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田口 佳史「人新世じんしんせい」の時代に ―「東洋思想」からの提言〔その2〕

2021年10月12日

田口佳史
東洋思想研究家、株式会社イメージプラン代表取締役会長

〔その1〕を読む

われわれはいま、150年から200年に一度の大転換期の真只中にある。
何の転換か。文明の転換である。「西洋近代思想」からの転換である。
 
地球がいま存続の危機に瀕している。
その実態を一つ挙げよう。
温室効果ガスというものがある。
二酸化炭素・水蒸気・メタン・窒素酸化物・オゾン・フロンなどだ。
これ等が大気中にあって、地表から放射される赤外線(熱エネルギー)を吸収して、地球の気温を上昇させる。
世界気象機関(WMO)の発表によれば、2019年の世界の平均気温は、産業革命前のレベルを1.1℃上回ったという。
こうして気温が上昇すると、地球上で最も大きく温暖化するのは北極である。
すると北極の永久凍土が融解しだすのだ。
永久凍土は、石と土と氷が凍り付いたもので、温まると融けるというより、ゆるみ出す。
軟らかくなる。永久凍土が軟らかくなると、それまで凍っていた微生物が再び活動を始め、数千年間凍土中に蓄積された動植物の残骸を分解して、二酸化炭素とメタンガスを放出する。
北半球の凍土地帯は何と1670万平方キロメートルにも及び、氷のない陸地の4分の1近くにも相当するのだ。これが次々とゆるみ出すとメタンガス、つまり温室効果ガスを大量に放出し、地球温暖化は劇的に加速する。
地球温暖化が進むと、更に凍土のゆるみを促進し、更に温暖化が進むという負のサイクルが回りはじめてしまうのだ。
地球温暖化による凍土のゆるみは、海面上昇による陸地の減少ばかりでなく、激しい気候変動をもたらす。
すると現在も既に大きな被害を起こしている大森林火災の頻発、年間降水量の増加や予測不能の大豪雨、一転旱魃地帯の増加などを招き、海水温度による海洋資源の枯渇なども加わり、食糧供給の崩壊を招く。更に経済や産業を支える資源の枯渇はいうまでもない。
つまり経営資源が不足するわけだから、経済活動にも多大な打撃を与えることになる。
気候変動の各種のデータは、同じ傾向を示している。どれもが「産業革命」以後に悪化の数値が飛躍的に増加しているのだ。
文明社会の象徴である産業革命が、いまや経済の崩壊の主原因にもなろうとしているという事実である。
 
しかしもっと問題なのは、地球上で生息している生物は、人間ばかりではない。人間以外の生物の方が断然多いのである。
人間優先で、人間の生存だけ考えても、以上の様な大きな危機的状況がある。
人間以外の生物の領域への、人間の活動による弊害については、多くの科学者の研究成果が明確に立証しているところである。
他の生物からすれば、人間は「傍迷惑」な存在という程度から、既に「生殺与奪者」になってしまっていることを、見落してはならない。
「人新世」という言葉を使わざるをえないほど、事態は悪化しているのだ。
 
東洋思想の根幹を成す考え方に「陰陽論」がある。
この世の万物は全て陰陽が和して成り立っている。勿論、陰ばかり、陽ばかりというものもあるが、完璧なものは陰陽両方を含んでいるものだ。
物質ばかりでなく、もの事の趨勢についても陰陽がある。そうしたことを表わす章句に次の言葉がある。
「陽極まれば陰となる。陰極まれば陽となる。」
もの事も、最初は善い事(陽)であっても長年の間には限度が来て、悪い事(陰)に変ってしまうといっているのだ。
これがこの世の道理である。
陽は「拡大発展」を表わし、陰は「充実革新」を表わす。
したがって最初は社会的進歩の為には有効有用であった文明も、限度限界が来れば、むしろ弊害をもたらす事となってしまうのである。
そうなれば「革新」が必要となる。更なる「充実」が必要となる。
現在その大転換期の真只中にいて、これまでの文明の見直し、革新の時を迎えているのである。
 
近代西洋思想に変わるこれからの人類の指針として挙げられるのは「東洋思想と西洋思想の知の融合」である。
東洋思想の考え方、知慧と西洋思想の知識、知見を融合した理念をもって地球を運営したらどうかということだ。
東洋は内側。インサイド(inside)、人間の心や精神を永年重視して来た。これに対して西洋は外側。アウトサイド(outside)、外見、見せ方、普遍性などを重視して来た。内面と外面の探求といえる。東洋と西洋は、つまり相互補完関係にあるのだ。まさに「陰陽の関係」なのだ。
地球を救い、他の生物への気配りの為には何が最重要なのか。人間が価値観や暮し方を変えるしかない。
これは容易なことではない。しかし人間は、中世から近世、近世から近代の転換も見事にやったのである。
地球存続の危機がもうそこまで来ているとすれば、そんなに残された時間はない。一刻も早くスタートを切る必要がある。
人間が自ら起こした危機を何としても回避し、後世の人々に住み良い地球を残す為に一人一人の人間が自分の出来ることから始めようではないか。私はその一助になるであろう東洋思想の知慧を提供しようと思う。

〔その3〕を読む

田口佳史(たぐち・よしふみ)
田口佳史

  • 東洋思想研究家、株式会社イメージプラン代表取締役会長
1942年東京生まれ。新進の記録映画監督として活躍中、25歳の時タイ国バンコク市郊外で重傷を負い、生死の境で『老子』と出会う。奇跡的に生還し、以降中国古典思想研究四十数年。東洋倫理学、東洋リーダーシップ論の第一人者。企業、官公庁、地方自治体、教育機関など全国各地で講演講義を続け、1万名を越える社会人教育の実績がある。 1998年に老荘思想的経営論「タオ・マネジメント」を発表、米国でも英語版が発刊され、東洋思想と西洋先端技法との融合による新しい経営思想として注目される。

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