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津村 英作「私の考える日本人の特長を活かした紛争解決と合意形成に必要なこと」

2010年06月08日

津村英作
組織心理学博士(Ph.D)、ヒューマンエデュケア代表、ビガーゲーム公認トレーナー

現在、社会のいたるところで紛争(揉め事)解決へのニーズが高まっている。企業組織のチーム内、部門間、顧客からのクレームはもちろん、医療や教育の現場でも、モンスターペーシェント、モンスターペアレンツという言葉に象徴されるように、苦情や訴訟の多発で現場は疲弊している。また、日本に住む外国人人口は急激に増加しており、これまでにない国内異文化間コンフリクトも発生している。また、地方行政や地域づくりの観点でも、住民の参加が叫ばれ、さまざまなステークホルダーが参加しての合意形成の方法が模索され始めている。

このような状況をいち早く体験した欧米では、「紛争解決学」が独立した学問分野として創設され、専門研究者や実務家を育成する大学院教育が行われてきた。また、企業内の対立をどのように解消するのかの具体的な方法論も提案され、効果を発揮している。一方、日本ではこれまで紛争解決学は独立した分野として確立しておらず、ニーズの高さに対して十分に現場に活かすだけの知見がまとまっていない。ここでは、紛争解決学の先進国である欧米の状況を鑑みつつ、日本独自の紛争解決と合意形成の観点を提唱してみたい。

もともと、紛争解決学は、英語のStudy of Conflict Resolutionの日本語であり、北米を中心とする欧米圏では、一つの専門分野として大学院教育等が行われ、紛争解決の実践家のひとつの形態であるMediatorの認定制度が各州・自治体ごとに存在するなど、社会において重要な役割を果たしている。この分野は、1960年代の米国を中心とする(1)組織開発研究、(2)国際関係論分野での問題解決ワークショップ、(3)宗教指導者による平和構築、(4)法社会学からは代替的紛争解決ADRの推進運動に端を発するといわれる。

1973年のDeutschによるThe Conflict Resolution、1981年のハーバード大学Fisherらによるハーバード流交渉術で有名になったGetting to Yes: Negotiating Agreement Without Giving Inで、アカデミズムそして実務分野で注目を集め、1982年には全米初の紛争解決専攻の大学院がGeorge Mason Universityに設立された。以降、英米圏を中心に、この分野を専攻できる大学院が現在までに多く作られ、専門的研究者と実務家を多く輩出してきている。

現在の紛争解決学は、個人間紛争(例:夫婦)から組織間(例:企業)、大きくは国家間等のさまざまなレベルの紛争に対して、法律等で規範的に対処するのでなく(だけではなく)、当事者の相互対話による合意形成を通じた紛争の解決を目指すための支援手法として発達してきた。現在では、夫婦間紛争、組織内紛争マネジメント、ビジネス紛争、国際紛争、司法等の幅広い領域を下位領域としてもつ分野として発展を遂げてきている。

これに対して日本でも様々な領域で個々人が主体の取り組みが行われている。(1)国際政治学における紛争解決、(2)法社会学者による調停・仲裁・ADR論、(3)経営学における交渉論、(4)前記以外の欧米留学者による欧米手法の紹介者等、多分野に分散して当該関連分野の研究者がいる(例:法社会学:ADR、公共政策・行政学:コンセンサスビルディング、住民参加政策、経営学:ビジネス交渉・組織論、心理学:グループ心理学、異文化コミュニケーション等)がそれである。

私自身も組織心理学を米国で学び、その後長きにわたって組織開発、心理教育の分野でコーチングやファシリテーションの手法を用いて個人間と組織間の合意形成を通じた紛争解決に向けて取り組みを行ってきたが、欧米型の紛争解決支援手法は、紛争解決においてミディエーションの専門家が仲介役として入り、紛争当事者に対してお互いの紛争の原因を明確にし、解決に向けた合理的な話し合いをさせることで、問題解決を図る手法が主に見られる。しかしながら、欧米と日本では合意形成の文化が異なるため、この方法が機能しなかったり、ときには、逆効果であったりすることさえありえる。

日本では、紛争(揉め事)を他者の眼前に取り上げてお互いの対立点を明確にすること自体が、文化的に困難であると言える。日本的な合意形成にはこうした紛争の雰囲気を極力回避しながら対人関係調整を行い、自尊心・プライドを傷つけない方法で合意形成を図る。欧米の人からはこの方法自体がブラックボックスであり、不思議と思われるかもしれないが、長年日本人が無意識にやっている対人関係調整(紛争解決の一種であり、紛争予防でもある)であり、信頼関係を損なうことなく合意形成を行うことで組織・チームとしての凝集性を保つ優れた側面も持つ。

