ピックアップレポート
2008年10月14日
坪井 信行「数字力! 客観化→具体化→説得化の3stepで「苦手」な数字を「得意」に変える」
坪井 信行 慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科非常勤講師、慶應MCC客員ファカルティ、T・C・マネジメント代表
2008年9月に出版された『数字力! ―客観化→具体化→説得化の3stepで「苦手」な数字を「得意」に変える』の「はじめに」からの転載です。
数字の苦手なあなたのために
本書は、心のどこかで「数字はどちらかというと苦手だな」と思っているあなたのための本です。
「数字が苦手だ」という人が、世の中には少なくないのだということを、私はソロモン・ブラザーズなどでのアナリスト活動と、社会人教育に従事する中で痛感してきました。正確に言うと、「数字が苦手」というよりは、「数字の扱い方を良く知らない」だけなのかもしれません。
「数字が苦手だ」という人の多くは、数字の扱い方が上手でないために、本来不必要な苦手意識まで持ってしまったのはないでしょうか。
数字は、使い方一つで、便利な道具にもなれば、危険な刃にもなります。数字の取り扱いは、上手い下手がはっきりする世界ですが、実は、ちょっとした工夫で、数字の取り扱いが飛躍的に上手になるのです。そのちょっとした工夫の仕方を本書では解説していきます。
成功の条件 ― 楽しむこと
ところで、人生の成功者になるための条件には、どんなものがあると思いますか。
「唐突に変なことを・・・」
と思ったかもしれません。でも、少しだけ考えてみて下さい。
お金持ちになることでしょうか。確かにお金が沢山あるといろいろなことができます。
でも、お金儲けをすることが、必ずしも「幸せ」につながるとは限らないことは、多くの人が知っています。どんなに沢山のお金を持っていても、不幸せな人生を送っている人もいます。逆に、金銭的には決して恵まれていなくても、人生を楽しんでいる人も少なからず存在しています。
私の持論でもありますが、成功しているといえるためには、人生を楽しんでいなければならないと思います。
人生を楽しむには、自分の頭で物事を判断して行動することが、不可欠だと思います。他人が考えたお仕着せの幸せをなぞったとしても、本当に楽しいかどうかは疑問です。本当の面白さというのは、自分の頭で考えて行動することによってのみ味わうことができるからです。
そうした自律的な行動こそが、人生を充実させるものなのです。
自律的な行動をするには、きちんとした判断ができるという自信が必要ですよね。判断力に自信がない人は、自律的な行動など取れません。
その判断力を決定付ける要因の一つが、数字リテラシー(数字を読み書きする力)です。
数字には「パワー」がある
数字には、三つのパワーがあります。一つ目は、客観パワーです。数字を適切に使うことで、客観性を獲得できます。二つ目は、具体パワーです。数字には具体的なイメージを引き出す力があります。三つ目は、説得パワーです。客観性と具体性を兼ね備えた数字を使った議論には、強い説得力が生じます。
この数字のパワーを使いこなすのは、一筋縄ではいきません。たとえば、数字の客観性といいましたが、数字は同時に解釈次第で意味が変わるものです。状況次第で変わることもあります。
前著『100億円はゴミ同然』でも書いたことですが、大きな金額を扱う仕事を続けていると、数字に対する感覚が(一時的にせよ)変化してしまうことがあります。私は、実際にタイトル通りの感覚になってしまったことがあるのです。
普通に考えれば、百億円がゴミなはずはないのですが、一千億円から一兆円近いサイズの案件を次々に扱っていると、百億円程度の金額が小さな数字に見えてしまう感覚が生じることがありました。
これは、明らかに正常な感覚ではありません。でも、今冷静に振り返ってみると、そのときの仕事を効率的かつ効果的にこなしていくには、そうしたある意味異常な感覚も必要なものだったと思います。
このように、客観性といっても、その解釈や捉え方は状況次第で変化するものです。数字リテラシーには、そうした対応力が含まれます。
数字の三つのパワーについては、第一部第一章で説明します。
数字リテラシーを身に付けるには
そして、それに続いて、数字リテラシーとは一体どんなことを意味しているのかについて、改めて解説していきます。
数字リテラシーとはどんなことなのかを理解したうえで、それを身に付けるための具体的な方法論に展開します。
まず第二章で、感覚を数字に置き換える訓練をします。感じたことを数字に置き換えると、強いメッセージとなり、他人に効果的に伝えることが可能になります。いくつかの事例をとりあげながら、数字リテラシー獲得と向上のためのテクニックを紹介します。
さらに第三章では、日常生活における数字についての議論を展開します。私たちの日常生活は、数字に満ちたものです。その数字をどのように読み取るのか、解釈するのかということで、生活の充実度まで変わってきます。ちょっとした「テクニック・技」を知っているだけでも、大きな違いが実感できます。
