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チームの心を一つにする技術「チームワークピラミッドの法則」

2010年07月13日

村田祐造
スマイルワークス株式会社 代表取締役、組織活性化コンサルタント(チームワークエンジニア&ライフスキルトレーナー)

はじめに~成果を上げるチームの「チームの心を一つにする技術」

 南アフリカで熱戦が繰り広げられたサッカーW杯2010。サムライブルー日本代表チームの冒険。日本代表チームは、本大会前のテストマッチではセルビア、韓国、イングランド、コートジボアールに4連敗しました。しかし、彼らは本大会予選リーグでは、カメルーンを破り、オランダに惜敗するもデンマークに勝利して、見事16強に進出しました。その活躍に、私達、日本人は熱狂し、感動しました。

 

我々には、他のチームにない力がある。一つの目標に向かって一つになれる力。サッカーがチームスポーツであることを見事に証明してくれた。すばらしい選手達に感謝したい。(岡田武史サッカー日本代表監督)

 なぜ、私達は彼らの姿に感動したのでしょうか?なぜ、彼らはあんなに私達の心を動かすのでしょうか?結果を出したからでしょうか?違います。彼らの目標はベスト4でした。結果だけではあれほど私達は感動しなかったはずです。
 彼らの勝利に至るまでの「心と組織の在り方」に、私達は共感し、感動したのではないでしょうか?

 スポーツには、心・技・体の三要素が必要不可欠です。カメルーンの選手は、アフリカ選手特有の長い手足とバネと身体能力がありました。オランダもデンマークの選手も190cm台の選手がたくさんいて、大きくて速くて巧い選手ばかりです。
 個の技術と体力の劣勢を、岡田監督の言うように「心を一つにして」心と組織の力で跳ね返した日本代表の姿。その姿に私達ビジネスパーソンは自分達の姿を重ねます。不況にあえぎながら劣勢に負けず心と組織の力を使いみんなで力を合わせて何とか成果を出したい!サムライブルーは私達と同じだ!と共感したのではないでしょうか?少なくとも私はそう感じました。
 心を一つにして組織で勝つ!そこに私達日本のビジネスパーソンが、サッカー日本代表チームの快挙から学ぶべきポイントがたくさんあります。
 本稿では、私なりに彼らの勝利の秘密をひも解いていきたいと思います。サッカー日本代表のように「チームの心を一つにして勝ちたい!成果を出したい!」というビジネスリーダーである皆さんの組織作りの参考して頂ければ幸甚です。

強いチーム作りは「関係の質」作りから始まる

 私は、「組織活性化コンサルタント」という仕事をしています。
 成果を出す組織作りの第一歩は、メンバー間の「関係の質」を向上させ、組織を活性化させる事が不可欠です。
 マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授は、Organizing for Learningという著書の中でReinforcing Engine of Successとして下記のモデルを提唱してします。

ダニエル・キムモデル

 つまり、組織の関係の質が良ければ、よい思考が生まれ、よい行動が生まれ、よい結果が生まれ、さらに関係の質がよくなり、このスパイラルは加速していくとう成功の循環モデルです。組織を成功させるには、関係の質の向上から着手すべきだと指摘しています。
 責任感の強い人、達成意欲の高い人、自分ではいろいろなことができる優秀な人ほど、実は、この組織の成功サイクルを逆に回してしまいます。つまり、失敗のサイクルを回してしまうのです。
 「なんで負けたのだ!なんでこんなこともできないの?ちゃんと行動したのか?ちゃんと考えているのか?なにやっているの?」
 結果が出なかった時、リーダーのこんな発言により、組織の関係の質は悪化していきます。
失敗のサイクルは以下の通りです。

1)結果が出ない
 ↓
2)行動の質の検証
 ↓
3)思考の質の検証
 ↓
4)関係の質の悪化
 ↓
1)結果の質の悪化

サッカー日本代表チームの「関係の質」

 ワールドカップ本大会直前のテストマッチ4連敗とまったく代表チームに結果が出なくてどん底だった時期、岡田監督はどんな手を打っていたでしょうか?
 岡田監督は、ベテランゴールキーパーの川口能活選手をチームに入れて、キャプテンに指名していました。川口選手は、負傷していました。彼は、選手としては残念ですが戦力外だったのです。それにもかかわらず、岡田監督は、経験豊富な川口選手を代表チームの主将に据えたのです。岡田監督が川口主将に期待したのは、チームの関係の質を作るリーダーシップだったのです。本人もそれを自覚していたようです。
 出場できないのに主将なんて選手としてはとても辛かったでしょう。しかし、彼は監督の期待に見事に応えました。W杯直前のインタビューで、主将の抱負として次のように語っています。

