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中原 淳・本間 浩輔 対談「学びの地図を拡げよう」

2022年04月12日

中原 淳
立教大学経営学部教授
本間 浩輔
Zホールディングス株式会社 シニアアドバイザー
パーソル総合研究所取締役(社外)

新型コロナウイルスの世界的流行は、多くの人にこれからの働き方、生き方、人生を改めて考える機会をもたらしています。ビジネスパーソンにとって「学ぶこと」はキャリアに影響を与える大きな要素であり、さらにオンラインによる学習機会の増加によって、学習環境は充実しているとも言えそうです。成人学習の研究者である中原淳教授と、戦略人事プロフェショナルの実践家である本間浩輔氏に、今の働く大人の学びについてお話しいただきました。


そこに「学んだ先」はあるか?

本間:これはコロナ以前からですが、僕は働く大人が学ぶ必要性を、生涯働かないといけないとか、将来なくなる仕事とか、学ばないと生き残れないという脅し、fear appealの文脈で語られることには批判的です。変わらないと大変だと煽っておいて、指針がないのは非常に危険ですらあると思っています。

中原:学びによって自分が成長している感覚や、学びを媒介にした新しい出会いは主観的な幸福感、Well-Beingにつながるんですよね。だから、そもそもラーニングとはfearよりfunが大事、“Learning is Fun”だと私は思っています。

昨今、特にコロナ禍になって気になるのが「学びの分断」です。一つは学ばなくてはという意識が高まり行動する人と、動かない人の差が拡大していることです。
もう一つは、5分10分で学ぶといった、チェリーピッキングな、いいとこ取りの学びの増加です。その学びはfunではなく本間さんの言うfear に煽られていないか、そして「学んだ先」を意識しているのだろうかという疑問があります。いいとこ取りの学びにはカリキュラムがありません。学んだ先に何を目指すかがない学びが広がっているなと感じています。

キャリアの下山は難しい

本間:大人の学びが子供の学びとは違うのと同様に、20代30代の学びと僕のような50代の学びは違うし、50代の学びがどうあるべきかなんておそらくまだ誰も研究していません。50代の僕らが現在の働く環境で昔のような学び方でfunになるかというと、ならないと思います。

中原:例えば20代の悩みは「この会社にいてもいいのかな」とモヤモヤするのに対し、50代は先が見えてくるから「この先どうしたらいいのかな」とモヤモヤします。この2人の学びは決して同じじゃないと思います。

本間:以前、中原さんとの対談本『会社の中はジレンマだらけ』(2016)で僕が「人生を登山に例えると事故のほとんどは下山で起こるから、下山が大切だ」って言ったとき、僕はまだ下山していなかった。今の自分は下山のステージに入ったけれど、本当に難しい。下山の時にどう学ぶのか、組織とどう向き合うのかを、先生をはじめフレッシュな知見を取り入れながら自分たちで探索していかなければいけない段階に来ています。

中原:下山については僕も最近は意識が変わっていて、数年前までは若い人の立場からシニアの問題を見ていたんですよ。でも45歳を超えてから完全に逆になりました。
おそらく「下山する少し前」から戦略的に学ばないといけないと思います。連山なら次に目指す山を決めて、それに従って自分を変えていかなければいけない。でもそれって結構大変ですよね。あと、踏ん切りがなかなかつかないって言うか。

たとえば、今や若手に負けていると思う統計やデータ解析の分野を続けるのが自分の幸せなのか、それとも数字ではなく理論を追求するのが次の山なのか、踏ん切りがつかないでいます。僕が本間さんに学び方を教わりたいですよ。

本間:僕も40代後半から若い人に勝てなくなっていることを自覚していたけれど、会社はそれまでの人脈や人間関係でポジションを与えてくれるんですよ。組織に価値を生み出す専門スタッフより役職は上位なのに、全く価値を生み出していない。そのことを人に話したら、「ペンを黒から赤に替えることだ」と。「起案は黒のペン。ある程度のポジションについたら赤のペンに持ち替えて、起案のチェックや違う角度からものを言うことが重要になる」と言われました。

理解はしたけれど、僕はそれでは自分の市場価値が下がってしまうと思ったんです。
現役の管理者やプレイングマネジャーが黒ペンを持ったままではいけないけれど、今は再び黒いペンに持ち替えて、学びもがく日々を始めています。

「個別最適な学び」と「協働的な学び」

本間:今は色々な仕事がどんどんプロジェクト化、つまり専門家集団で進める機会が増えていて、組織内では役立った人間関係や評価以外の貢献が求められます。必要なスキルが変わっていくんです。
40歳を過ぎるとこれまでの経験と人間関係でなんとなく仕事ができてしまうような気がするのは大きな間違いです。だから早めにちょっとした違和感というか、社外で学ぶ経験をすることで、のちのダメージを減らせるんです。

