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論理思考のレシピ

2009年07月14日

桑畑幸博 慶應MCCシニアコンサルタント

1.はじめに
「○○はアタマがいいからなあ」
誰でも一度はこの言葉を言った/聞いたことがあるだろう。
では、”アタマが良い人”とは、具体的にどのような人のことを言うのか。また、何ができる人がそのように呼ばれるのだろうか。
この命題が意外に難しいのは、その定義が人それぞれ、様々に存在するからだ。
さて、筆者が子供の頃の”アタマが良い子”とは、”モノ知り”とほぼ同義だったように思う。
・・・漢字やことわざをたくさん知っている。
・・・九九が全部言える。
・・・道ばたで見かけるトンボの名前を全部知っている。
こうした事実を目の当たりにした時、「○○クン(チャン)は頭がいい」と言う人が多かった。つまり、脳に保存・蓄積し、すぐに取り出すことのできる『知識の量』が、アタマの良さを測る指標だったのだ。


では、現代においてはどうだろう。
もちろん今でも知識の量は重要だ。しかしながら、インターネットや携帯電話の普及に伴い、「知識を大量に憶える」ことの優先順位は確実に低下した。コンピューター・ネットワーク上のサーバという”もう一つの脳”を共有することで、私たちは「知らなくても検索すればすぐわかる」環境を手に入れたからだ。
そのような時代において、”アタマが良い人”とは、”論理思考ができる人”になってきたのではないだろうか。
・・・たくさんのアイデアをポンポンと思いつく。
・・・経験がないことでも、適切な答が出せる。
・・・説明が理路整然としている。
平たく言えば、「手持ちの情報を駆使して考え、適切に答を出してわかりやすく説明する」ことができる人が、現代の”アタマの良い人”と考えて差し支えないだろう。
このように、知識を頭に大量に詰め込んだ人が、そしてそれによって偏差値の高い学校に入った人が、”アタマが良い”と思われていた時代は過去のものとなった。そして新たな”アタマが良い人”の定義である”論理思考ができる人”は、先の具体例からもわかる通り、臨機応変に適切な答を出し、他者を説得できる人であり、要は”仕事ができる人”を意味する。
論理思考力とは、『知識を現場で活かす力』なのだ。
従来こうした「仕事の基盤となるスキル」は、「個人のセンスの問題」で片付けられ、またそれを身に付けるのも、上司・先輩から盗むという徒弟制度が基本と考えられてきた。
しかしそれは大いなる誤解だ。誰もが体系的に学び、訓練すれば身に付けることができるのが、この論理思考だ。
2.まず「2つの現実」を知ろう
論理思考を学ぶ前に、私たちの「考える」という、あまりにも日常的な行為の現実を見てみよう。そして自身にも少なからず当てはまるであろう、この現実を直視することから、論理思考を学ぶための第一歩を踏み出そう。
<考えている”つもり”?>
当たり前のことだが、私たちは日々「考えて」いる。しかし、本当に「ちゃんと考えて」いるのだろうか。
まずは自分自身を振り返り、ちゃんと考えている”つもり”になっていたことを自覚しよう。そして、そこから論理的に考えることの重要性を痛感してほしい。
「考えているようで考えていない」という現実:自身の 『思考停止』を自覚する
いきなりだが考えてほしい。
私たちはなぜ学校で歴史を学ぶのだろうか?
ここで「テストに出るから」と答えたとしたら、それはあまりにも安直だ。そもそも歴史を学ぶことと、その理解度をテストで評価するのは、どちらが先に始まったのかを考えればわかるだろう。ただ、これは答えを出しているのでまだ良い。最もダメなのが、「そんなの知らないよ。そう決まってるんだからしょうがない」と、考えることを初めから放棄してしまうことだ。
しかし、たとえ知らなくても考えることはできる。そして考えれば、答は必ず(それが正解がどうかは別として)出る。冒頭の問いに対しても、自分なりに考えれば、「過去の過ちを繰り返さないため」「先人たちに感謝するため」「社会の仕組みを時系列で理解するため」等々、様々な答が思いつくはずだ。
ところが私たちは、しばしば考えもせずに「わからない」と言って考えることを放棄してしまう。また答はひとつとは限らないのに、「○○しかありえない」と決めつけたり、他人の答を疑いもせずに鵜呑みにすれば、やはり思考はそこで止まってしまう。
これらは全て、『思考停止』している状態だ。
あなたも思い当たる節があるだろう。そう、残念ながら私たちは、自分が思っているほどには「考えているようで考えていない」のが現実なのだ。
さて、思考停止を起こしてしまうとどうなるのか。
まず安易に「わからない」「考えるだけ無駄」と言ってしまう思考放棄は何も成果を生まないし、「○○に決まっている」という決めつけからは、今までの常識や経験則に縛られた、面白みのない限られた答えしか出てこない。また、「テレビで言ってたから」などの鵜呑みは間違った行動にすら繋がってしまう。