次に、第四章では、なぜ「数字嫌い」になってしまうのかということに関して、私なりの考察をしています。よく混同されるのですが、「数字嫌い」と「数学嫌い」はレベルの違う問題です。その違いと共通するものを明らかにしていきます。そこに数字リテラシー向上のヒントがあります。
数字は好き嫌いの問題ではなく、生きるために必要なものだといえます。数字はメッセージを伝える最も有効な手段ですし、数字がない生活などありえないからです。
ちなみに、「数学がデキル」と経済的に得をすることがあるようです。数学がデキルかどうかで、平均年収まで大きく違うという研究結果もあります。
とはいえ、数学そのものを学び直す時間はありません。数学的な考え方のエッセンスをビジネスに活用する方法を紹介します。
第一部の最後となる第五章では、数字の語り方について、解説します。数字が語れるようになれば、数字リテラシー上級者といえるでしょう。
数字リテラシーは、問題発見・定義や問題解決に役立ちます。また、数字リテラシーは、グローバルに通用するスキルでもあります。数字で語れるビジネスパーソンは、世界を舞台に活躍することができるのです。
会計と投資の数字リテラシー
第二部では、会計と投資に関わる数字リテラシーについて、詳細に説明していきます。会計と投資は、私自身の専門分野でもあり、差別化の要因でもあります。
会計は、ビジネスの基礎言語と位置付けられるものです。最低限の会計知識と共に、数字の扱い方を学びましょう。
会計の数字が分かるというのは、ビジネスが分かるということと同義語です。ビジネスが分からないビジネスパーソンというのは、ありえないことですよね。会計を全く知らないでビジネスの世界を渡っていくことは、難しいはずです。
この機会に、会計の基本的な仕組みと、その数字の使い方について、身に付けておきましょう。必ず役に立ちます。
一方、投資は、数字を使った戦いです。数字を味方につけることで、勝利に近付きます。逆に、数字の使い方を間違ったり、数字を避けようとしたりすると、投資で負ける可能性が高まります。
投資の数字には、いくつかの重要な役割があります。とりわけ重要なのは、数字を使って投資を判断しておけば、間違ったときに早く気付くことです。
また、投資で成功するには、規律が大事ですが、ルールを作るときに数字で決めておくことが大切です。数字で決めたルールを遵守すれば、大負けをすることがなくなります。長期的には勝ち残る可能性が高まるのです。
会計と投資に関する数字リテラシーについては、アナリストとして培った、専門的な知識や見解を紹介します。ここで紹介したスキルを身に付ければ、ビジネスパーソンとして、一段ステップアップすることができます。
数字リテラシーの獲得・向上で成功者になろう
本書を読むと、日常生活からビジネスまで、幅広い局面で数字リテラシーを活用することができるようになります。そして、あなたは人生の成功者になる条件を一つクリアするのです。
数字リテラシーが高まると、日常生活で損をしなくなります。また、ビジネスにおいて、的確な判断を下すようになり、他人を説得できるようになります。結果的に人生を楽しむ余裕ができるのです。繰り返しになりますが、人生を楽しむことこそが、成功者の条件です。
本書を読み終わるころには、あなたは「数字が得意な人」になっているはずです。そして、成功へのステップを歩み始めます。
さあ、これから数時間、数字リテラシーの世界に浸りましょう。私がナビゲーターとして案内していきますので、よろしくお願い致します。
2008年9月に出版された『数字力! ―客観化→具体化→説得化の3stepで「苦手」な数字を「得意」に変える』の「はじめに」より著者および出版社の許可を得て転載。無断転載を禁ずる。
坪井信行(つぼい のぶゆき)
慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科非常勤講師、慶應MCC客員ファカルティ、T・C・マネジメント代表、株式会社ティー・アイ・ダヴリュ取締役
慶應MCCプログラム「会計情報から経営を読み解く」講師
筑波大学第一学群社会学類(経済学専攻)卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了、経営学修士(MBA)。シティバンク・エヌ・エイ、バークレイズ証券会社、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社(現日興シティグループ証券)、UBSウォーバーグ証券会社(現UBS証券会社)、新生銀行、メリルリンチ日本証券 ディレクターを経て現職。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。
主な著書に『数字力! ―客観化→具体化→説得化の3stepで「苦手」な数字を「得意」に変える』(PHPエディターズ・グループ/PHP研究所、2008年)
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