 

過去3大会の雰囲気を思い出しながら、どこがいいか悪いかを整理して、チームとして機能する雰囲気をつくっていきたい(川口能活主将)

 川口選手は、W杯直前のスイス合宿中の5月28日には、自ら音頭をとり選手だけのミーティングを開催しました。そのミーティングで選手たちは、お互いの想いを本音で語り合い、ぶつかり合い、チームが一つになっていったそうです。そしてカメルーン戦での勝利がチームに自信を与え、チームの関係の質はさらに高まっていきました。
 「関係の質」を高めるということは、単に「仲良し」になるということではありません。わかりやすくするため、私は以下のように「関係の質」をレベル分けしてみました。

レベル1:お互いの事をよく知っている仲のいい関係=「仲良しチーム」
レベル2:悩みや夢を語り合い、共有・共感できる関係=「仲間チーム」
レベル3:目的達成のために互いの意見(違和感や批判も含めて)を尊重できる関係=「同志チーム」
レベル4:どんな逆境も困難も乗り越えていける一生続く信頼の関係=「強い絆チーム」

 仲良し⇒仲間⇒同志⇒強い絆
 という様に「関係の質」は発展していきます。川口選手の音頭で、選手はそれまでの違和感や不安や思いを語りあい、日本代表チームは「心を一つ」にして「同志チーム」になっていったのでしょう。
 最終的には、日本代表チームは、「絆チーム」になっていました。決勝トーナメントでのウルグアイとの激闘は、延長戦でも決着がつかず、PK戦の末、惜敗してしまいました。PKを外した駒野選手を責める選手は一人もおらず、彼の苦しみと悲しみを分かち合い、共に泣いていました。最後は顔をあげて上を向いて胸を張ろうと励ましていました。その姿に日本中が泣きました。あれが「強い絆チーム」の関係の質です。
 では、このような関係の質をビジネスの現場では、どのように作っていったらいいのでしょうか?

チームワークピラミッドの法則

 組織活性化コンサルタントとして、私はいつもチームワークピラミッドというツールを使って、組織の「関係の質」を作っていきます。リーダーが、このピラミッドの6つの心を意識して行動しているだけで、関係の質が向上し、強いチームができていきます。


 
 チームワークピラミッドは、挑戦の心を5つの心で支えている構造をしています。一番下の土台となるど真ん中の基礎部分には感謝の心があります。その両脇に敬意と傾聴があります。これは、感謝の心を基礎にして、人に敬意を払い、人の話に心を傾けてよく聴けるチームが強くなるのだということを示しています。

感謝と敬意と傾聴が信頼関係の土台

 周囲の人への感謝の気持ちは、敬意と傾聴を生みだします。逆に、自分に敬意を払って大切にしてくれる人、自分の話に心を傾けて聴いてくれる人には感謝が生まれます。これがよいピラミッドの土台、すなわちチームの「関係の質」の基礎を作ります。岡田監督は、記者会見でいつも「まず、すばらしい選手達に感謝したい」と感謝の気持ちを表明していました。このような監督の感謝の心は、記者会見の場だけでなくいろいろな場面で滲み出て、選手のやる気を引き出していったのではないかと私は考えています。
 感謝の気持ちは、自然と挑戦のやる気を育みます。これがピラミッドの縦軸を作ります。土台の感謝と頂点の挑戦は、一枚のコインのように表裏一体となっています。日本で応援してくれているサポーター、産んで育ててくれた両親、今まで指導してくれた師匠、支えてくれた支援者達、共に闘う仲間への感謝は、自然と挑戦というやる気を高めます。挑戦を続けていると感謝したいことが沢山起こります。
  失敗したことすら感謝に変わります。なぜなら、挑戦は続くのですから、失敗とは学ぶべき経験の宝庫です。だから失敗とは感謝すべき存在なのです。負けても感謝、勝っても感謝して上へ上へと挑戦していくのです。
 川口選手が音頭をとったサッカー日本代表のスイス合宿での対話の場は、お互いの存在に敬意を払い、お互いの心を感じながら本音で語った傾聴の場だったのでしょう。