中原:そうですね、だからやはり質のいい学びが必要ですよね。
目的を達成する手段としての学びには、目的に従って自分で先生を選んでいくしかないですね。大人の学びは先生も環境も自分で選べます。だからこそ、誰から学ぶか・どこで学ぶか・誰と一緒に学ぶかがものすごく大事だと思います。

本間:僕が大学院に3つ行って思ったのは、大事なのはどこの大学かよりも「どの先生から学ぶか」と「誰と学ぶか」です。
これまで企業の教育は、外部へ人を送り出すことには比較的消極的でした。しかしそれでは「誰と学ぶか」「誰から学ぶか」が弱くなります。
これからは学びもビジネスと同様、社内で提供するのではなくて自分で探索する時代になっていくし、社外の多様な人と、場所や時差、時間を超えてコ・ワークするには、他者と学ぶ経験がとても重要です。

中原:今の学習指導要領、つまり日本の教育の基本は“「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実”です。「個別最適な学び」は本間さんのおっしゃる通り、個の特性に一番フィットする学びの環境をつくるということです。「協働的な学び」は他者と一緒に学ぶことです。これは大人も同じことだと思っています。

組織としてどう社員の学びと向き合うか

本間:今後、組織としてそれこそ60代70代まで社員に成果を出し続けてもらうには、効率を重視した研修ではなく、個別の学習計画に沿ったものであるべきだと思います。
社員の学習の個別最適化にかかわれるのは上長です。個々の社員の成長を一番近くで見るコーディネーターとして、組織の視点からフィードバックを伝え、適切なタイミングで適切な学びの機会をアドバイスする。それがこれからの上長の大切な役割になるべきで、それを支援するのが人事部であると思います。

中原:全く同感です。一番やってはいけないことは学びを本人任せにすることです。なにせ、社会人の1日あたりの平均学習時間は6分ですからね。

本間:学ばなくてはと思いながらも学び方がわからない人は、ちょっと勇気を出して興味関心のある異次元空間、名刺も肩書きも通用しない世界に身を置く経験をしてほしい。それこそが学習だと思うんです。社内の研修では協働的な学びが難しいんですよ。社内のヒエラルキーや甘えなどが質の向上を阻害しますから。

僕が大学院やMCCに行った目的には「学びの水先案内人」という要素もあります。つまりどんな本がある、こんな学びがあるといったガイダンス、それもリッチなガイダンスが得られることも大きなメリットです。MCCを含めて早い段階で良い案内人と出会い、協働的に学んだことは非常に貴重な経験でした。

中原:大人の学びは義務教育じゃないので行くのも自由、やめるのも自由です。だから、やってみてつまらないなと思ったらやめればいいんです。
ただ、正しく学ぶ、学びを深めるには地図がとても大事です。その地図が広く良質であればあるほど、自分がどの大陸に足を踏み入れ、何から取り組めばいいかがわかります。
でも、地図を持ってない人、あっても狭い地図しか持っていない人はどこに進めばいいのかわからないから、冒険できないんです。わからないまま試行錯誤するよりは、学ぶ領域に精通している人たち、その人たちが選んだものに身を置く方が、自分の地図も広がっていくのです。

外の世界に出ること、多様な人と交わることは自分を変えるいいチャンスです。

中原 淳(なかはら・じゅん)
中原 淳

  • 立教大学経営学部 教授
博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等を経て2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。

立教大学経営学部においては、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、リーダーシップ研究所副所長を歴任。研究の詳細はBlog:NAKAHARA-LAB.NET

本間 浩輔(ほんま・こうすけ)
本間 浩輔

  • Zホールディングス株式会社 シニアアドバイザー
  • パーソル総合研究所取締役(社外)
  • 立教大学大学院 経営学専攻リーダーシップ開発コース 客員教授
  • 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科 兼任講師
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。コンサルタントを経て、後にヤフーに買収されることになるスポーツナビ(現ワイズ・スポーツ)の創業に参画。2002年同社がヤフー傘下入りした後は、主にヤフースポーツのプロデューサーを担当。2012年社長室ピープル・デベロップメント本部長を経て、2014年より執行役員。同社においてさまざまな人事制度改革に取り組んでいるとともに、戦略人事プロフェショナルの実践家として社内外において広く活動。2014年、日本の人事部「HRアワード」最優秀賞(個人の部)受賞。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。

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