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ピックアップレポート

2023年05月09日

平井 孝志『人生は図で考える 後半生の時間を最大化する思考法』

平井 孝志
筑波大学大学院ビジネスサイエンス系 国際経営プロフェッショナル専攻 教授

 人生とはなんぞや。
 もしもそのように問われたら、「本当の自分に出会うための旅路」だと私は答えます。
 本書は、40~50代になり、「さて、これからどう生きていこうか」と考え始める人のために提供する、21の思考法です。メイン・テーマは後半生であり、試行ツールは図解。そして主役は、あなた自身です。

 人は、他人の生を生きることはできません。
 生まれてから死ぬまでずっと、自分の心と体と共に過ごしていくしかありません。
 人は生まれる場所や時期も選べませんし、計画通りに死を迎える人もほとんどいないでしょう。また、恵まれた環境の人もいれば、不遇だと思える人もいます。そのような意味で、人生とは本来、不公平なものです。ただし、外的な条件だけでその人の人生の価値が決まるかというと、それはまったく違います。

 なぜならば、人生に「価値があるか」「幸せかどうか」を決めるのは、他の誰でもなく自分自身だからです。

 どんなに理屈をこねようが、万人に共通する人生の目的などありません。1人ひとりがそれぞれ異なる問いで、「生きることの意味」を問われているのです。だからこそ、自分の裁量ではどうにもならない富や名声などを追い求めて欲望のままに生きるのではなく、自分なりに十分に吟味しながら生き切ることが、大切なのです。
 それが本当の自分に出会うすべであり、人生を豊かにしていく道です。
 幸せの判断軸は、自ら見つけていくしかありません。
 本書で紹介するのは、そのための21の考え方です。

 人生100年時代が到来しているのはあらためて言うまでもありません。
 50歳だと残り半分。65歳で定年退職したとしてもまだ数十年残っています。これは、現在の肩書を失う大人たちが、その先数十年の後半生を、裸の自分で生きていかなければならないことを意味します。たとえ輝くような肩書を持っていたとしても、それは確実に失われます。いわば、未来は現在の延長線上にはないのです。
 しかしながら、なくならないものがあります。
 素手でも残る、自分自身の思考です。これまで蓄積した経験も、決してなくなりません。だとすれば、それらを最大限に武器として活用し、「人生とは何か」「幸せとは何か」をじっくり考え行動していくことが、後半生をより良く生きる道になります。とにかく、自分次第なのです。

 私はもうすぐ60歳を迎えます。まさに後半生を生き始めたところです。
 おそらく読者の方々より10~20年ほど先をいっている感じでしょうか。
 ちょうど50歳の頃、戦略コンサルタントから大学教授へと転身しました。年収は大きく下がったものの、新しいチャレンジの場を得ることができました。さらに言えば、その先の肩書きのない世界の道筋さえも、実感できる段階まで来ています。
 もちろん、転身の際には大きな葛藤がありました。会社での役割や地位、仕事上の責任、家族の生活、自分の本当にやりたいことなど、さまざまな要素が相矛盾していたからです。
 しかし決断しなければ前に進めません。このあたりの状況は、本書でも詳しく述べていきます。

 実は、昔から「図」で考えたり、説明したりするクセが私にはありました。
 たとえば、論理展開に役立つピラミッド構造の図、物事をタテ・ヨコの2軸で整理する田の(マトリックス)の図など。これらの図は、ビジネスシーンでおおいに役立つものでした。コンサルタントとして、アナリストからパートナーへの階段を上がっていく際にも、常に新しい視点や視座を自分に与えてくれたのです。

 現在の私は、自分自身のコンサルタントでもあります。
 そこで気づいたのが、「図解思考とも呼べるこの武器は、後半生を考える上でも実際に役立つ」ことでした。なぜなら「図」は、物事を抽象化し、本質に迫る上での「思考の補助線」を提供してくれるからです。
 おそらく読者の多くの方もキャリアの中心がビジネスであり、さまざまな図表も使いながら、ビジネス上のコミュニケーションを構築してきたかと思います。いわば、あなたと私が手にしている武器は同一で、共通の土台が存在しているのです。