挑戦を支える寛容と配慮の心

 挑戦の心を中段で支えるのが、寛容と配慮の心です。
 寛容とは、失敗に厳しく温かく向き合うことです。起きてしまった失敗という現実にも目を背けず向き合う厳しさが必要です。同時に相手の人格に対しては温かく「次がんばろうぜ、失敗から一緒に学ぼう。前を向いて胸を張ろう。」と励ませるのが寛容です。PKを外した駒野選手を同期の松井選手が寄り添って共に涙して、励ましていました。あれが「強い絆チーム」の寛容の心なのでしょう。
 失敗が許されない組織では、挑戦すること自体が臆病になってしまいます。ですから、「ドンマイ!もう気にするなよ!」と寛容してもらえる組織でないと挑戦は長続きしないのです。
 配慮とは、「おもいやり」の心です。相手の視点、リーダーの視点、お客様の視点、経営者の視点、株主の視点、過去や未来の視点、人類や宇宙の視点などいろいろな視点からの「おもいやり」で自分達の挑戦を見つめることで挑戦の質は上がっていきます。W杯への挑戦の歴史の重みを知る川口能活選手は、まさに配慮のリーダーだったのでしょう。
 仲間への配慮がない組織での個の挑戦は、ひとりよがりの「我がまま」になってしまいます。チームのために挑戦する個(One for All)がいて、その個を全員で支援するチーム(All for One)が配慮のチームです。
 大活躍した本田圭佑選手は、大会終了後、次のように述べています。

 

批判してくれた人達も僕達にとっては大切な存在でした。だから、批判してくれた人達にも僕は感謝したい。(本田圭介選手)

 まさに敬意、傾聴、感謝、寛容、配慮、そして挑戦に溢れた人物の言葉です。敗北を受け入れ、寛容し、挑戦を続けます。批判の声にも敬意を払い、傾聴して、感謝して向き合います。チームワークピラミッドの6つの心は、結果を出す強いリーダーが持っている無意識の心の在り方を示しています。

チームワークピラミッドのできるまで

 私は、元ラグビー選手です。高校からラグビーを始めて、東京大学ラグビー部、三洋電機ラグビーと選手として挑戦し続けました。
 また、幸運なことに、日本代表チームのスタッフとして世界大会を二つ経験しました。一つは、アメリカズカップというヨット界の最高峰の大会です。技術開発チームのエンジニアとして私は世界に挑戦しました。もう一つはラグビーW杯です。三洋電機時代に私がリーダーになって開発したラグビー分析ソフトが日本代表チームに採用され、私はテクニカルコーチとしてW杯に挑戦したのです。
 私の20代の挑戦は、稀に勝って素晴らしい喜びを味わうこともありましたが、圧倒的に負けた事の方が多いです。振り返ると、チームワークピラミッドの6つの心がガタガタになった時は、必ず負ける時でした。
 挑戦の志と目標が高ければ高いほど、高度な配慮と寛容、敬意と傾聴と感謝が求められます。無意識でいるとどんどんチームの関係の質は悪化します。
 未熟な私は感謝すべきことを忘れていました。感謝すべき事に対しても、「当たり前」と思ってしまっていました。支援は、「あって当たり前」「やってくれて当たり前」。そして周囲の人の行動は「できて当たり前」になってしまいました。
 できない相手には「なんでできないの?」と敬意ではなく「軽蔑」を向けてしまいました。話を聴くべき相手には、傾聴ではなく「無視」になってしまいました。
 仲間やチームに配慮すべき時に、私は、自分のことばかり主張して「我がまま」になっていました。仲間の失敗に寛容になるべき時に「狭量」になってしまいました。関係の質が悪くなると、自分の意見をチームに対して発言することができなくなっていました。私の挑戦はいつのまにか「臆病」になっていたのです。
 それを教えてくれたのは子供達でした。私は、ラグビー選手を引退して「タグラグビー」を小学生に教えるコーチになりました。タグラグビーとは、腰にタグという用具をつけて行う安全で楽しい簡易的なラグビーです。タグラグビーを教える中で、話を聴かない子供達、失敗した仲間を責めたてる狭量な子供達、失敗を恐れて挑戦を避ける臆病な子供達に自分の姿を見たのです。
 そして、子供達と向き合ううちに、私は「チームの心を一つにする技術」を学ぶことができました。約100時間の授業で試行錯誤を繰り返すうちに、次の6つのルールを徹底することにしました。すると、子供達が輝き出したのです。子供達は、心を一つにしてみんなで協力してタグラグビーというスポーツに挑戦してくれたのです。

