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田口 佳史『東洋思想に学ぶ40代からの人として強くなる法』

2017年02月14日

田口 佳史
東洋思想研究家
株式会社イメージプラン代表取締役社長

 四十代は、仕事でもプライベートでもさまざまな問題が一気に押し寄せてくる年代です。それら諸問題にうまく対応していくためには、「心身ともにタフな人間」にならなければなりません。そうでなければ、人生はどんどん先細っていくでしょう。
「人としての強さ」をどう磨くか。
その方法を東洋思想から学ぶことができます。

 四十代は、人生も、ビジネスのキャリアも、まだようやく半ばです。本物の実力をつけるのはこれから、といいたいのです。そのうえ四十代はとにかく忙しい。しかしそれを言い訳にしていると時はすぐに経ってしまいます。どんなに忙しくとも深謀遠慮をめぐらせ、この自分の“自分強化計画”を持てるかどうか。それが四十代から人として強くなれるかどうかの分岐点です。

 私自身の人生を振り返っても「四十代のあのときが将来をつくる節目だった」「四十代に踏ん張ったからこそ、いまの愉快な人生を手にできた」と実感しています。みなさんも、いまこそ踏ん張り、仕事やプライベートのさまざまな問題にうまく対応しつつ、「人としての強さ」を磨き、四十代からの人生を太く、たくましくいってください。東洋思想からそのための言葉をいくつかご紹介したいと思います。

慢心しない

 四十代で、周りに人がいなくなってしまう人がいます。つまり、孤立してしまう。 
 その原因は何か。
 「慢心」です。
 慢心はどんなときに生じるのか。多くは、大なり小なり成功をおさめ、何もかもが順調にいって有頂天になっているときです。
 しかし、好調であればあるほど「慢心」という悪魔の手にからめとられる危険が増します。俗に、「渦福はあざなえる縄のごとし」とか「人間万事塞翁が馬」とかいわれるように、よいときも、悪いときも、それは長続きしません。四十代にもなって、そういった「この世の法則」を心得ていない人は危険といえます。

 「天の配列」というべきか、この世の中には「偏りあれば平坦にならす力」が働いています。

 「高き者は之を抑え、下き者は之をぐ」

 という『老子』にあるこの言葉が、それを端的に表しています。

 慢心すると、努力を忘れます。
 好調を支えるものは、より高きをめざして進む日々の努力にほかなりません。まだ四十代という若さで、その努力を怠けてどうするのか。
 四十までに手にする成功など、たかが知れています。今後のさらなる飛躍のための通過点にすぎません。そこで満足している場合ではないのです。
 ですから、「絶好調が続く中で自己満足に陥っていては、今後は先細りする一方だ」と心得てください。
 四十代はまだまだ若いとはいえ、この時期に慢心によって凋落すれば、巻き返しができるほどの時期ではないことを心に留めておく必要があります。

 また、慢心すると、周囲の人たちから遠ざけられます。
 自分の成果を「どうだ、すごいだろ」とやたら吹聴したり、地位を笠に着て高圧的な態度に出たりする人に、誰が好意を持つでしょう。 直に「すごいですね」と思って近寄ってくる人は稀で、大半の人が表面的に尊敬しているふうを装うか、「イヤなヤツだ」と敬遠するか、です。
 そうして人心が離れてしまうと、周囲の人たちからの協力が得られなくなります。
 どんな仕事も自分一人の力で成し遂げられないのですから、その後のせいかは望むべくもありません。

 「孤立」をすると、仕事人として弱くなるのは確実です。

 「自らほこらず、故に功あり。自らほこらず、故に長たり」

 『老子』のこの言葉は、
 「自分の業績や才能を誇らない。だから、ますます認められる。」
 という意味です。
 慢心してはいけないとわかっていても、絶好調のときはつい周囲にアピールしたくなる。そこをぐっとこらえて、謙虚さを取り戻すことを意識しましょう

常識を外さない

 四十代は自身満々の時期であるだけに、気概がありすぎて、常軌を逸した行動に走りがち。“オキテ破りの無礼者”になりかねません。

『菜根譚』には、「礼」、社会の常識を大事にすることについて、そのことを戒めた

「気象は高曠こうこうなるを要するも、疎狂そきょうなるべからず」

という言葉があります。
「気概に満ちていることは必要だけど、並外れて粗雑になってはいけない。常識的な判断ができなければダメだよ」
としています。

 よく「日本の常識は世界の非常識」などといいますが、四十代はそういう状況に陥りやすいのです。
 とりわけ注目が必要なのは、自社の中では半ば常識として通用していたことをそのまま、他社の人たちと行動をともにする場に持ち込んでしまわないようにすることです。「自社の常識は社会の非常識」ということがありうるからです。
 最近はこの種の非常識な人間がだんだん増えてきたような気がします。常識的な判断ができず、しかも「場の空気を読む」力もなければ、社会から「無礼な人間だ」と断罪されるだけ。四十代の力量としては、はなはだオソマツです。
 どこに出ても恥ずかしくない人間になることを目指しましょう。

