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ピックアップレポート

2022年05月10日

石山 恒貴『会社人生を後悔しない 40代からの仕事術』

石山 恒貴
法政大学大学院政策創造研究科 教授

私の会社人生、これでいいのだろうか?

私が社会人キャリアをスタートさせたのは、日系の大手電機メーカーでした。
その会社で人事部に配属されて以来、私は長らくのあいだ「人と企業」に関わる実務に携わってきました。

企業内の人事担当者として現場を見ていたときも、そして、研究者として「働く人」と「組織」の問題を考察するようになってからも、私にはずっと気にかかっている問題がありました。

「なぜ、たくさんの働く人が、ミドル・シニア期に『停滞感』を味わうのか?」

人事の仕事をしていると、ミドル・シニアの憂鬱を目にする機会には事欠きません。

「おれの会社人生、こんなはずじゃなかったんだけど……」
「会社のせいで、何もかも台無しだ。本当に許せない……」
「まあこんなもんさ……でも、これでいいのだろうか……」

本書は、そんな思いを持つ人のための一冊です。

社会人になってから20年以上が経過し、〝モヤモヤ〟や〝停滞感〟を抱いているミドル・シニア期の人たちが、会社人生に「再入門」するための仕事術を一冊にまとめました。

※本書では、ミドル・シニアという言葉を、「40〜54歳のミドル社員」と「55〜69歳のシニア社員」を包括する呼称として使っています。

40代からの停滞感には「理由」がある

とはいえ、20年以上のキャリアを積み上げたベテランたちに、そもそも会社人生に「再入門」など必要なのでしょうか?
その理由を端的に申し上げれば、現代日本におけるミドル・シニアの悩みには「構造的な要因」があるからです。裏を返せば、このつまずきには、本人の努力不足〝以外〟の理由があるということです。

こういう問題は、研究者が比較的得意とする領域です。
私の専門である人的資源管理論などの分野でも、「旧来の日本型雇用が制度疲労を起こし、それが個々の働き手のパフォーマンスを低下させている」という分析は、以前からよく見られました。
これをもとに「誰もがいきいきと働けるように、職場や制度を改革していくべきだ!」といった〝真っ当な〟提言をしていくのも研究者の役目でしょう。そのようなアプローチを否定する気はまったくありません。
むしろ、根本的な問題解決のためには、組織・企業・職場レベルでの取り組みは不可欠です。

会社が変わるのを待っていては「時間切れ」になる!

とはいえ私は、〝組織・企業〟を変えるため、というよりはむしろ、〝働く個人〟に向けてこの本を書いています。
日本型雇用に制度疲労が生じていることは、私も否定しません。しかし、実際の変化は5年や10年、あるいは20年といったスパンで起きていくのではないでしょうか。
「ミドル・シニアの憂鬱」を生む構造的要因は、今後も一朝一夕には取り除かれないでしょう。
そのときに忘れてはならないのは、「そのジワジワとした変化の最中にも、われわれは働き続け、それぞれの仕事人生を歩んでいかねばならない」という事実です。外部環境の変化を指をくわえて待つだけでは、〝時間切れ〟になってしまいかねません。
だとすれば、その停滞感を乗り越えるためには、制度改革のような「正論」だけでなく、やはり現実的な「個人レベルでのアクション」が求められているはずです。

後悔しないために「できること」はまだある!

私は「会社に頼る時代は終わった! これからは自分の力で歩き出そう!」などといった勇ましいメッセージを掲げることはしません。
いまの職場で仕事を続けながらでも、変えられることはたくさんあります。
他方で、本書は安易な「現状維持のススメ」でもありません。
閉塞感を生み出している「根」を断たない限り、異動しようと、転職しようと、起業しようと、そして定年退職しようと、この停滞感は消えないからです。
本書が目指したのは、みなさんがいまの停滞感を払拭し、残りの会社生活を後悔のないものに変えるためのヒントです。

「4700人」を俯瞰した「働くミドル・シニア」の科学!!

こんなときに有効なのが、データに基づいた科学的なアプローチです。
このモヤモヤ感の「森」から抜け出し、確実に「自分の道」に戻ることを最優先するなら、まず「大まかな方向づけ」が必要なのです。
そこで2016年12月、パーソル総合研究所と一緒に、「ミドル・シニア社員の働き方・就業意識に関する大規模調査」というリサーチプロジェクトを立ち上げました。
一定規模以上の企業に勤めている4732人のミドル・シニア世代にアンケート調査を行い、そのデータを分析したのです。これはミドル・シニア世代のみを対象とした調査としては、過去最大規模のビッグリサーチです。

