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「明けまして」の意義

2015年01月13日

田口佳史
東洋思想研究家、株式会社イメージプラン代表取締役社長

新年を迎えると決まって我々は「明けましておめでとうございます」と挨拶を交わすわけですが、この「明けまして」の明けると言う言葉には、社会や組織の真の在り方のヒントが含まれている様に思います。

まず、月末のことを何と言うかといえば、これを「晦」といいます。

晦の意味は、暗い。月のないやみ夜を表わした言葉で、そこから転じて、良く解かっていない状態や物事に精通していない事をいいます。

月末になるとその月の清算をします。その月の取引を明確にし、売り買いや貸し借りの結末をつける日を言います。同時に、一人の人間として、その一ヶ月の間の自分の言動や行いを棚卸しして、何に暗かったか、つまり何を良く解かっていなかったか、精通していなかったかについても、明確にします。


江戸期は、いわゆる「知行合一」で、知識を得ただけでは五十点、そのことを実行して初めて満点になるという考え方でしたから、暗い事が明確になれば直に実行して、これを明るくして行きます。

自分の暗いところを挙げては実行するから、暗いところが減って明るくなる。つまり月末に自分の人間力の足らなさを棚卸しして、自己の改善目標を明確にし、次の月が始まるという事を繰り返す生き方を表わしています。

「大晦」は、この集大成で、一年を振り返って、例えば「計数に暗かった」「人間関係に暗かった」など、除夜の鐘を聞きながら、一年の自己を省みて、次の年に改めるべき自分が明らかになると、東の空から新年の太陽が昇り、「明けましておめでとうございます」ということになります。

この「暗いを明るい」に変える生き方こそ、今後の組織モデルの基礎になるべき事の様に思えます。

まず、この様な暮らし方をしていれば、いつしか明るいことの方が多くなります。「海外事情に明るい」「人間心理に明るい」など、自分の明るい分野を多くして行くことが出来ます。

更にこの「明るい」と言う表現には単に学問としての知識を保有していると言うだけではない、経験を通して習得された巾の広さや、どの様な事態にも対応できる力など、いわば全人格的能力を感じます。

人間の年輪の価値を表わしていると言っても良いでしょうが、こうした表現自体に、一人一人の人間の人生の重みを認める考え方を感じるのです。

現在様々な企業で実施されている管理技法に目標管理制度があります。
評価すべき点も多くありますが、唯一指摘するとすれば財務計数目標に偏って実施されている例が多いことです。
計数は結果であります。その結果を生み出すのが、まさに全人格的能力です。こちらの向上があって初めて計数増加もあり得るのです。
したがって、今後はこの「暗いを明るくする目標管理制度」に切り替える必要があると思います。
人間が生きて行くとは、結局自己を磨き、卓越して行く自分の成長を楽しむことに尽きるわけですが、こうした価値観を反映しているのが、この「暗いを明るい」に変える生き方なのです。

こうして明るいことが多くなって行く生き方は、健康的でもあります。
明るいは明朗を意味し、ネアカの高齢者が多くなること、あるいは、明朗快活は健康を生みますから、年齢を経るほど元気になることになり、元気な年寄りが多くなります。
江戸期、何故横丁のご隠居や大家さんが若者顔負けの元気者で、しかも知恵者として多くの人の良き相談相手であり、したがって尊重され尊敬される存在であったか、その理由が判然としてきます。
とても健全な社会であったと言えましょう。

これを企業など組織に置き替えて考えて見ると、更に興味深いことを発見します。
現在の定年制度は、見ようによっては、最も経験豊富な社員を折角育てて来たのに、これからという時に、その特性を活用することなく捨てしまっていることになります。

「暗いを明るい」に変えて生きている人は、言い替えれば自己鍛錬を続ける事が当り前になっている人ですから、伝統工芸や芸能の世界で無形文化財や人間国宝を到達点とするのと同様になり、七十歳や八十歳を目標年齢とするのが当り前のことになります。
自社のOBでこの様な達人や名人が多いと言うことは、そうした知識や経験を活用してより難しいテーマに挑戦することも容易になります。
しかも現役社員の最高の相談相手、あるいは指導者としても貴重な存在になり、会社に心強い後ろ盾がいることにもなります。

まさに老壮青三世代がその世代の強味を活用して協力し合う体制を持った企業になるわけで、高齢社会型組織モデルともいうべき姿が浮かび上がってきます。
社会にしろ企業にしろ、こうした元気はつらつ、物事に精通した高齢者が数多く存在することこそが、真の意味での高齢者時代の在り方ではないでしょうか。

現在我が国の多くの人々は、先行きに不安を抱えているといわれます。
是非この「明けまして」の意義を理解し、その説くところのライフスタイルを実践して、一年十一回、毎月月末に自己向上目標を明確にし、年末には一年の棚卸しをして、来年の正月元旦、真の意味での「明けましておめでとうございます」を言おうではありませんか。

悠雲舎『東洋の経営発想』の「明けましての意義」(P50~)を著者と出版社の許可を得て転載。無断転載を禁ずる。

田口佳史(たぐち・よしふみ)
田口佳史

  • 東洋思想研究家、株式会社イメージプラン代表取締役社長

1942年東京生まれ。新進の記録映画監督として活躍中、25歳の時タイ国バンコク市郊外で重傷を負い、生死の境で『老子』と出会う。奇跡的に生還し、以降中国古典思想研究四十数年。東洋倫理学、東洋リーダーシップ論の第一人者。企業、官公庁、地方自治体、教育機関など全国各地で講演講義を続け、1万名を越える社会人教育の実績がある。 1998年に老荘思想的経営論「タオ・マネジメント」を発表、米国でも英語版が発刊され、東洋思想と西洋先端技法との融合による新しい経営思想として注目される。

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