場の音、周波数音などでも実験しましたが生存期間には変化は見られませんでした。音楽が効果的でした。

この研究結果から言えることは、音楽が脳を介して免疫系によい影響を与えている、ということです。病気には、医学的対処はもちろん大切ですが、脳に影響を及ぼすような環境、希望や気合い、家族のサポートなどが大切であることに通じる結果です。「病は気から」とよく言いますが、あながちウソではないのです。

移植免疫学は、1993年から5年間、オックスフォード大学の博士課程に留学したときからのライフワークです。現在も国内留学や海外留学の同僚に恵まれ、楽しく実験を行っています。また、外科医として、24時間365日いつでも出動できる体制でたくさんの手術に臨み、後輩の指導し技術を伝えてきました。現在は、血管外科と静脈疾患の指導的立場で働いています。松田邦夫先生を師として仰ぐ機会を得て、漢方も学びました。といっても僕は漢方医ではありません。漢方も処方できる西洋医、漢方が趣味の西洋医です。西洋医学の知識と漢方の知識を精一杯に使って診察することで、たくさんの患者さんに、幸せになっていただきたいと思っています。

今回受賞した実験のテーマは、そんな日々の臨床現場から生まれました。多くの患者さんに接するなかで、元気ややる気、ストレスの有無などが、患者さんの症状に影響することを目の当たりにしてきました。末期がんで余命3ヶ月といわれた患者さんが3年以上生きたり、1年以上は大丈夫とみられた患者さんが1ヶ月で亡くなったり、現在の西洋医学では説明しきれない症状を見て、脳が体の免疫に影響を与えている、と確信したのです。

実験は、心臓移植したマウスを5つのグループに分け、音楽や音を聴かせました。
心臓移植したマウスは、何も聴かせなければ、平均7日で死んでしまいます。しかし音楽を聴かせたマウスは、それぞれ
・オペラ「椿姫」:平均40日
・モーツアルトの音楽:平均20日
・エンヤの音楽:平均11日
に生存期間が延びました。
英語のリスニングCDや、工事現場の音、単一周波数などを聴かせたマウスは、変化がありませんでした。音楽が良いのですね。その中でもオペラでした。

ちなみに、オペラ「椿姫(La Traviata)」は、サー・ゲオルグ・ショルテ指揮、コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団・合唱団による演奏(1995年)のもの、モーツアルトはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団演奏による「モーツアルトのすべて(The Ultimate All Mozart)」(1999年)、エンヤは、「Paint the Sky with Stars: The Best of Enya」(1997年)です。

僕は音楽がとても好きです。イギリスに留学していた頃は、英国ロイヤルオペラや、ヤンソンス指揮ロンドンフィルハーモニーの演奏会などよく聴きに出かけました。美しい素晴らしい音楽は心を打ちます。幸せな気持ちになり、元気になりますね。

幸せな気持ちや元気なるのは音楽だけではありません。希望や気合い、愛情、そして楽しむこと。そのためには僕は、 “ちょっとの挑戦”をおすすめしています。

僕自身の実感でもあります。2002年に日本初の保険診療によるセカンドオピニオン外来を開設したこと、漢方を学んだこと、そして50歳を過ぎてからトライアスロンを始めたこと。今年の佐渡国際トライアスロン大会で、236kmのトライアスロンを14時間18分58秒で完走しました。トライアスロンなんて普段から運動している人がやるんでしょ?とおっしゃるかもしれませんが、実は2年前まで僕は、金槌で大の運動嫌いでした。最初からトライアスロンを目標に掲げたのではなく、”ちょっとの挑戦”をとにかく楽しんで、続けて、広げていったらトライアスロンになりました。

心の持ちようを変えるだけ。僕たちの研究結果は、今日から誰でもできるところも気に入っています。僕もこれからも、いろいろなことを楽しんでいきたいと思っています。

イグノーベル賞受賞論文
http://www.cardiothoracicsurgery.org/content/7/1/26

新見 正則(にいみ・まさのり)

  • 帝京大学医学部外科准教授、愛誠病院漢方センター長
帝京大学医学部外科准教授、愛誠病院漢方センター長。慶應義塾大学医学部卒業、英国オックスフォード大学医学部博士課程卒業(博士号)。専門分野は、臨床分野として血管外科・移植外科・一般外科、研究分野として移植免疫学・腫瘍免疫学、セカンドオピニオン、モダン・カンポウ。2年前までは運動が大嫌いでカナヅチだったのに、健康のためにとはじめたトライアスロンは今や一番の趣味に。
Webサイト「新見正則 百花繚乱forever

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