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永井 恒男、齋藤 健太『会社の問題発見、課題設定、問題解決』

2020年01月14日

永井 恒男
Ideal Leaders株式会社代表取締役
齋藤 健太
株式会社クロスメディア・コンサルティング代表取締役

読者のみなさまにとって、経営における問題とはなんですか?
様々な事柄が浮かぶでしょうが、それが問題だとしたらみなさまにはなんらか現状とは異なる理想の姿をお持ちではないでしょうか?
なんらか理想の姿を持っていて、それと現実になんらかのギャップがあるからこそ「問題がある」と感じるのだと思います。

経営において、問題の発見から解決に至るスタイルには大きく分けると2つあります。「ビジョンアプローチ」と「ギャップアプローチ」です。

ビジョンアプローチ

ビジョンアプローチは、理想とする将来像を描き、それの実現に向けて組織構成員が主体的、前向きに推進していきます。理想とする将来像には多くのステークホルダーの理想的な状態が描かれています。一般的には5~10年先の姿を絵本にするように具体的に詳細に描きます。単年度の目標は、その将来像を実現できるように逆算して設定します。

ビジョンアプローチでは、ゼロをベースに理想の姿に向かってどれだけ進んだか?に注目します。水がコップの半分入っている状態において「水が半分も入っている」と喜ぶことができるのが、ビジョンアプローチの特徴です。
このマインドセットでは、他人と比較するのではなく、以前の自分と比較します。先月、昨年の自分と比べるとどれだけ自分は将来像に向かって進んだのか? を考えます。目標ヘのギャップを追求するのではなく、目標達成を祝うマネジメントが必要になります。
例えば、個人のノルマを作らないとか、チーム全体で目標を設定するといったような工夫があります。他人と比較するわけではないので、同僚は競争相手ではなく、将来の理想像を目指す同士です。

ギャップアプローチ

一方、ギャップアプローチは、定量的な目標(主に財務目標)を設定し、組織構成員をプレッシャーによって駆り立てていきます。
定量的な目標は、主に社員が目指すべきものであったり、株主に対するコミットメントとして示されます。また過去の延長線上に達成できそうな難易度で目標は設定されることが普通です。
過去の実績をベースに、将来の計画を立てるギャップアプローチが経営では通常のことだと思います。
「昨年度は前年度から5%成長したから、今年度も5%くらいは成長できるだろう」、「過去5年間、平均年率3%成長したから次の5年間は3%成長の計画を立てよう」といった感じだと思います。

月々の目標達成が仕事における大きな関心事となり、目標への到達度合いや同僚との比較がとても気になります。水がコップの半分入っている状態において、空の部分が気になり、「コップを満たすためには残り半分なんとかしなくてはならない」というマインドセットが生まれます。このマインドセットがギャップアプローチの特徴です 。
組織内で順位が生まれ、上位の社員は自分が誇らしく優越感を感じますが、下位の社員は目標達成できないことに落胆、恥、申し訳なさを感じます。この場合、同僚は競争相手であり、不安やコンプレックスの原因です。協力関係が作りにくい状況であるとも言えます 。

魅力的な夢と未来を描く

現在、多くの企業の中期経営計画等で描かれている目標は、財務的なKPIとそれを実現するための施策となっています。そのような目標に関心があるのは、株主と社員くらいでしょう。就職活動している学生やその企業とビジネスをしようと思っている人たちも感心を持っているでしょうが、一般の人たちにとってはどうでもいいことだと思います。
企業の理念やミッション、社是を見ると、ほとんどが「より良い社会づくり」や「社会への貢献」を謳っています。そして、社員の方々は日々良い商品、サービスを提供するために邁進しています。せっかくですから、もっと多くのステークホルダーにとって魅力的な夢を描きましょう、というのが筆者の主張です。
財務的なKPIで「売上・利益○○億円」や「業界ナンバーワン」を目指すのではなく、お客様や社会にどのような変化や価値を提供するのかを示すのがビジョンアプローチです。