これまで日本人が無意識に行ってきたこうした合意形成プロセスに近いものがここ数年、概念化され「対話手法」として組織開発、ソーシャルアントレプレナー、人材育成の専門家たちによって企業内の合意形成に活用されはじめている。米国の物理学者David BohmのOn Dialogue「ダイアローグ」の翻訳やMITの経営学のピーター・センゲ、オットー・シャーマー教授らによる、「出現する未来」を代表とする場の中に創発される智恵という東洋的な発想と西洋的な概念構成を持った対話手法とが融合し、ワールドカフェやオープン・スペース・テクノロジー(OST)といった具体的な対話手法として受け入れられてはじめている。こうした誰もが使い勝手の良い合意形成の手法が普及し、対話の文化ができていくことで日本の紛争解決と合意形成に役に立つ土壌ができつつあることを歓迎したい。

一方、気になることも出始めている。こうした対話集会を主催する方々が対話手法つまりテクニックに焦点が行き過ぎて、これらの手法での対話経験をさせること自体を主な目的と考えたり、参加者の状態に十分共感ができずに本来の主旨である深いレベルでの相互理解や合意形成には至らないケースが目につくことである。

私自身、たくさんのワークショップや対話の場を創ってきた経験からも、手法は手段であって、目的のための道具と心得ている。道具に使われることなく、上手く使いこなすには人間としての確固たる核を創り、自分と人を観て、場を感じる力をつけるしかない。これは、なにも特別なことではなく、本来日本人が特長としていた志であり、それを基にした人への思いやりや尊重の姿勢(メタスキル)や場の雰囲気を読み、その場に必要な影響を与える対人関係調整スキルであると思う。

結論になるが、人間としての確固たる核を持ち、対人関係調整スキルを身に付けたリーダーが効果的な対話手法を用いて日本型紛争解決モデルを開発・実践すれば、これまでの欧米中心の紛争解決の流れから見ると、パラダイム転換になる要素をもっている。このことは日本人が紛争解決支援に資するだけでなく、日本人の対人関係調整スキルを支援スキルとして昇華させることで欧米世界や他の文化世界での紛争解決に対して多大な貢献をすることが可能であることを意味している。

私自身、社会人教育の実務家として、こうした日本型紛争解決モデルの開発・実践の一助になればとの想いで欧米の組織論に加えて日本人の長所としての場を読む力、共感する力、相手を尊重し関係構築をする能力などを効果的に高め、組織内で実践方法を体系化するプログラムを慶應MCCで開催している。これまでの修了生の方々とは同志として今も頻繁に交流し、組織を学びと研鑽の場として、共に人格を磨き合う「人生道場」のような継続的な関わりを続けさせていただいている。 こうした剣豪のごとき真のリーダーがたくさん生まれる場にいることに無上の喜びを感じながら。

是非、これを読まれた多くの方が日本人としての志を誇りに、国内そして世界のさまざまな紛争解決において活躍されることを願ってやまない。

津村英作(つむら えいさく)
組織心理学博士(Ph.D)
ヒューマンエデュケア代表/ビガーゲーム公認トレーナー
慶應MCCプログラム「協奏チーム・コミュニケーション」講師
ペンシルバニア州立テンプル大学で組織心理学博士課程を修了。グループの発達過程および開発支援の研究で博士号(Ph.D)を取得。
人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)、ウィルソンラーニングワールドワイド、アンダーセンで、人事・教育のコンサルタントおよび研修講師を歴任。並行してキャリアカウンセリングとコーチングを学ぶ。
2002年ヒューマンエデュケアを設立し、個人と組織に対して心理教育的なアプローチからコーチングやワークショップを提供。現在はチーム、組織に変革を起こし、成功へと導く「ビガーゲーム(www.biggergame.jp)」の普及に特に力を入れている。
ビガーゲームジャパン代表、CTIジャパンリーダー、NPO法人ファミリーツリー理事。国際コーチ連盟認定プロコーチ(CPCC、PCC)取得。
文献に「グループ発達検査の日本における妥当性検証」「グループ発達過程の米、スペイン、日本における比較研究」(米国学会誌)がある。

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