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山田 英夫「異業種に学ぶビジネスモデル」

2014年12月09日

山田 英夫
早稲田大学ビジネススクール 教授

ビジネスモデル構築の方法

1 ビジネスモデルが15年で3回変わった文具業界

日本の文具・事務用品業界は、成熟業界である。しかしこの業界において、過去15年間に3回もビジネスモデルの異なるプレーヤーが登場した。

1992年までの文具・事務用品業界は、コクヨというガリバー企業が支配しており、その強固なチャネル支配力、営業力で他を圧倒していた。文具店網だけでなく、大企業に対しては強固な外商チャネルを有していた。

そこに1993年登場したのが、カタログ通販のアスクルである。文具・事務用品業界4位のプラスは、ユニークな商品力は評価されていたが、現状のチャネル構造のままではシェアは奪えないと考え、通販のアスクルを設立した。アスクルは中小事業所を対象に、卸をスキップし、文具店がカタログの配布と与信を行い、受注・配送は直接アスクルが行うという、コクヨが追随しにくい仕組みを作った。アスクルは、日本発のビジネスモデルの成功事例として、多くのビジネス書に紹介された。


コクヨは通販にも需要があると知りながらも、本業での得意先である卸への配慮もあり、長い間同質化(模倣)戦略をしかけなかったが、2000年に重い腰を上げ、「カゥネット」という卸を組み込んだ通販事業を姶めた。

二つ目のビジネスモデルの変革は、大塚商会によってなされた。大塚商会はもともとOA機器を専門とする商社であったが、1999年から「たのめーる」というカタログを持ち、全国に約2000人いる営業マンが、中堅企業に対して集中購買システムと共に売り込むスタイルをとった。これは、営業マンとシステム開発力を持つ大塚商会だからこそできるビジネスモデルであり、アスクルやコクヨは追随できなかった。

「たのめーる」は「カウネット」を抜き、文具通販業界二位に躍り出たが、文具・事務用品業界の変革はこれで終わりではなかった。数年前から、「リバース・オークション」という新たな購買形態が、先進ユーザーから始まった。

リバース・オークションとは、通常のオークションとは逆で、買い手が欲しい商品と数量をネット上に流し、入札してきた中で、一番安い売り手から購入する購買方法である。通常のオークションが一番高値で決まるのに対し、一番安値で落札することから「リバース」と呼ばれている。賢い企業は利害関係のない企業と共同購入し、数量を増やすことによって、より安い調達が可能になる。世界で最初にリバース・オークション・ビジネスを始めたアリバの日本法人などが、そのプラットフォームを運営してきた。

リバース・オークションによって、アスクル等の価格を大幅に割り込むケースも少なくなく、文具・事務用品業界の利益率は低下してきた。

その後、どうなったか。コクヨは、「カウネット」でも得意の営業力でロ座数は増やしたが、取り扱い金額では大塚商会の後塵を拝している。今後は、バーコードをスマートフォンのカメラで読み取ると、そのまま注文できるアプリを無償配布して利便性を高めたり、プライベートブランドの比重を増やす予定である。

アスクルは価格低下で業績が伸び悩み、2012年には、日本の電子商取引(EC)で楽天、アマゾンに次ぐヤフーがアスクルの42.6%の株を取得した。ヤフーは、先行する二社が拡充している自前の配送機能を持っておらず、今後のECでは物流機能が鍵になると考え、アスクルの物流網を活用するために出資したと見られている。

以上のように成熟業界と言われる文具・事務用品業界において、15年の問に3回も新しいビジネスモデルが登場した。「市場が成熟しているから、ビジネスモデルの革新とは縁がない」とは言えないのである。

2 本書の焦点と目的

近年、ビジネスモデルのイノベーションが求められてきた。製品のイノベーションだけでは、長期にわたる競争優位を維持することは難しくなってきたからである。各社の技術レベルが拮抗し、差別化商品・技術を出しても、類似の技術により同質化競争をしかけられ、究極的には価格競争になり、儲けがなくなってしまう例が少なくない。一世を風靡したシャープの液晶が、その典型例である。

それでは新しいビジネスモデルは、どのようにしたら構築できるのだろうか。その方法は、図表1-1のように大きく三つ挙げられる。
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まず第一の方法は、①の自社でゼロかちビジネスモデルを構築する方法である。いわば、”第二のアップルやグーグル”を目指す方法であるが、日本の大企業にとって、ビジネスモデルをゼロから生み出すことは難しい。革新的なビジネスモデルになればなるほど、経営者がゴーサインを出すための前例もなく、事業が成り立つためのデータを積み上げることも難しいからである。そのためゼロからの構築は、これまでは、鋭い直観をもった経営者のいるベンチャー企業によって成されてきた。

第一の方法が難しいとすれば、他社にあるヒントを手掛かりにビジネスモデルを構築していく方法がある。「イミテーションはイノベーションより数も多く、現実に企業に利益をもたらすケースが圧倒的に多い」ことは、セオドラ・レビットによって既に指摘されており、目新しい見解ではない。その後も、多くの研究者が模倣の有効性を述べている。

模倣には二種類があり、第一は②の同業(海外を含む)のベンチマークである。コクヨがプラスを模倣し、ローソンがセブンーイレブンを模倣した例がこれにあたる。日本企業が横並び経営を志向してきたのも、この方法がリスクを小さくしてビジネスを拡大できるからであった。