 本書では、後半生のセルフコンサルティング法について、多面的な視座からアプローチしていきます。
 
 第1章では、後半生という「相転移」を認識して、自分らしさを取り戻すこと。
 第2章では、その相転移前では「備え」、相転移後では「本当にやりたいこと」に資源を配分し、身近な人からの承認が最も意味がある自己実現だという認識を持つこと。
 第3章では、「したい」を優先しつつも、「べき」のトレード・オンを模索し、好い加減の選択を行うこと。
 第4章では、逆境や苦難を想定し、そのときは「明らめ」ることによってすべてを受け入れ、主観的に物事が再始動していくのを感じること。
 最後の第5章では、万人に共通の人生の目的などはなく、「散逸系」の生命として「今、ここ」を受け入れて生きるべきだということ。

 私がこれまで学んだことや失敗談などを題材にしながら、後半生を「図を使いながら」縦横に思索するのが本書の試みであり、その方法が21の思考法です。
これらの思考は、より良く生きるための判断軸、すなわち人生をより明晰に見る〈レンズ〉になるはずです。

1. ホロニック思考―これまで蓄積した土台(部分)を統合し、人生を味わう
2. バックキャスティング思考―今の延長線上ではなく、人生の終点から振り返って考える。
3. オンリー・ワン思考―自分自身の「判断軸」を持ち、無限競争を避ける
4. コミュニティー思考―「周り」との関係性の中にこそ自分があることを理解する
5. フェーズ思考―人生の「相転移」を受け入れ、その素晴らしさを感じ取る
6. センスメイキング思考―能動的に人生の意味付けを行い、「行動」する
7. ストラテジー思考―希少資源の「時間」を本当にやりたいことに配分する
8. パーソナル・アンカー思考―自分の強み・興味の根幹の上に人生を創っていく
9. ビッグ・ピクチャー思考―相転移に向け、ありたい姿を含む「おでん図」を描く
10. プランニング思考―ありたい姿へのボトルネックを把握し、PDCAを廻す
11. エマージェンス思考―新たな行動によって出会う偶然を必然に変えていく
12. セルフ・エフィカシー思考―自分が役立っているという感覚を大事にする
13. モデレイト思考―ちょうど好い加減で良しとする気持ちを持つ
14. トレード・オン思考―本当に「したい」ことと大切な「べき」の両立を目指す
15. ナラティブ思考―「明らめる」ことから出発し「自分らしく」へとつなげていく
16. ヒストリー思考―これまでの蓄積や経験を大切にし、そこから出発する
17. サブジェクティブ思考―客観性を包み込んだ主観性を大切にする姿勢を持つ
18. ヒア・アンド・ナウ思考―「今、ここ」に集中し、一生懸命に生きる
19. ライク・ディスライク思考―好き・嫌いで判断し、心から好きなことを選ぶ
20. シンプル・ルール思考―あくまでも単純な行動原理に従う
21. ディシペイティブ思考―「散逸系」としての生命をまっとうする

もう一度、繰り返します。
 人生とは、「本当の自分」に出会うための長い旅路です。
 一つとして同じものはありません。

 ただ流されるのではなく、「図」を一つの手掛かりにしながら、自分を可視化し、客観的に自分との対話を促し、自分を観察する未来を心から楽しんでください。
 それでは、始めていきましょう。
 本書と、紙とペン一本を持って、自分自身のコンサルタントになりましょう。お互いに後半生の道のりを豊かなものにしてゆこうではありませんか。
 さあ、時間です。

 

『人生は図で考える 後半生の時間を最大化する思考法』のはじめにおよび第5章より著者と出版社の許可を得て抜粋・掲載しました。
出版社:朝日新聞出版(朝日新書); 発売年月:2022年10月; 本体価格:890円(税抜)


平井 孝志(ひらい・たかし)

平井 孝志

筑波大学大学院ビジネスサイエンス系 国際経営プロフェッショナル専攻 教授

慶應MCC担当プログラム
経営戦略―ビジネスモデルと成長戦略(2023年10月開講)

東京大学教養学部基礎科学科第一卒業、同大学院理学系研究科相関理化学修士課程修了後、ベインアンドカンパニー、デル(法人マーケティング・ディレクター)、スターバックスコーヒージャパン(経営企画部門長)、株式会社ローランド・ベルガー 執行役員 シニアパートナーなどを経て現職。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院MBA。博士(学術)。コンサルタント時代には機械/電機メーカー、商社など幅広い業界において、全社戦略、マーケティング戦略の立案・実施などに豊富なコンサルティング経験を持つ。

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