ピックアップレポート
2022年09月13日
ひきたよしあき『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』
人は言葉でできている
「言葉」という字を習ったのは、小学校3年生の時でした。
先生が黒板に色チョークを使って、大きな木を描いた。そして、こう言いました。
「言葉は、『言う葉っぱ』と書きます。みんなの頭の上にも『言葉の木』が生えていて、きれいな言葉を使えば綺麗な葉っぱが茂ります。嘘や汚い言葉を使えば、みすぼらしい木になります。みんな、立派な言葉の木を育てようね」
不思議なくらいこのときの教室の様子を覚えています。それはきっと、私が「言葉」に興味をもった初めての経験だったからでしょう。
北風ことばと太陽ことば
人は言葉でできている。言葉で、人格が形成され、言葉で人間関係が構築されていく。
そういう目で、人の頭の上にある「言葉の木」を眺めてみると、百人百様のかたちをしています。いつも、穏やかであたたかい言葉を使い、相手を笑顔にする人もいれば、厳しい言葉で攻撃を仕掛けてくる人もいる。上から目線の言葉で、マウントをとる人、自暴自棄の言葉で、自分を責める人。言葉で、包み込む人。言葉で、肝を冷やす人。実に様々です。
中でも、ビジネスに上でのコミュニケーションとなると、大きく2つに色分けされる。
人に「エールを送る言葉」を使う人と、人を「裁きの言葉」で断罪する人。
私はこれをイソップの寓話「北風と太陽」になぞられて、「北風ことば」と「太陽ことば」と名づけました。
部下を一人もった女性管理職のとまどい
執筆の依頼があったのは、2021年の初秋。オリンピック・パラリンピックが無観客開催で終わり、コロナが簡単に収束しないことが見えてきた。リアルな職場にすぐに戻れるという甘い期待は消え、多くの企業が、リモートとリアルのハイブリットを模索しはじめた。しかし、長いマスク生活で、言葉数は減る。微妙な表情が見えない分、発する言葉がきつくなった。本格化したリモートワーク。しかし、誰もが初めての体験で、どう対応したらいいかわからない。昭和の古い営業スタイルで精神論を画面に向かってブツ人もいれば、「悲報。締め切りに間に合いませんでした」とチャットにさらっと書いてくるZ世代もいる。それぞれの生きてきた時代、育ててきた価値観の違いが、さらけ出されてきたのです。
「上も下も、言ってることが違いすぎてわけがわからない!」
そう言って声を上げたのが、部下を一人もったくらいの女性たち。自らは昭和スタイルの教育を受けてきた。しかし、下には「コスパ悪くないっすか?」「それ、あなたの個人的な意見ですよね」とやり返される。それを上司に報告、相談したときに、「北風ことば」で攻めてくる「北風上司」と心をほぐし、強くしてくれる「太陽ことば」で応じてくれる「太陽上司」がいた。
本著は、そんな女性たち500人のアンケートやセミナーでの意見を参考にしながら書いていきました。だから、私は著者というよりも、彼女たちの言葉を選び、物語に仕上げた編集者に過ぎません。この時代を生きる女性たちの赤裸な声が、この本には書かれています。
北風ことばの特長
冷たい暴風を吹かし、人をマウントし、やる気をそぐ「北風ことば」。
多くの女性が忌み嫌ったことばで最も多かったのは、「責任逃れの言葉」です。
「お前、責任とれるのか」
「こうなると、思ってたよ」
「俺、聞いてないよ」
ずるい、汚いの総スカンの言葉です。
続いては、自分だけが頭がよくて、周囲を劣っていると決めつけた言葉。
「まだやってないの」
「いつ君の意見を聞きたいと言った」
「もっと頭使って〇〇してくれよ」
こういう人に限って、相手によって対応を変えるとの声も。
また最近は、「やる気のない暴力」も横行している。
「やりたいならやれば?」
「俺に聞くなよ」
「忙しいんだよ・・・」
と気が弱く、殻にこもって部下との接触を避けようとする北風上司も多いと多くの女性が訴えていました。
太陽ことばの特長
さて、太陽言葉はどうでしょう。
これにも特長がありました。女性たちは、けして優しい言葉、ほっとする一言を求めているだけではないのです。公私に忙しく、時間と常に戦っている彼女たちは、指示が的確で、部下が効率的に動くことのできる一言を求めている。それは一種の格言のようで、仕事の指針になるような言葉でした。
「集中とは、やらないことを決めることだ」
「すぐやれ、すぐ変更しろ、すぐやめろ。それを繰り返せ」
「怠け心を軽視するな」
「何か、困ってないか」
そして、何よりも傾聴力です。人の話をしっかりと聞き、人間的な弱さも見せてくれる。率先して休みをとり、気持ちのいい距離感を保ってくれる。そんな上司がこの時代の「太陽上司」像でした。
あなたの言葉の木は大丈夫?