待ち受ける「2つの谷底」

私たちが行った大規模リサーチを見ると、「どれくらい活躍しているか」を表す数字の推移で、40代半ばと50代前半に「谷」があるのがわかります。それまである程度の水準を保っていたパフォーマンスは、40代中盤あたりで一度ガクンと下がり、さらに50歳前後で「二番底」を打つかたちになっています。
この2つの「谷」は、日本企業が戦後から長きにわたって築いてきた独自の雇用慣行、すなわち日本型雇用と密接に関係しています。

第1の「谷」を生んでいるのは、いわば昇進の罠です。40代中盤にもなれば、「見せかけの平等」のメッキは剥がれ、同期入社組のあいだの差は、もはや無視できないレベルにまで広がります。失望感が広がり、モチベーションの低下を招きます。

第2の「ミドル・シニア最大の谷」は、50歳前後にあるポストオフ(役職定年)の影響が考えられます。ポストオフとは、職位上昇のインセンティブが機能しなくなるタイミングなのです。

社会人20年目以降に経験する、この得体の知れない閉塞感は、何も特別なことではなく、こうした構造上の問題によって必然的に生み出されるものだということが、おわかりいただけたのではないでしょうか。

「人生100年時代」という言葉が強調されるようになり、定年退職後にも20年、30年、40年という人生が待っています。そうなると、公的年金以外の収入を確保するために、定年後にも別のかたちで働き続けることになる人の割合は、かなり増えていくはずです。
もはや「60歳までなんとか逃げ切れば大丈夫」「定年後は悠々自適だから、その後のキャリアなんて関係ない」というわけにはいかないのです。

いま仕切り直せば、計り知れないメリットがある

ミドル・シニア期に適切な「仕切り直し」をしておけば、残りの会社員生活はもちろん、定年後生活の充実に向けても、かなりのプラス効果が見込めます。
繰り返しになりますが、これは「仕事のやり方を変えて、生産性を高めましょう」でも「もっと業績をあげましょう」という話でもありません。生産性や業績評価は、幸福の一要素にはなるかもしれませんが、それ自体は決して目的にはなり得ません。生産性や業務成績の向上というのは、あくまでも「企業=働かせる側」の評価指標なのです。

では、「ミドル・シニアの憂鬱」に怯むことなく活躍している人には、どんな特徴があるのでしょうか? 
ミドル・シニア期の会社員のジョブ・パフォーマンスに影響を与えている要因を因子分析した結果、いわば「自分なりの地図」を持ち自ら歩き出す「自走力」が高い人には、次の5つの行動特性が見られました。

1. まずやってみる[Proactive]
2. 仕事を意味づける[Explore]
3. 年下とうまくやる[Diversity]
4. 居場所をつくる[Associate]
5. 学びを活かす[Learn]

この5つの行動特性をそれぞれの頭文字を取って、「PEDAL」と呼ぶことにしましょう。
40歳を越えたビジネスパーソンが、ある種の「壁」を感じるとき、その人はこれらの行動のうち、いずれかでつまずいている可能性があります。
逆に、「ミドル・シニアの憂鬱」に陥ることなく、いきいきと働き続け、「自走力」を発揮している人は、PEDAL行動を実践できているのではないかと考えられます。

自走力を支えるPEDAL行動は、徒歩やマラソンというよりは、「自転車のペダルをこぐ感覚」に近いのではないかと思います。
たしかに最初のひとこぎは多少しんどいですが、加速していけば少しの力でどんどん前に進むことができるようになります。

本書では自身のPEDAL行動の現状セルフチェックのコーナーを設けています。
また、2022年6月から開講する『ジョブ・クラフティング』プログラムでは、ジョブ・クラフティングの考え方、先進企業の事例を踏まえ、ワークショップで自分の仕事の意味を再構築し、やりがいを高めて自身の仕事人生を幸せに生きるための方法をつかむことをめざします。
これらの機会が、みなさんの「最初のひとこぎ」の一助となることを願っています。

 

会社人生を後悔しない 40代からの仕事術』のプロローグとchapter1を著者と出版社の許可を得て改編。無断転載を禁じます。


石山恒貴

石山 恒貴(いしやま・のぶたか)
法政大学大学院政策創造研究科 教授

慶應MCC担当プログラム
ジョブ・クラフティング

一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境的学習、キャリア形成、人的資源管理、タレントマネジメント等が研究領域。経営行動科学学会優秀研究賞(JAASアワード)(2020)、人材育成学会論文賞(2018)受賞。

日本労務学会副会長、人材育成学会常任理事、人事実践科学会議共同代表、一般社団法人シニアセカンドキャリア推進協会顧問、NPO法人二枚目の名刺共同研究パートナー、フリーランス協会アドバイザリーボード、専門社会調査士等。

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