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香川 靖雄「生涯の目標の実現と栄養」

2017年12月12日

人生100年時代の健康管理

昨今「健康経営」という言葉をよく耳にします。従業員の健康維持は、労働意欲を高め、生産性が向上するとともに企業の医療費負担や離職率を軽減するという観点から、個人の課題ではなく、今や経営課題ともなっています。

健康を維持する方法には、運動や休息などいろいろなアプローチがありますが、日々の生活に欠かせない「食」すなわち栄養は、健康管理の基礎となり、その栄養の知識・考え方はいつの時代にも役立ちます。

来月1月20日より、女子栄養大学 香川靖雄先生のagora講座を開講します。香川先生は、女子栄養大学の創設者で日本の現代栄養学の礎を築いた「栄養学の母」香川綾先生のご子息で、85歳の現在も大学はもちろん医師、栄養士、一般の方々に学問としての正しい栄養学を伝える講義講演をされています。

栄養学の観点から、一人ひとりが環境やライフステージにあった健康管理に取り組むことによって、豊かな人生を実現してほしい。そんな願いから、香川先生は遺伝子栄養学・精神栄養学・時間栄養学といったさまざまな角度から正しい栄養学の普及と実践に取り組まれています。

本日は、香川先生が大学の授業で使用されているテキストから、「栄養と人生」についてのべられているページを紹介いたします。

(『香川靖雄教授のやさしい栄養学(第2版)』P176–P177より)

生涯の目標の実現と栄養

 人間にとっての栄養は、各個人がどのように生涯の目標を実現する手段であるかということをのべましょう。

 「健康は宝だ。健康のためなら死んでもいい。」という冗談があります。
栄養学は決してただ寿命を延ばすためにあるわけではなく、また人は生活習慣病を防ぐために生きているのではありません。各個人には自由に生きる権利があり、意義ある人生が送れるように、できるだけ健康寿命を維持するのです。
 例えば相撲のような肥満体や過激なスポーツは長寿とは矛盾するでしょう。現代栄養学では、どのスポーツについてもできるだけ成績が上がり、なおかつ健康を害さないように工夫するのです。

 健康は自ら守るべきであるという倫理感を実践した著書が『養生訓』です。
「養生の術は自分を大切にするばかりで、命さえあれば良いと思っている。しかし、君子は義のためには身命も惜しまない」という自著に対する批判を紹介しています。
 これに、著者の貝原益軒は、「およその事には常(平時)と変(危機)とがある。養生は常に対応する道である。常の時に身体を鍛えて、はじめて変に当たれる」と反論しています。
 多忙で養生できないという人に対して、貝原益軒は、「仕事に努力するのが良く、安逸はいけない」と答えています。一芸に打ち込んでいる百寿者が多く、安易な生活は認知症の元です。

 生活習慣病は個人の努力で予防できる場合が多いので、他人の生活習慣病の医療費を健康に努力している人が支払う日本の健康保険制度には批判が高まっています。ただ、健康に対して熱心になるあまりに強制的健康主義に(coercive healthism)になって、人間的生活を忘れてはいけません。自分自身の身体を理解しながら、一歩一歩改善していくのです。

 それと同時に、健康保険制度の一次予防重視への改革と、栄養改善、禁煙、節酒、運動などの紹介、たばこ代の欧米並みの3倍値上げなど社会的環境の整備も必要です。
 大切なのは医学書のような健康知識の寄せ集めではなく、健康な人生をいかに生きるかという自己の目標なのです。

 

『香川靖雄教授のやさしい栄養学(第2版)』より著者の許可を得て改編。無断転載を禁じます。

香川靖雄教授のやさしい栄養学(第2版)
著:香川 靖雄; 出版社:女子栄養大学出版部 ; 発行年月:2010年2月; 本体価格:3,024円
香川 靖雄(かがわ・やすお)
香川 靖雄

1932年東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業、聖路加国際病院、東大医学部助手、信州大学医学部教授、米国コーネル大学客員教授、自治医科大学教授、女子栄養大学大学院教授を経て、自治医科大学名誉教授、女子栄養大学副学長。専門は生化学・分子生物学・人体栄養学。

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