ビジョンアプローチによる理想の将来像は、目指す姿を具体的に表現します。例えば、筆者が知っている例としては、森ビル株式会社の都市のビジョン「Vertical Garden City – 立体緑園都市」、戸田建設の『未来の歩き方』があります。
小売業でも素晴らしい例があります。丸井グループは「丸井グループ ビジョン2050」を作成し、「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」というビジョンを発表しています。
丸井グループは社員や役員との約一年間の議論を通じてこのビジョンを策定しました。2016年ごろからESGにも熱心に取り組んでいますが、直近の5年間で株価は2.2倍になっています。
小売業界の中でも輝く存在であるのは、消費者を含むステークホルダーが丸井グループが標榜する世界のありたい姿に共感している人が多いからではないでしょうか。

考えてみればある企業が「売上を伸ばし、業界でトップになる」と宣言しても、多くの市民、消費者にとってはどうでもよいことです。それが「より良い世界を作るために頑張っています」ということなら話は別です。ここで紹介した将来像に対する評価は人それぞれだと思いますが、共感し、応援したいという人も現れるでしょう。
ビジョンアプローチによる理想の将来像は人も巻き込む影響力があり、より多くのステークホルダーを巻き込んだ理想の将来像こそ、より多くの人々をインスパイアすると筆者は考えています。

そもそも問題解決とは何か

経営者であれば、会社経営するに当たって、ぼんやりとでも「理想の姿」をイメージされていると思います。
その一方で、その理想の姿には至っていない「現状」が目の前にあるでしょう。
この「理想の姿」と「現状」、このギャップこそが「問題」です。

例えば、会社経営においては、理想の姿に対しての現状が、

  • 売上が減少している
  • 新規事業がうまくいっていない
  • 離職者が増えている

などといった、理想の姿を実現するための「解決したい事象」があるはずです。
これが会社においての「問題」となります。
従って、問題解決とは、「企業経営における理想の姿を実現するために、現状足りていない(マイナスな)事象を解決すること」なのです。

さて、問題解決をするに当たっては、みなさん、様々な施策を講じるのではないでしょうか。
売上が足りないから、「営業人員を増やす」や「商品数を拡充する」、あるいは「まだやっていないWeb広告に力を入れる」、はたまた「そもそもの事業計画を見直す」など、売上に寄与“しそうな”施策を打つ企業は少なくないと思います。
しかし、それでは効果は十分に出ないのです。

問題解決をするためには、いきなり問題を解決しようとするのではなく、まずはそもそも問題が起こっている根本原因を明らかにすることが重要なのです。
例えば、売上が足りないのであれば、なぜ足りないのかを明確にします。
「営業」部分であれば、人員が足りないのではなく、属人的な営業となっていて成績に大きなバラつきがあるのかもしれません。その場合、営業人員を増やしても抜本的な解決にはなりません。まずは誰でも受注に繋げられるような業務フロー、仕組の構築が必要になります。
「Webサイト」部分であれば、そもそも顧客が必要としているコンテンツが入っていなかったり、商品購入までの導線がわかりづらかったりすると、広告費をかけて集客できたとしても、その後の受注に効率よく繋げることはできません。
その場合、広告費をかける前に、まずはWebサイトの中身を改善する必要が出てきます。
このように、問題解決するに当たって重要なのは、解決する前にその問題の根本的な原因を把握する、すなわち「問題発見」がまず必要となってくるのです。問題発見されることで、理想の姿を実現するために必要なことが洗い出されるのです。

定性分析・定量分析を使いこなし理想の経営を実現する

本書では、第1章から第3章までは、理想の将来像(ビジョン)を掲げることの重要性とその構築の仕方を提示しています。
ほとんどの企業には10年以上先の目標や計画がありません。
代わりに中期経営計画がありますが、そこでは、過去の成長率をベースに3年後や5年後の目標を掲げています。もちろん外部環境を考慮し、過去の成長率にプラス・マイナス・アルファをするでしょう。

