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桑畑 幸博「Leap思考のススメ」

2015年02月10日

桑畑幸博
慶應MCCシニアコンサルタント

1. “ロジカル・シンキング”の弱点

筋道を立て、そしてヌケモレ無く考える。
いわゆる”ロジカルシンキング”は、すべてのビジネスパーソンにとって重要な、「仕事のOS」とも言える思考スキルだ。
しかし、ロジカル・シンキングは仕事をうまく進めるための「必要条件」ではあるが、「十分条件」ではない。ロジカル・シンキング「だけ」では足りないのだ。
ロジカル・シンキングで導き出されるのは、「蓋然性が高い答」、要するに「なるほど、確かに」と多くの人が思えるような、「筋の通った真っ当な答」だ。
しかしこの「筋の通った真っ当な答」が導かれる特性こそが、ロジカル・シンキングの2つの弱点を産み出している。

ひとつめの弱点は、「想定外に弱い」ことだ。

筋の通った真っ当な答とは、それが「正解である確率が高い」ということであり、反対に言えば、ロジカル・シンキングでは「確率の低い、あるいは確率がわからない答は排除される」傾向が強い。
だからロジカルに検討された中期計画などでは、将来どうなるかまったく読めない要因、たとえば天災や現在のトレンドなどについて、「起きない」や「継続する」、つまり「今と変わらない」ことが前提となりがちだ。

しかし現実はどうか。
ある日突然、天災が我々を襲うことがあるし、トレンドの風向きが真逆になることもある。
当たり前だ。「今と何も変わらない」物事など、この世に存在しない。
それなのに我々はこうした突然の変化を「想定外」とみなし、うろたえる。当初の計画は使い物にならなくなり、場当たり的に対処するしかない。
福島の原発事故や、現在のマクドナルドの苦境などはまさにこれだ。

マイク・タイソンの名言に、「誰にでも計画はある。顔面にパンチをくらうまではな(Everybody has a plan until they get punched in the face.)」というのがある。
企業の多くの中期計画や事業戦略、仕組みの導入などは、ロジカル・シンキング「だけ」では、顔面にパンチをくらったボクサーと同様、「想定外に対応できない」のだ。

そしてふたつめの弱点が、「斬新・独創的なアイデアが出にくい」ことだ。

「真っ当な答」とは、意地悪な言い方をすれば「普通で無難な答」だ。
問題の原因分析ならそれでも良いだろう。しかし、新商品のアイデアや従来にない仕事の進め方、つまりイノベーションを起こしたい場面では、こうした「まあそれだろうね」と多くの人が頷くような、どこかで聞いたことのある答では意味がない。
結果的にそれで競合との差別化ができなかったら、事業の存続すら危うくなってしまう。
わが国の家電メーカーの現状を見れば、それは明らかだ。

2. ポストロジカル・シンキングとしてのLeap思考

さて、こうした弱点を補完するために、ロジカル・シンキングの次(=ポスト)に我々が習得する必要があるのが、”Leap思考”だ。

Leap思考とは、ひとことで言えば「視野を広げ、発想を『跳ばす』思考法」だ。
時間的な視野を広げて「もっと先の未来を見る」こと、そして空間的な視野も広げて「もっと多様な未来を見る」ことで、ロジカル・シンキングの弱点である「想定外」を減らしていく。逆に言えば「想定内」を広げること。
これがLeap思考のコンセプトその1、”Leap into the future”だ。

そしてロジカル・シンキングのもうひとつの弱点を克服し、多様な未来への斬新・独創的な対応策を考える。発想を「普通の答」から「突飛な答」に、まさに「跳ばす」こと。
Leap思考のコンセプトその2、”Leap into the originality”だ。
「こうなるだろう」という想定内の未来だけでなく、「こうなるかもしれない」未来の姿を何通りも描き、そのプロセスで発見したテーマの斬新・独創的な実現・解決策のアイデアを数多く出す。
まさにロジカル・シンキングを補完する思考法、それがLeap思考なのだ。

