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前野 隆司「ポストコロナ時代の幸せなはたらき方」

2021年04月13日

前野 隆司
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって、誰もがそれまで意識すらしなかった当たり前を手放し、慣れない生活を余儀なくされました。特にビジネスパーソンの多くは通勤、コミュニケーション、成果、評価など、多くの変化にさらされています。

やがては訪れる”コロナ後”を含め、私たちはどのように生き、働くことで幸せでいられるのか、幸せに生きるための「幸福学」の第一人者・前野隆司先生にポストコロナ時代の幸せな生き方、働き方を伺いました。


幸せな状態をもたらす四つの因子

私はロボットや人工知能の研究を行う中で、全ての人にとって最も大切なことは「幸せに生きる」ことであるのではないかと思うようになりました。それが現在の幸福学研究に携わるようになったきっかけです。
人はどのようなときに幸せを感じるのか。それは、私が「幸せの四因子」と呼ぶ要素を満たすことで、幸せな状態を促進することができます。

  1. やってみよう因子:主体性、行動力、成長
  2. ありがとう因子:他者とのつながり、利他性、感謝
  3. なんとかなる因子:楽観性、自己受容、チャレンジ精神
  4. ありのままに因子:自分の好きや得意に集中、自分軸

大切なことは「自分が中心にあること」です。そもそも人は幸せに生きるべきなのに、多くの人が他人の目を気にして自らの幸せの追求を忘れてしまっているように思います。
自分中心であるということは、すなわち、幸せは自分で作り出すことができるということです。自分がワクワクする方向へ、自分の意思で行動しているときは誰もが幸せを感じますよね。ですからまずは、主体的に行動することが幸せの第一歩です。

そして、そこに自分以外の誰かが関わると、より遠く、高くまで到達することができます。会社組織で考えるとわかりやすいと思います。チームや組織だからこそできることがたくさんありますよね。異なる人間同士ですから、時には摩擦や衝突もあるでしょう。でもくよくよしすぎず、助けてもらって感謝したり、誰かを助けて感謝されたりすることで、幸福度は上がります。

はたらく人に幸せ/不幸せをもたらす14の因子

昨年7月に、パーソル総合研究所との共同研究「はたらく人の幸福学プロジェクト」において大規模な調査を行い、はたらく幸せ・不幸せをもたらす14の因子を特定しました。そしてその結果をもとに、はたらく人の幸せ/不幸せを診断するツールを開発しました。

はたらく人の幸せの7因子/不幸せの7因子

たとえば幸せの7因子にある「自己成長(新たな学び)」とは、仕事を通じて未知な事象に対峙して新たな学びを得たり能力の高まりを期待することができている状態であり、「チームワーク(ともに歩む)」は仕事の目的を共有し、相互に励まし・助け合える仲間とのつながりを感じることができているという因子です。一方で不幸せの因子である「理不尽(ハラスメント)」は仕事で他者から理不尽な要求をされたり、一方的に仕事を押し付けられたり、そのような仲間の姿をよく見聞きする状態であり、「疎外感(ひとりぼっち)」は同僚や上司とのコミュニケーションにおいてすれ違いを感じ、職場での孤立を感じているという因子です。
そして診断ツールでは、一人ひとりのはたらく幸せ・不幸せの因子がどんな状態にあるかを定量的に把握することができます。

また、この調査を行った際に大きな発見がありました。それは、幸せの因子の数値を上げると同時に、不幸せの因子の数値を下げるということ、つまり幸せの条件を満たすと同時に不幸せの条件を満たさないようにして初めて幸せな職場が実現できるということです。どれだけ成長実感があって仲間に恵まれていても、オーバーワークで心身ともに疲れきっていては幸せな職場にはなり得ないのです。

イェール大学のニコラス・クリスタキス教授は、「幸せも不幸せも伝染する」、すなわち、幸せな人の周りには幸せな人が多く、不幸せな人の周りには不幸せな人が多いという研究結果を発表しています。幸せの因子の値が上昇し、不幸せの因子の値が低下すると、チームや組織のパフォーマンスも向上する、という好循環が生まれるのです。個人でも組織でも、よりよく、より幸せになるためには現状を知ることが出発点ですので、ぜひ診断してみてほしいと思います。

厳しい環境で幸せになる人、不幸せになる人

新型コロナウイルスがもたらした突然の不便さ、不自由さ、新たな課題に対し、不可能だ、困った、心配だとストレスを抱えて不幸せになる人がいる一方で、幸せでい続けることができている人もいます。

たとえば私が慶應MCCで講師を務めているプログラム『デザイン×システム思考-幸せなイノベーションを実現する』はグループワークで進めるスタイルのため、当初オンラインで開催することは厳しいのではないかと思っていました。しかし、担当のラーニングファシリテーターと協力し、思い込みを捨て、新しい進め方を取り入れ、創意工夫をしたことで、参加者からは以前と変わらない高い評価を得られました。とても発見の多い一年でした。

コロナ禍でも幸せでい続けられる人と不幸せになってしまう人の分かれ目は、やはり幸せの四因子にあります。厳しい言い方になりますが、これまで幸福度が低かった人は、今回の環境変化でさらに不幸せになる可能性があるんですね。

たとえば孤独で辛いとき、誰かとコミュニケーションをとろうと行動する人は幸福度が高まります。直接会えなくても、オンラインという方法がありますし、電話でもいいのです。行動しないという選択をした人は、自ら孤独を作り出し、不幸せになってしまっているのです。

最初の行動は小さなことでいいのです。誰しも、好きなこと、ワクワクすること、やりたいことが一つはあるはずです。ワクワク感からの行動は主体的な行動であり、主体的な行動は確実に幸福度を上げます。

学びは幸福の源泉

実は、学ぶという行動には幸せになる要因が複数含まれています。
まず学びは「成長」です。新しいことを学ぶだけでなく、自分自身の経験を整理したり、異分野との相違点や思わぬ共通点を発見したりすることで、成長を実感できます。
さらに、「他者と共に学ぶ」という行為は成長に加えて「つながり」「利他性」を同時に満たすことができます。発表などのアウトプットがあるとさらに良いですね。ですので慶應MCCという学びの場は、ビジネスパーソンの幸せにとても貢献しています。

できないことを気にするのではなく、できること、得意なことに着目して、小さな成功体験を積み重ね、自分に対する信頼、自分が好きであるという「自己肯定感」を育ててください。社員の育成に携わる人も、相手の自己肯定感を育てることを念頭に向き合ってほしいと思います。

幸せは、自分でつくり出すことができるのです。

前野隆司(まえの・たかし)
  • 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授
1962年山口市生まれ。1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。1986年キヤノン株式会社入社、生産技術研究所勤務。1990年7月カリフォルニア大学バークレー校機械工学科 Visiting Industrial Fellow(1992年6月まで)、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)。1995年慶應義塾大学理工学部機械工学科専任講師、1999年慶應義塾大学理工学部機械工学科助教授、2001年ハーバード大学応用科学・工学部門 Visiting Professor(9月まで)、2006年慶應義塾大学理工学部機械工学科教授。2008年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授、2008年慶應義塾大学環境共生・安全システムデザイン教育研究センター長兼任、2011年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長、およびシステムデザイン・マネジメント研究科付属システムデザイン・マネジメント研究所長兼任。
主な著書
慶應MCC担当プログラム

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