  • 周囲の人を大切にしよう
  • 人の話をきちんと聴こう
  • 勝っても負けてもありがとう
  • 失敗から学んで挑戦しよう
  • 失敗したら自分に厳しく「ごめん」人に温かく「ドンマイ」
  • パスするときは相手の立場で「おもいやり」

 上記の6つのルールを、大人の言葉に要約して図式化したのが、敬意、傾聴、感謝、挑戦、寛容、配慮のチームワークピラミッドです。
 あの時の子供達には心から感謝しています。なぜなら、私は、この6つの心を安全で楽しいタグラグビーで体感して学べる「ラグビー体感型チームワーク研修」というものを開発できたからです。それが私の天職になりました。そして今では、企業研修にも導入しています。
 チームワークピラミッドの6つの心は、小学生にも大人にも大切な心の在り方であり、人間の本質です。しかし、大人の世界では6つの心は「当たり前」になりすぎて、なかなか「わかってはいるけどできてない」のが現状です。それをできるようにするのが私達の仕事です。まずは私達が見本になって、6つの心のチームワークピラミッド・リーダーになっていきましょう。

ライフスキル「生きる力」を磨いていこう

 私は、スポーツが大好きです。大切な「心の在り方」を学び、育むことができるからです。それは、「生きる力」を与えてくれます。スポーツ心理学では、パフォーマンスを引き出す心の技術を「ライフスキル」と呼んでいます。
 スポーツには、心・技・体の三要素が必要不可欠ですが、私達ビジネスパーソンには、本田圭佑選手の豪快な「ゆれて落ちるフリーキック」の技術や、中盤を攻守にわたって走り回る長谷部誠選手の体力は、とても真似できません。
 しかし、スポーツ選手やスポーツチームの監督が成果を出すために努力している心の技術、ライフスキルには、私達にも大いに参考とするべきポイントやヒントがたくさんあります。
 なぜなら、心の状態はパフォーマンスに比例するからです。緊張、不安、焦り、恐怖に包まれているチームは勝てません。結果を出す選手は、いつも自分の心と向き合って準備しています。

シュートが入るかどうかは運。しかし、運を引き寄せるのは、自分達なんでね。次の戦いに向けて、最高の準備をしたいと思います。(本田圭佑選手)

 私達、ビジネスパーソンの準備とは、自分の心を磨き、ライフスキルを獲得することです。本稿でご紹介したチームワークピラミッドの6つの心は、心を磨きライフスキルを獲得する指針です。
 最後に、子供達や大人、お目にかかった全ての人に必ずする挨拶で本稿を締めくくりたいと思います。

 「敬意をこめて感謝!」

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※著書『常勝リーダーだけが知っている!チームの心をひとつにする技術』をもとにした書きおろし。無断転載を禁ずる。

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村田祐造(むらた・ゆうぞう)
  • スマイルワークス(株)代表取締役
  • 企業の組織活性化コンサルタント
  • チームワークエンジニア
  • ライフスキルトレーナー
1975年埼玉県生まれ。東京大学工学部精密機械工学科卒業、同大学院工学系研究科修士課程中退。ヨットレースの最高峰「アメリカズカップ2000」ニッポン・チャレンジ技術開発チームのエンジニア、三洋電機ラグビー部選手、スポーツ分析ソフト『Power Analysis』開発リーダー、ラグビー日本代表テクニカルコーチ(2002~2003年)を経験。独立後は、NECラグビー部、三洋電機バドミントンチーム、早稲田大学ヨット部など、日本一を獲得した強豪スポーツチームのパフォーマンス向上を支援。誰もが楽しめる安全なタグラグビーで、「チームワークピラミッド」の6つの心を体感するラグビー体感型チームワーク研修を開発。研修実績は大企業から中小企業まで多数。著書『常勝リーダーだけが知っている!チームの心をひとつにする技術』、愛称「ムラタぐ」

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