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田口 佳史「人新世じんしんせい」の時代に ―「東洋思想」からの提言

2021年02月09日

田口佳史
東洋思想研究家、株式会社イメージプラン代表取締役会長

1995年のノーベル化学賞受賞者の大気化学者パウル・ヨーゼフ・クルッツェン(Paul Jozef Crutzen)は、地質学的に新たな時代「人新世じんしんせい」(Anthropocene)に入ったと述べました。

2000年という、まさに21世紀の幕あけの年に発せられたこの発言が、20年経ち、いまコロナによる重圧の下に暮す私たち、さらにパンデミックに踠き苦しんでいる世界中の人々の現状を毎日テレビ報道で見るにつけ、より一層重大にして身近かな課題として迫ってくるように思います。

人類による諸々の活動が危険な領域に入り、この地球上の生態系という秩序を崩し多くの他の生物を死に追いやり、絶滅さえさせています。それはやがて当の人類自体にも驚異的な災害被害をもたらし、結局のところは地球を壊滅的な状態へと陥らせる可能性さえあるのです。

賞賛さえ伴って益々隆盛になりつつある「人工的」な諸活動による成果は、“人間に不可能は無い”といわんばかりに、自然をたちまちのうちにアスファルトとコンクリートのジャングルに変容させ、その活動は地球上はおろか、いまや宇宙にもその影響を及ぼそうとしています。
とどまるところを知らない拝金主義による狂奔と征服欲の拡大など、人間の悪い部分が出ているとしかいいようがありません。

”人間は少々傲慢になりすぎているのではないか”と以前からいわれていました。
しかしこのコロナ禍で自分が死の危険に直面してみると、看過できないこととしてこの警告が改めて迫ってくるのを実感するのです。

「人新世」という地質学的年代区分は、1万1千700年前の氷河の融解による「完新世」時代のはじまり、世界の海水面が120mも上昇した大変化から続く地質時代は、現在もまだ続いているという主張に対し、いや既に地球は次のフェーズに入ったという見方を表わしており、多くの科学者はこれに対して異議のないところだということですが、正式に国際層序委員会が認めている地質年代ではありません。

しかし、現在の地球を被う、気候変動や地球温暖化など、また大気や海洋の組成の変化等を実感するにつけ、何か予想外の変化が、見えないところで起り進んでいるのではないか、という懸念を抱かざるをえません。
手を拱いて見ているばかりでは、取返しのつかない事態になってしまうのではないでしょうか。

地球に住む者としての心得として、まず、その環境汚染や破壊の現状をよくよく知ることが必要です。と同時に、一個の人間として出来ることは何かを探求してみることも必要なのではないでしょうか。今年の約一年間は、コロナによる自粛期間の引きこもりでしたから、これを活用しての自習の時間としました。

最初私は老荘思想、つまり道家の思想に、タイ国バンコクの病院に入院中劇的に出会い、「老子」を生命保持のガイドとして毎日毎日救われたい一心で読むことからはじまりました。25才の時です。しばらく経って興味は「荘子」へと広がり、やがて老荘思想の確かな理解の為に、儒家へと進み、「四書五経」と接するうちに、そこに「漢籍」という大きな学問の大河のあることを知り、のめり込むようその魅力に取りつかれました。
漢籍のより良い理解の為には、「仏教」をより深く理解することこそが重要であることを知り、中村元、玉城康四郎という先達に導かれて仏説の世界を渉猟し、合わせて禅仏教の魅力へと進み、秋月龍珉から鈴木大拙という巨人の説くところに接するうち、これまで学んで来た「儒家思想・仏教・道家思想・禅仏教」、これら全てがわが国日本に8世紀もの永きに渡って蓄積しながら、各々独自の成長を続け、さらに日本の伝統精神文化に与えた影響は計り知れないものがあり、その基底にある「神道」と共に、人類の知的資源といえるほどの「東洋思想」としての主張を明らかにし形成したということを知ったのです。

気付いてみたら老子に出会ってから最早50年も経ってしまっているのです。この間ひたすら学ばせていただいた御礼にもなるし、「地球の危機、人間の危機」に対して微力ながら、この 「東洋思想(儒・仏・道・禅・神道)」 をもってその危機緩和、回避の一助を提供しようと思ったのです。

江戸の幕末、西洋列強の襲来を「西洋近代思想の東洋思想に対する挑戦」と受け取り、五経「尚書(書経)」の深読みにより、「東洋思想をもって西洋思想を羽包はぐくんでやるのだ」と説いた横井小楠の気概にならって、 ニュースレターにより、世界の人々に「東洋思想の説く大義」を明示したく思った次第であります。

来年からのタオ講座の筆頭講義に「東洋思想(儒・仏・道・禅・神道)の出番がやっと来た」と称するものを据えましたのも同様の主旨であります。
ニュースレターと講義、文章と説話の両方で訴えることにより、少しでもその趣意するところをご理解いただきたいと思ったからであります。

以上、思うところを申し上げました。

田口佳史(たぐち・よしふみ)
田口佳史

  • 東洋思想研究家、株式会社イメージプラン代表取締役会長
1942年東京生まれ。新進の記録映画監督として活躍中、25歳の時タイ国バンコク市郊外で重傷を負い、生死の境で『老子』と出会う。奇跡的に生還し、以降中国古典思想研究四十数年。東洋倫理学、東洋リーダーシップ論の第一人者。企業、官公庁、地方自治体、教育機関など全国各地で講演講義を続け、1万名を越える社会人教育の実績がある。 1998年に老荘思想的経営論「タオ・マネジメント」を発表、米国でも英語版が発刊され、東洋思想と西洋先端技法との融合による新しい経営思想として注目される。

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