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ピックアップレポート

2008年06月10日

現場で使える統計学 ―道具としての統計学はむずかしくない

豊田裕貴 多摩大学経営情報学部マネジメントデザイン学科 准教授

大量にあふれるビジネスデータを、生かせていますか。生かせずにいますか?
もし、まわりに活用しきれていないデータがあるなら、もったいなさすぎます。ちょっと統計学を使えるだけで、いろんなビジネスヒントを引き出せます。これからデータが増えることはあっても減ることはないでしょうから、データが増えれば増えるほどもったいないことになります。
まわりが統計学を毛嫌いしているなら、なおさらチャンスです。統計学を使えるからこそ得られるビジネスヒントを先取りしていけるからです。
でも、「統計学を勉強する」と考えると、身構えてしまう人も多いのではないでしょうか。大学などの講義で習ったものの、試験が終ればそっくり忘れてしまった(忘れてしまいたかった)という人も多いのではないでしょうか。もしくは、今まで統計学を学ぶ機会もなく食わず嫌いになっている人も多いと思います。
でも、ちょっと待ってください。


 道具としての統計学はむずかしくない。
これが、十年以上統計学を使いながら覚えてきた経験からの結論です。道具として何かを学ぶなら、興味がある分野で使いながら覚えるにつきます。ビジネスパーソンであるみなさんは、自身のビジネステーマに使いながら覚えてしまえばよいわけです。道具としての統計学を「何に使えるか」、「どんな道具か」、そして、「どうやって使うと使いやすく」、「ミスせず使えるか」といったことをお伝えしたいのです。
そして、道具としてなら一つ覚えるごとに使っていけば良いわけです。そして、使えば使うほど、どんどんその手法の本質がわかってきます。これが道具として統計学を学ぶ良いところです。
 道具としての統計学の勉強に、スタートする時期は関係ない。
手法は本来、理論が先にあるわけではなく、何かを知りたいというニーズから生まれてきたわけですから、使っているうちに本質がわかってくるのは当然です。ですから、理論から勉強しなくても十分道具として使いこなせるようになります。「まずは数学を勉強してからじゃないと」といった準備も必要なく、いつでもスタートできます。
とはいえ、まったく仕組みを知らずに道具を使いながら本質に迫るというのも効率が悪い。では、道具として現場で使える統計学のポイントは何でしょうか。思い切って二つに絞ってみたいと思います。
 一つは、ビジネスの現場にあふれるデータを要約してビジネスヒントを得ること、
 もう一つは、データを使って仮説(イイタイコト)を主張するということです。

とくに、後者は「一部のデータでものを言う(推定)」ということで、近代統計学の本質そのものです。この推定というのは、クセのある考え方です。ただし、この壁を越えてしまえば、先の景色が一気に広がります。
最後にあえて、一つ触れておきたいことがあります。
 統計学は使わなくて良いのであれば、使わない方がよい。
こう書くと、「え?」と思われるかもしれません。でも、これはビジネスで統計学を使ってきた経験から強く言い切れます。「使わないで済むなら使わない方が良い」。それでもなお、ぜひ道具としての統計学を身につけた方が良いのは、使わなければならないときに、統計学は非常に強力な武器になるからです。統計学万能主義でもなく、統計学無用主義でもない、使えるときに使っていく統計学.これが「現場で使える統計学」のスタイルです。
現場で使える統計学のエッセンスを7個のポイントに絞ってみます。

  1. 統計学の主な目的は、要約(まとめ)と推定(一部のデータでものを言う)の二つ。
  2. 要約では、必ず何かしらの情報が捨てられる。何が捨てられるのかを理解した上で、要約するかどうか、要約するならどんな手法を使うかを決めなければならない。
  3. 要約手法では、しばしば「当たり前の分析結果」が得られてしまう。それは、分析対象をよく知っていればいるほど起こる。ビジネスの現場でできる人ほど、統計学を使った際にがっかりする一因はここにある。逆に、要約で捨てられていく情報や傾向から外れている値(外れ値など)に着目するという見方で要約手法を考えると、新たな知見を得るために使える統計学になる。
  4. シンプルな手法であっても組み合わせることで、得られる知見を広げることができる。その際には、何を知りたいのかを考えてから、手法やその組み合わせ、必要なデータを考えていくことが必要になる。
  5. 一部のデータでものを言う以上、結論は断言できない。だからこそ、前後に幅を持たせたり(標準誤差)、判断ミスをする可能性を加味してものを言ったり(有意確率)する必要がある。
  6. 仮説は、原因系と結果系を含めることで、ビジネス現場で使いやすい仮説になる。そして仮説の基本パターンはその基本はA→B ⇒ C→D。この仮説へのアプローチは、原因系と結果系が、質的データか、量的データかの組み合わせで4通りになる。この組み合わせと統計手法を対応づけると、現場で使うシーンや目的をイメージしやすくなる。
  7. 仮説へのアプローチは、必ずしも仮説検定である必要はない。集計やグラフ、基本的な統計指標の比較で済めば、それでもかまわない。もしそれでは十分ではなく、仮説が正しいかどうかの判断ミスをする可能性まで知りたいときに、仮説検定の知識が生きてくる。

より詳しくお知りになりたい方は、『現場で使える統計学』(豊田裕貴著、東急コミュニケーションズ)をお読みになってみてください。

現場で使える統計学』「はじめに」「おわりに」より著者、出版社の許可を得て編集、転載

豊田裕貴(とよだ ゆうき)
多摩大学経営情報学部マネジメントデザイン学科准教授
慶應MCCプログラム「ビジネスデータ分析」講師

法政大学経営学部卒業、法政大学大学院にて経営学修士号(MBA)、同大学院経営学博士号(DBM)を取得。その間マーケティング・リサーチの実務を経て、2004年4月より多摩大学経営情報学部マネジメントデザイン学科助教授、2007年4月より現職。専門はマーケティングリサーチ、マーケティング。
著書に『現場で使える統計学』(阪急コミュニケーションズ、2006年)、『テキストマイニングによるマーケティング調査』(共著、講談社)など。

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