3. Leap思考を身につける

しかしポスト・ロジカル・シンキングと言っても、それは「ロジカルに考えない」「適当に、あるいは好き勝手に考える」ことではない。
「とにかく多様な未来を」「とにかく斬新なアイデアを」と、思いつきだけで答を出そうとしても、悩む時間ばかりが長くなり、たいした答など出てこない。
ポイントは、”Leap into the future”と”Leap into the originality”をやりやすくする「道具」を使って考えることだ。

「思考力」を「筋力」メタファーで考えてみよう。自宅で地道に腹筋や腕立て伏せをしても筋力は鍛えられるが、ジムに通って様々なマシーンを使えば、より効果的・効率的に筋力を鍛えることができる。
これと同じで、適切な「思考ツールやメソッド」を使えば、より効果的・効率的にLeap思考が実現できる。
“Leap into the future”であれば、最適なのは「シナリオプランニング」だ。
現状分析で見えてきた様々な環境要因の中から、不確実性が高く、かつ自分達に影響度の大きいものを選択する。次にその変化をフューチャー・マトリクスやインフルエンス・ダイアグラムで可視化しながら、何通りもの未来を想像する。これがシナリオプランニングだ。

研修などで、複数の情報から仮説を立てさせることがある。
そこでは様々な事象や活動、データを情報として提示するのだが、情報の背景である原因や理由、つまり過去の仮説は立てることができても、情報の結果や影響、つまり未来の仮説を立てることが苦手な人が多い。
これは「なぜ?」と目の前にある問題の原因分析を行い、その問題を解決することが仕事の中心となり、「これから何に取り組むべき?」そして「それをやったら何がどうなる?」という、未来を見据えた思考の習慣が少ないことに起因する。失礼ながら「後ろ向き思考」には慣れていても、「前向き思考」に慣れていないビジネスパーソンが多いのだ。

シナリオプランニングを使えば、そうした方々も比較的容易に「起こるかもしれない」多様な未来を想像することができる。まさに”Leap into the future”を実現する道具と言えるだろう。
次に”Leap into the originality”だが、これについては既に様々な「発想法」が、道具として世の中に存在する。そうした中から、自身と状況に合うものを試行錯誤すればよい。

しかし、中でも発想を「跳ばす」のに効果的な方法論が「強制連関法」だ。
我々は「自由に発想しろ」と言われても、どうしても無意識的に常識と経験に縛られてしまう。だからストレートにあるテーマの答を考えるのでなく、「別の何か」に置き換え、関連づけることで、強引・強制的に斬新なアイデアを「ひねり出す」。これが強制連関法だ。

この強制連関法の具体的メソッドだが、特にその効果と使いやすさからお勧めしたいのが、「メタファー法」と「AP法」だ。前者は本来のテーマに近い共通点の多い何かに、後者は反対に本来のテーマの対極(Antipole)となる何かに置き換え、関連づけて発想を跳ばす思考ツールだ。

さらに、メタファー思考とAP法をシステマティックに行う、NM法やNM-AP法を使えば、より効率的に斬新・独創的なアイデアが出せる。
ここでは個々の発想ツールの解説は割愛するが、AP法は筆者が開発した手法であり、「あえて対極の存在」と関連づけることで、メタファー法以上に発想を「遠くに跳ばす」ことができる。

ただ、シナリオプランニングやAP法といった道具を使えば、最初から誰でもLeap思考が実現できるわけではない。
多くの道具がそうであるように、何度も使ってみる、つまりトレーニングを繰り返すことで、我々は少しずつその道具を使いこなせるようになる。そしてやりたいと思っていたことができるようになる。
これが「スキルを身につける」プロセスであり、思考スキルであるLeap思考も同じだ。
さあ、様々な思考ツールやメソッドを使って多様な未来を想像し、斬新・独創的なアイデアを発想する「練習」をしよう。
そうして少しずつLeap思考を身につけ、自身と組織、そして社会にイノベーションを起こしていってほしい。

桑畑幸博(くわはた・ゆきひろ)
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應MCCでプログラム企画や講師を務める。
また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。
主な著書に、『すごい結果を出す人の「巻き込む」技術 なぜ皆があの人に動かされてしまうのか?』(大和出版)『日本で一番使える会議ファシリテーションの本』(大和出版)『論理思考のレシピ』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

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