恨みを買わない

 「人の小過を責めず、人の陰私を発かず、人の旧悪を念わず」

 これは『菜根譚』にある言葉です。
 「人の小さな過ちを責め立てるな。人が隠しておきたいことをあばくな。人の過去の悪事をいつまでも覚えているな」
 という意味です。

 ついやってしまいがちなことばかりですが、自分では軽い気持ちでいったことでも相手はそれを根に持たないとも限りません。
 些細なミスに目くじらを立てれば、相手は「そこまで非難しなくてもいいじゃないか」と、自分のミスを反省するどころか、責め立てたあなたに敵意さえ持ちます。
 人は、大っぴらにいってほしくないことをいわれれば、それが事実であっても「なんてデリカシーのない人だ」と恨みを持ちます。また、ミスをして「昔もこういうミスをしたよな」とあげつらわれたり、成果を出して喜んでいるのに「昔はこんなこともできなかったのにな」と水を差されたりすれば不快に思います。
 不用意な言葉は相手の恨みを買うだけ。どんな災いを引き寄せるかわからない。四十代は、そのことを肝に銘じておくべきです。

 四十代は、多くの人を味方につけて、大きな仕事をやっていく時期です。だからこそ、不用意な言動で敵をつくらないように用心には用心を重ねてください。
 これは賢く生きるための戦略でもあるのです。

風格を身にまとう

 ところで、「人生を楽しむ」とは、どういうことでしょうか。

 『論語』に、四十代にふさわしい人生の楽しみ方のヒントがあります。

 「知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ。知者は動き、仁者は静かなり。知者は楽しみ、仁者は寿いのちながながし」

 ここでは、賢く教養のある「知者」と、人格者である「仁者」に分けて、人生の楽しみ方を提示しています。
 「知者は川の流れのように移ろいやすい流行を楽しみ、仁者は山のように不動・不変の真理を追究することを楽しむ。知者は活動的に人生を楽しみ、仁者は心穏やかに日々を過ごして長寿をまっとうする」
 直訳するとこうなります。
 孔子は私たちに、「知者として生きるか、仁者として生きるか」と問いかけているわけではありません。
 どちらがいい・悪いではなく、人生を楽しむにはどちらも大切だとしている。そう解釈するとよいでしょう。

 四十代は「知者」であり、そして「仁者」であって然るべきです。
 第一線で活躍するビジネスパーソンとして、時代の流れに敏感に察知し、対応しながら新しいチャレンジに取り組んでいくことが求められます。
 それは、「知者」のように、アクティブに日々を過ごすことを楽しみとすることです。
 一方、組織のマネジメント層に近いポジションにある者として、常に不変の真理を探究し、それを軸にした指示を通して、揺るがない存在感を発揮しなければなりません。
 それは、「仁者」のように、落ち着いて毎日を暮らすこと楽しみにすることです。

 四十代のうちはまだ「知者」の部分が大きくてよいのですが、五十、六十と年齢を重ねるにしたあって「仁者」の風格が身についてくるのが理想です。
 好きなこと、面白がって挑めることがたくさんある。楽しみ尽きない毎日でありながら、ときには心穏やかに哲学的思考に沈潜することを喜びとうる。
 四十代以降の人生をそんなふうに送れれば、愉快、愉快の人生をまっとうすることができます。
 知者のように、仁者のように、人生を楽しみましょう。

 

『東洋思想に学ぶ40代から人として強くなる法』(三笠書房)より著者と出版社の許可を得て抜粋。無断転載を禁ずる。

東洋思想に学ぶ40代から人として強くなる法
著:田口 佳史; 出版社:三笠書房 ; 発行年月:2016年6月; 本体価格:1,512円
田口 佳史(たぐち・よしふみ)
1942年東京生まれ。新進の記録映画監督として活躍中、25歳の時タイ国バンコク市郊外で重傷を負い、生死の境で「老子」と出会う。奇跡的に生還し、以降中国古典思想研究四十数年。東洋倫理学、東洋リーダーシップ論の第一人者。
企業、官公庁、地方自治体、教育機関など全国各地で講演講義を続け、1万名を越える社会人教育の実績がある。 1998年に老荘思想的経営論「タオ・マネジメント」を発表、米国でも英語版が発刊され、東洋思想と西洋先端技法との融合による新しい経営思想として注目される。

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