しかし、こうした横並び競争では、製品の競争の場合と同じように、最後はコスト競争となり、企業や業界は疲弊してしまう。

また過去には、GE、IBM、P&G、デュポンのような手本となる企業が海外にあり、それらをコピーして日本で展開するやり方もあった。しかしインターネットが普及した今日においては、情報のタイムラグがなくなり、一社だけが先行できる環境ではなくなった。

そして最後に残る方法が、③の異業種にあるモデルから学ぶパターンである。異業種には自分の業界で凝り固まったメガネでは見えない”ビジネスモデルの原石”が、多数ころがっている。ここには無限の可能性が残されているが、一方で自社に取り込むには難しい面が残されている。

その理由として、企業は自分の業界の情報収集で手一杯であり、他業界の事例を調べようと思っても膨大な作業となることが挙げられる。海外を含めれば、とうていフォローできるものではない。データベースや検索エンジンが発達した今日においても、どのような検索ワードを入れれば、異業種で成功したビジネスモデルをリストアップできるかは、延々と試行錯誤を繰り返さなくてはならない。このため、有効な発見ツールを持たないまま、「異業種にヒントがあるのではないか」という漠とした期待感だけが漂っているのである。

本書は、この三番目の異業種をヒントとしたビジネスモデルの構築に着目し、それを発見するための視点を提供することを目的に書かれた。具体的には、異業種のどこを見ればよいのか、何を見ればよいのか、どうすれば移植できるのかの方法について提起する。

3 ビジネスモデルとは

議論を進めるうえで、まずビジネスモデルの定義をしておこう。
ビジネスモデルという言葉が知られるようになったのは、1998年、米国でビジネスの方法も特許の対象としたことが契機である。当時「ビジネスモデル特許」という言葉が流行したが、ビジネスモデル特許の多くは成立せず、ブームは次第に沈静化した。

その後ビジネスモデルの焦点は、特許から企業の戦略に移ってきた。特に、インターネットを利用した新しいビジネスが多数誕生するにつれ、近年益々関心が高まってきた。

以下に述べるように、ビジネスモデルの定義が明確でないため、実態を掴むことは難しいが、ビジネスモデルに対する関心の高さを、新聞記事件数を代理指標として見てみよう。

「ビジネスモデル」というキーワードで、日経産業新聞の記事件数を日経テレコン21で検索した結果は、震災で異常な年であった2011年を除き、毎年300から400件の間で推移しており、近年は一日一件程度の記事が掲載されている。

また米国では、新しいビジネスモデルの企業が次々と登場してきており、ビジネスモデルに関する論文・記事も増えているが、特にアカデミック以外の分野での数が2000年以降急増している。

このように注目を集める「ビジネスモデル」だが、経営戦略の定義が無数にあるのと同様、ビジネスモデルの定義も研究者の数だけある。表現がアカデミックで、ビジネスには応用しにくい定義もあるが、比較的わかりやすい定義として図表1-2のようなものが挙げられる。これらをまとめると、顧客との接点を重視する定義と、利益を生み出す仕組みを重視する定義の二つに大別できる。これこそが、ビジネスモデルのエッセンスと言える。

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以上のような様々な定義があるが、ビジネスモデルを真正面から研究したアフアの定義が最もシンプルでわかりやすいため、本書ではこれをベースに、ビジネスモデルを「儲けるための仕組み」と定義することにする。

4 本書の進め方

本書は全編を通じて、企業事例の説明からビジネスモデルの理解というステップをとる。そしてビジネスモデルを理解する着眼点や要素を抽出した後に、もう一度その着眼点を使って、異業種にそのビジネスモデルを移植してみるアプローチをとる。すなわち、具体的事例→抽象化→具体的事例という順番で、「知る」→「抽出する」→「応用する」というステップをとりながら、異業種にヒントがあるビジネスモデルについて考えていく。

具体的にはまず第2章で、異業種にヒントがあり、ビジネスモデルのイノベーションを起こした事例を7つ紹介する。ここでは、国内で成熟業界と考えられている事例ばかりを集めた。

次に第3章では、第2章で述べた事例をたたき台として、異業種にあるビジネスモデルを、どのようなメガネを通して見ればよいかを示す。そこで抽出されたビジネスモデルの要素から、さらに異業種への移植可能性を探る。そして第4章では、日本の大企業が新しいビジネスモデルを移植していく時の課題について論じていく。

日本経済新聞出版社『異業種に学ぶビジネスモデル』第1章を著者と出版社の許可を得て転載。無断転載を禁ずる。

山田英夫(やまだ・ひでお)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科修(MBA)。三菱総合研究所入社。事業領域の策定、新事業開発等のコンサルティングに従事。1989年早稲田大学に転じ、現在早稲田大学ビジネススクール教授。専門は経営戦略論、競争戦略論。学術博士(早大)。
2011年から日本電気株式会社社外監査役を兼務。
主な著書に『異業種に学ぶビジネスモデル』(日経ビジネス人文庫)、『なぜ、あの会社は儲かるのか?』(共著、日経ビジネス人文庫)、『デファクト・スタンダードの競争戦略』(共著、日本経済新聞社)などがある。

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