ピックアップレポート
2021年07月13日
「1on1で何をやるか」目的をハッキリさせないと それはいつもの「面談」に終わる〜書籍『1on1ミーティング』に込められたメッセージと思い
背景にある考え方をきちんと理解することが重要
2020年11月に刊行された『1on1ミーティング』(ダイヤモンド社刊)は、『ヤフーの1on1』の続編にあたります。発売からここまで3刷まで版を重ねるなど、じわじわと読者を広げているようです。
『1on1ミーティング』は、前著で示された1on1の「目的」「効果」をさらに深掘りしていることが大きな特徴です。また、1on1の背景にある考え方〜組織開発、経験学習、カウンセリング、コーチングについて、著者の本間浩輔さんがそれぞれの専門家と対話し、その価値をくわしく解説しています。
そこには、1on1の背景にある考え方をきちんと理解することによって、より良い1on1を実践してほしい、という著者の思いが込められています。どのような目的に対して、対話のいかなる面が作用し、効果を生むのか。そこがクリアになるほど、1on1はパワーを発揮します。
以下に本書の目次を紹介します。
1章 1on1とは何か
2章 企業の取り組みを知る(パナソニック、日清食品、静岡銀行、札幌渓仁会リハビリテーション病院、埼玉石心会病院)
3章 なぜ1on1なのか
4章 1on1の「場外効果」
5章 専門家の知見に学ぶ
対談Ⅰ 組織開発と1on1(中村和彦・南山大学人文学部心理人間学科教授)
対談Ⅱ 経験学習と1on1(松尾睦・北海道大学大学院経済学研究院教授)
対談Ⅲ カウンセリングと1on1(渡辺三枝子・筑波大学名誉教授)
対談Ⅳ コーチングと1on1(上野山信行・カマタマーレ讃岐GM)
大事なのは「1on1をやる」ではなく「1on1で何をやるか」
ビジネス環境の変化や、職場環境の変化によって、いつ頃からか、上司と部下とのコミュニケーションは多くの職場で課題視されるようになりました。ただ、実のところコミュニケーションそのものがさまざまな変化によって難易度を増したというよりも、もともと長い歴史の中で多くの企業組織に染み込んだ「上意下達」のマネジメントがワークしなくなった、というのがことの真相ではないでしょうか。
「解」が見出しにくい時代にあって、全員で言葉を重ね合い、知恵を結集しなければ、結果は出ない。それが、1on1に関心が集まる理由でしょう。それに加えてコロナ禍です。リモートワークが広がる環境だからこそ、1on1への関心はますます強くなっているように感じられます。
ただし、多くの人が1on1を知り、自社への導入を試みる企業が増えている一方で、「やってみたのだが、どうもうまく行かない」という戸惑いの声も聞こえるようになりました。うまく行かないのは、なぜでしょうか。あらためて著者の本間浩輔さんに聞いてみました。
「言うまでもないと思いますが、1on1で組織の課題が全部解決するわけではありません。自分で体験してみて、何を目的として1on1をやるのかをハッキリさせることが必要でしょう。それさえ考えれば、1on1はそんなに難しいことではありません。コーチングとかカウンセリングをバッチリ身につけなければ始められないものでもない。それよりまず、自社において1on1がどう生きてくるのかということを、よくよく理解する必要があるのではないでしょうか」
『1on1ミーティング』の制作にも関わった組織開発コンサルタントの由井俊哉さんも言います。
「どんな会社でも黙って半年やっていれば、関係性は良くなるし、仕事はちょっと進めやすくはなると思いますが、そこを超えるのが難しい。〝会社が1on1をやるというからやる〟のではなくて、自分ごととして考え、〝こういう目的でやろう〟と部下に語れないとうまくいかない。導入研修などで、私はこう言っています」
1on1は「部下のための時間」であり、仕事に対して自分が抱いている思いや考えを自由に話すことができる場です。そんな話す/聴くという相互関係を重ねることで、信頼関係も生まれるでしょう。また、職場に心理的安全性を確保することも期待できます。一方、聴く側の上司は、部下の内面にある価値観を知ることができ、それによって仕事のアサインが変わるかもしれませんし、先々のキャリアを支援しやすくもなります。
これらはすべて1on1が持つパワーですが、では、それを自社でどう生かすのか。何を重視して1on1を進めていくのか。
「1on1をやる、ではなくて、1on1で何をやるか、まで行かないと定着は難しいでしょうし、真価は発揮できないでしょう」と由井さんは指摘します。
1on1で何をやるか。それを会社全体で考える必要がありますし、マネジャーのみなさんも、それが自組織の何を変えるのかをイメージする必要があるでしょう。
『1on1ミーティング』には、そのための手がかりが数多く盛り込まれています。
「少しづつ、人を本当に大切にする会社が尊重される時代になってきたように感じます。そういう会社を作りたいのであれば、1on1はいい手法だと思います」(本間浩輔さん)
共著者であるヤフーの吉澤幸太さんによれば、最近ヤフーで1on1に関する社員アンケートを実施したそうです。
「5年ぶりに実態調査をしたのですが、一つ大きく変わったのが1on1の頻度でした。『ヤフーの1on1』が出た頃は、実施頻度で〝隔週以上〟が89%でしたが、今回の調査では93%と少し増えていました。ただ、興味深いのはその中の内訳で、さらに細かく〝週一回以上〟でみると、2016年度に63%だったものが、今回75%に跳ね上がっていました。約5年ものあいだ、経営や人事から特に促されることもなく、現場の必要に応じて毎週実施する社員が増えていた、という結果です」
詳しい分析はこれからだそうですが、定着し、継続する中で、1on1の質が変化してきていることが示唆されているように思います。実施する頻度が上がったということは、ヤフーの中では1on1が多くの社員に有用であり価値がある、と認められ、より積極的に取り組まれていることを示しているのではないでしょうか。
本間 浩輔(ほんま・こうすけ)
Zホールディングス株式会社 執行役員
立教大学大学院 経営学専攻リーダーシップ開発コース 客員教授
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科 兼任講師
慶應MCC担当プログラム
小さなリーダーシップ論
実践「1on1」の本質
ラーニングイノベーション論 ゲスト講師
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。コンサルタントを経て、後にヤフーに買収されることになるスポーツナビ(現ワイズ・スポーツ)の創業に参画。2002年同社がヤフー傘下入りした後は、主にヤフースポーツのプロデューサーを担当。2012年社長室ピープル・デベロップメント本部長を経て、2014年より執行役員。同社においてさまざまな人事制度改革に取り組んでいるとともに、戦略人事プロフェショナルの実践家として社内外において広く活動。2014年、日本の人事部「HRアワード」最優秀賞(個人の部)受賞。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。
主な著書
『1 on 1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』
『ヤフーの1on1』
『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』
『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』
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