これでは、未来は過去の延長線上にしかありません。
90年代のバブル崩壊後、「失われた10年」が20年、30年と続いていますが、失われた10年をベースに成長率を規定してきたのですから、失われた20年、30年を迎えたことはなんら不思議ではありません。
筆者(永井)は、理想の将来像(ビジョン)は挑戦的に高いレベルが提示してあり、できるだけ詳細に具体的に描かれていて、かつ、関わる多くの人々にとって魅力的であることが重要だと考えています。こうした、野心的で人をワクワクさせる理想の将来像(ビジョン)が、企業に質と量の成長をもたらすのです。

第4章以降は、理想の将来像を実現するために必要なデータ分析の仕方を提示しています。
企業には、過去から今まで積み上げてきた「実績」という様々なデータが蓄積されています。しかし、多くの企業は、データが持つ本来の意味や活用方法を理解し切れていません。
筆者(齋藤)は、データは過去の産物ではなく未来に活かすための道具として活用すべきだと考えています。そのためには、自社の経営にとってどんなデータが必要なのか、あるいは自社に蓄積されているデータを経営にどう活用できるのか、データと真剣に向き合うことが必要です。
データがあなたの会社の経営を結びついたとき、理想の将来像が「現実」のものになっているはずです。

実は、筆者(永井・齋藤)はある反省がベースとなって、本書の執筆をスタートしました。それは、理想の将来像(ビジョン)を考え、提示することが得意な方は必要なデータ分析や具体的な実行計画を軽視し、データ分析や計画策定が得意な方は現状の改善に意識が向かい、理想の将来像(ビジョン)を描くことを忘れる傾向があるということです。
異なる専門性を持った二人の筆者が共同で執筆することで、その理想の将来像(ビジョン)の提示と、それを実現するためのデータ分析と計画策定の両方をご理解いただこうと思い、筆を取りました。
本書では、みなさまの組織の理想の将来像(ビジョン)を実現するための、本当の問題を発見し、解決していく方法を具体的事例も踏まえて説明していきます。
それでは、理想の経営を実現させていくための旅に出かけましょう。

 

会社の問題発見、課題設定、問題解決』(永井恒男、齋藤健太著。クロスメディア・パブリッシング)から著者・出版社の許可を得て抜粋・編集しました。無断転載を禁じます。

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会社の問題発見、課題設定、問題解決
著:永井 恒男, 齋藤 健太; 出版社:クロスメディア・パブリッシング ; 発行年月:2019年10月; 本体価格:1,680円(税抜)
永井 恒男(ながい・つねお)
  • Ideal Leaders株式会社 代表取締役
Midwestern State UniversityにてMBA取得後、(株)野村総合研究所に入社。経営コンサルタントとして活動後、社内ベンチャー制度を活用し、エグゼクティブコーチングと戦略コンサルティングを融合した新規事業イデリア を立ち上げ、10年間事業を推進。2015年、Ideal Leaders株式会社を設立し、代表取締役に就任。経営者や企業のPurposeやビジョンを再構築するプロジェクトを数多く手がける。また上場企業の取締役、執行役員に対するエグゼクティブコーチングの提供数は日本随一の実績を持つ。ソーシャルセクターの活動としては特定非営利活動法人日本紛争予防センターの理事を務める。
齋藤 健太(さいとう・けんた)
  • 株式会社クロスメディア・コンサルティング 代表取締役
慶應義塾大学理工学部卒業後、(株)船井総合研究所の戦略コンサルティング部(当時)に属し、幅広い業種において、事業計画策定やマーケティング支援、ビジネスデューデリジェンス等に携わる。2012年1月に独立し、製造業や小売業、サービス業など、主に中小~中堅企業の支援に従事し、売上向上等の成果を上げる。特にデータ分析においては、他のコンサルティングファームやビッグデータ解析を行うAI ベンチャー、大手教育関連企業からも相談依頼が多く集まる実績を持つ。2018年10月に株式会社クロスメディア・コンサルティングを設立、現在に至る。著書に「問題解決のためのデータ分析」など。

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