ピックアップレポート
2022年08月09日
高橋 俊介『キャリアをつくる独学力』
はじめに
「独学」という言葉を辞書で引くと、次のような意味が出てきます。
「学校に通わず先生にもつかず、独力で学ぶこと」(出典:小学館 デジタル大辞泉)
この定義からは、ややもすると、「独学=我流」、つまり、本流でない学びといったネガティブなニュアンスが浮かびがちです。
これに対し、本書では、独学のより本質的な意義を掘り下げて、次のように独自に再定義したいと思います。
独学とは「学びの主体性」を意味する。
この「学びの主体性」は、次の3つの要素からなります。
- 学びのWhy
独学においては、まず「なぜ学ぶのか」という、学びのドライバーとなる動機が自分自身の内面から湧き上がってこなければなりません。 - 学びのWhat
次に、「何を学ぶのか」という、学びのテーマを自分で主体的に考え出すことが必要です。 - 学びのHow
そして、「いかに学ぶか」という、学び方について数ある選択肢の中から自ら選ぶことが求められます。
このように、独学とは主体的な学びの「Why」「What」「How」の3つの要素から構成されます。
独学の本質に照らし合わせれば、学ぶための方法としては、独力だけでなく、教育機関に通うことや、師や先達者の指導を仰ぐことも選択肢に含まれます。
「独学=学びの主体性」と再定義する要因
ではなぜ、いま、独学を「学びの主体性」として再定義することが必要なのでしょうか。
大きな要因として、仕事の自律性や自律的なキャリア形成を目指すうえで「学びの主体性」が不可欠な条件になってきたことです。
それは、私が独学の重要性に着目するようになった理由でもあります。
私は30年以上にわたり、経営の視点から人事や人材マネジメントを考える研究を続けてきました。
その基本的なテーマのひとつが「自律組織」のあり方です。
「自律組織」とはどのようなものでしょうか。
一般的に、ヒエラルキー構造のピラミッド組織と対極の概念としては、フラット組織が想起されます。しかし、これはたんに「組織階層が多いか少ないか」という構造上の違いにすぎません。
ピラミッド組織の本質は何かといえば、人を組織階層別に分け、仕事のプロセスを分業することです。
ピラミッド組織では、上の階層から順に「仕事のWhy(なぜやるか)」「仕事のWhat(何をやるか)」を決める人、それを「仕事のHow(どのようにしてやるか)」に分解する人、そして、分解された仕事をひたすら「Do」する人間が存在します。
これに対し、私が提唱してきた「自律組織」では、第一線の小チームもしくは個人が、自律的に仕事の「Why」「What」「How」そして「Do」と結果のチェック(評価・検証)という仕事のサイクルの全体像を自ら回していきます。
階層別分業ではなく、第一線の1人ひとりが仕事の自律性を実現していく。
まさに、ピラミッド組織と対極にあるのが自律組織です。
また、私は、2000年5月に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにあるSFC研究所の中に設立されたキャリア・リソース・ラボラトリ(通称キャリアラボ)に創設当初から教員として参画してきました。
キャリアラボはキャリアに関する包括的な研究を行う組織で、私の主たるテーマは個人主導のキャリア形成の研究でした。その研究成果をもとに、2000年12月には『キャリアショック~どうすればあなたは自分でキャリアを切り開けるのか』という本を出版しました。
「キャリアショック」とは、私が提唱した概念で、自分がそれまで積み上げてきたキャリア、そして、自分の思い描いてきたキャリアの将来像が、予期しない環境や状況の変化により、短期間のうちに崩壊してしまうことをいいます。
変化の激しい時代に生きるビジネスパーソンにとって、キャリアショックの危機的状況に陥るリスクがいまや完全に現実のものとなり、自律的にキャリア形成していく必要性がますます高まっています。
「仕事自律」と「キャリア自律」、ここにもうひとつの要素が加わると、三位一体の良循環が生まれます。それが「学び自律」です。
「仕事の自律性」と「学びの主体性」が相互に関連しながらスパイラルアップしていく結果として、自律的キャリア形成が実現し、それがまた「仕事の自律性」と「学びの主体性」をより高い次元へと押し上げていくという良循環。
これをいかに回していくか。
本書は、独学力が注目されるようになった背景、仕事とキャリアと学びとの有機的な関係性、独学力を高める意味合い、独学の主たる目的のひとつである専門性コンピタンシーの強化、独学の進め方……等、独学力に関する「Why」「What」「How」に答えるものです。
より具体的に学ぶための独学者の事例、さらには、独学を支える知的基盤としてのリベラルアーツ(教養)を学ぶ作法も紹介しています。
『キャリアをつくる独学力――プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』の前書きを著者と出版社の許可を得て掲載。無断転載を禁じます。
出版社:東洋経済新報社 ; 発売年月:2022年8月; 本体価格:1,700円(税抜)
- 高橋 俊介(たかはし・しゅんすけ)
- 慶應義塾大学SFC研究所上席所員
- 東京大学工学部航空工学科卒業、日本国有鉄道勤務後、プリンストン大学院工学部修士課程修了。マッキンゼーアンドカンパニーを経て、ワイアット社(現在Willis Towers Watson)に入社、1993年代表取締役社長に就任。その後独立し、ピープルファクターコンサルティング設立。2000年5月より2010年3月まで、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、同大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリー(CRL)研究員、同大学大学院政策・メディア研究科特任教授を経て2022年4月より現職。
個人主導のキャリア開発や組織の人材育成の研究・コンサルティングに従事。 - 慶應MCC担当プログラム
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- 組織・人材プロフェッショナル養成講座(2022年4月)
- キャリアアドバイザー養成講座(2022年5月)
- 企業参謀養成講座(2022年10月)
- 人と組織の世界観ゼミナール(2022年10月)
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