多くの企業で研修をしていると、共通した課題を抱えていることがわかります。
「若者の離職率が高い」「女性の昇進希望者が少ない」「シニア層のモチベーションが上がらない」「DX推進、業務のIT化を拒絶する人がいる」「パワハラ、セクハラ問題」「性的マイノリティ社員への声のかけ方」「心理的安全性の確保」などなど。
どの企業も、過去に前例のないコミュニケーション課題に四苦八苦しています。本著は、こうした課題解決の一助となるよう、どの世代、どのポジションの人に読みやすくする工夫を施しました。
ぜひ手にとって、日本がすでに多様な価値観をもつ人たちで構成される「多価値観国家」であることを感じてください。そして、自分の「言葉の木」だけが絶対なものではなく、他の人の頭にあるサクラやイチョウやモミの木に似た「言葉の木」も認め、理解し、互いに爽やかな風を起こすように努めてほしいのです。
「私の言葉の木は、枯れたり、蝕まれていないよな」
と、ふと頭の上の「言葉の木」の具合をチェックする。
それが本著の一番の狙いです。
書いて・話して・育てる言葉の木
最後にお知らせです。
10月13日から、慶應MCCで「伝わる言葉のワークショップ」を担当します。
『ひきたよしあきさんと書く・話す【伝わる言葉のワークショップ】』
自分の軸となる「自分語」を発見する。そこを起点に相手と通じ、社会へ通じる。そのような言葉と伝え方を、「書く(言葉にする)」と「話す(伝える)」の2つの方法で実践します。
自分の思いを自分の言葉で表現したい方、
相手と理解しあえる関係を築きたい方、
書くこと・話すことに苦手意識のある方、
ぜひ一緒に「書いて・話す」ことで、「言葉の木」を育て、考える力、伝える力を鍛えましょう。
ひきた よしあき
作家・コミュニケーションコンサルタント
大阪芸術大学客員教授
株式会社SmileWords代表取締役
慶應MCC担当プログラム
ひきたよしあきさんと書く・話す【伝わる言葉のワークショップ】
1984年、早稲田大学法学部卒。博報堂に入社後、CMプランナー、クリエイティブディレクターとして、数々のCMを手がける。今も政治、行政、大手企業などのスピーチライターとしても活動。多くのエグゼクティブからの指名が殺到している。企業、行政機関等でコミュニケーション研修を開催する傍ら、大阪芸術大学、明治大学をはじめ、多くの大学の講義。学生から「就職後まで役に立つ」「一生ものの考える力が身につく」と支持を集める。WEB教育番組Schooでは、毎月約1万5,000人の視聴予約。朝日学生新聞社主催のWEB番組「みんなをつなぐ新聞」は1,000名を超える小学生が集まる。現在、著作数17冊。累計24万部。日本語の素晴らしさ、コミュニケーションの重要性を様々な角度からアプローチし、広い世代に伝えている。
主な著書
『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』(日経BP)
『一瞬で心をつかみ意見を通す対話力』(三笠書房)
『「スルーされない人」の言葉力』(大和出版)
『人が動きたくなる言葉を使っていますか』(大和書房)
『博報堂スピーチライターが教える 5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』(大和出版)
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遠州流茶道13代家元とともに、総合芸術としての茶の湯、日本文化の美の魅力を心と身体で味わいます。
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宮城まり子さんとこころの旅
【どんな時にも人生には意味がある】
『夜と霧』の著者V.フランクルの思想・哲学・心理学を題材に、生きる目的・人生の意味を語り探求します。
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