この思考停止、本人にも問題があるのは当然だが、環境的要因、特に社会人となって以降の、組織に大きな問題がある。
たとえばあなたは、与えられた仕事に疑問を持ち、「この資料、なぜ作らないといけないんでしょう?」と上司に聞き、「よけいなこと考えずに手を動かせ!」と言われた経験はないだろうか。また、結論が判然としない会議が多かったり、上司の指示で一番多いのが、「とにかく頑張れ」であったりしないだろうか。これらの問いにひとつでも「Yes」があったなら、それはあなたの属する組織に思考停止が蔓延していることを示している。
私たちは、上司や先輩たちの仕事のやり方や考え方に常に接しながら働いている。そうすると、自然と同じような仕事のやり方や考え方になってしまうことが多い。組織特有の風土に染まってくると言ってもいいだろう。それが良き風土なら大歓迎だが、どんな組織にも悪しき風土は存在するし、それが思考停止の風土であっても、それに染まらない方が難しい。そして残念なことに、こうした思考停止の風土を持つ組織が多いのだ。
「考えても答が出てこない」という現実:『考え込む』のはなぜか
思考停止にはなっていない。一生懸命に考えている。しかし「これだ!」という明確な答が出てこない。時間ばかりが過ぎていく・・・。
これが『考え込んでいる』典型的な状況だ。あなたも経験があるだろう。
まさに「下手の考え休むに似たり」であり、時間の浪費以外のなにものでもないわけだが、ではどうして私たちは考え込んでしまうのだろうか。
第一の原因として挙げられるのが、 『イシューの迷走』だ。
イシュー、つまり「今考えるべき事」が定まらず、様々な論点が入れ替わり立ち替わり頭に浮かんできて、どうどう巡りを繰り返しているのだ。会議で脱線が繰り返され、いつまでたっても議論が進まないのと全く同じ状況が頭の中で起こっている、と考えてみればイメージしやすいだろう。
たとえば課題の解決策を考えているとしよう。「どうしたらこれが解決できるのか?」を考えていたら、別の自分が「そういえばあれはどうなったんだっけ?」と別のことを考えはじめてしまう。これでは集中して考えられるはずもない。
第二の原因は、 『言語化の壁』だ。
なんとなく答えは見えてきた。しかし頭の中でもやもやしている状態で、明確な言葉で表現することができない。言語化できなければ、そこから具体的に考えることができないし、ましてや他者に自分の考えを伝えることなどできないだろう。
そして第三の原因が、 『自分の答への違和感』だ。
考えて出した答が間違っているとは思わない。しかしどうもしっくりこない。重要なポイントが抜けているような気がするが、それが何かわからない。答としては未完成なため、そこから先に進めず、またも考え込んでしまうわけだ。
いかがだろう。今まで自分が考え込んでいたという現実と、その原因が見えてきたのではないだろうか。
しかし誰しも好きこのんで考え込んでいるわけではない。実は考え込む原因となる、これら『イシューの迷走』『言語化の壁』そして『自分の答への違和感』は、「下手の考え休むに似たり」ということわざからもわかるように、「上手な考え方が身に付いていない」ことが共通要因だ。
よってちょっとしたコツをつかみ、そして考えるための道具をうまく使いこなせるようになれば、誰でも上手に考えられるようになるし、結果的に考え込む時間も短縮できる。
著書『論理思考のレシピ』では、先に解説した思考停止と併せて、こうした考え込む状況を回避し、さらに一歩進んで、より効果的・効率的に考えるためにはどうしたらよいのか、その具体的な処方箋を提示している。そして、思考停止や考え込むことなく、論理的に考えることが私たちにとってどのような意味(メリット)を持つのか、考えてみよう。
 

2009年7月に出版された『論理思考のレシピ』の「はじめに」および「オープニング」より著者および出版社の許可を得て転載。無断転載を禁ずる。

桑畑幸博(くわはた・ゆきひろ)
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應MCCでプログラム企画や講師を務める。
また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。
主な著書に、『すごい結果を出す人の「巻き込む」技術 なぜ皆があの人に動かされてしまうのか?』(大和出版)『日本で一番使える会議ファシリテーションの本』(大和出版)『論理思考のレシピ』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

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