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『サービス哲学』

2003年09月09日

著者:窪山哲雄
出版社:オーエス出版; ISBN:4757301804 ; (2003/07)
本体価格:1,500円; ページ数:247p
http://item.rakuten.co.jp/book/1578028/


著者の窪山氏は、現在、株式会社ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナルの経営者である。ホテル業一筋にニューヨーク・東京と活躍の場を移し、長崎のハウステンボスでは統括責任者として5つのホテル立ち上げをした。その後、現職に就き、98年の北海道拓殖銀行の経営破綻にともなって閉鎖を強いられていたザ・ウィンザーホテル洞爺の2002年再開を成功させた。著者のその経歴からも、タイトルからも、サービスの真髄が垣間見えるのではないかと、本書に対して期待を持った。そしてこの度、MCC定例講演会『夕学五十講』の2003年度後期講師を引き受けていただいた。講演を楽しみにしているスタッフの一人として、またサービスに携わるものとして、勉強させていただきたい思いで本書を手に取ったのが今回ご紹介する経緯である。
主題は、著者の豊富な経験に基づいたサービスに対する「哲学」だ。その哲学で問われているのは、”心”のあり方である。”心”を重視したのは何故か。著者は何度も書いているが、心をともなわない技術先行型では、確かにそつのないサービスを提供できるかもしれないが、それは一流のビジネスパーソンになったような錯覚であり、単なる知識や技術を見せつけるサービスでしかない。お客さまより多くの知識があるのは当然であり、見せつける必要は少しもなく、プロとしてはダメだ。というのは、”心”というのはお客様に対する真摯な思いやりのことであり、技術を習得しても心を学ばずでは、さらに上のレベルのサービスを目指すことはできないからだ。著者はサービスの向上をスパイラルで表現をしている。「心技体」の順番で教育が施されるべきで、先に”技術”があり、後に”心 “が来ることなど絶対にありえないという。
さて、サービス従事者が哲学を持つことの必要性の背景には、バブル崩壊後の企業間競争の激しさ以上に、より洗練された感覚の持ち主としてのお客さまの存在があるという。いままでのように、誰に対しても同じサービスを提供するのでは通用しない。その個性を尊重したサービスの提供が必須だ。だが、サービスは目に見えないので確認がとれにくく、保存がきかない商品で標準化が難しいという特性がある。そして、何よりもサービス従事者が、人に奉仕して喜んでもらうという仕事の素晴らしさを信じ、誇りを持つために、どんな場合でも一貫して揺るがない考えの拠り所を持つことが必要になるという。その拠り所が『サービス哲学』であり、本書では実例とともに語られている。本物のモチベーションを得て行動するためには、技術や知識よりも最初にサービスの心、哲学を理解すべきなのだ。
構成は6章からなる。その哲学の基本は、第1章の「サービスは母性だ!」につまびらかである。それは、どんなときも母が子どもを守る、その母性という愛情であり、そこにはサービスの真髄があるという。第2章「クレームに感謝し、ときに戦う力が人を育てる」においてはクレームへの心構えが伝授される。そして第3章では展開形として「サービスはセクシーであれ!」というタイトルのごとく、お客様の本能を目覚めさせる、セクシーな空間の演出が必要であるという。 “本能が自由になると人は美しくなる”という考えのもと、期待感や驚き・高揚感をお客様に与える”色っぽさ”や”魅力的な”空気がサービスには重要であると説いている。続いて第4章「モノより『夢』を売れ」においては、お客さまが、自分の価値まで上がったように感じられるサービスや、少し背伸びをして”夢 “に手が届いたと感じる商品を売ることが、モノあふれの時代に重要だと説かれる。そして新しいサービスのあり方として、お客さまのステップアップをサポートすることが提案されている。そのためには、お客さまの目線が少し上がったらサービスする側もそれに伴って少し上げていくことが必要であり、個客ととらえていなければ、さらには真摯にサービスを追及していないとできないことだ。
第5章「顧客満足のカギ、それは従業員満足にある」及び第6章「社会貢献としてのサービスの役割」は経営者としての立場で書かれている。そこでは、著者はサービス業の最大の危機として、バブル崩壊後の人材不足を指摘している。それは、組織の牽引役の立場にあり、また、後継に教育を施すべき世代に、サービスに対する哲学が欠落しているという問題である。その状況を憂えた著者は、そのために全寮制のホテル学校「ザ・ウィンザー・ホテルスクール」まで作り、”世界に通じる良質な真のサービススタッフ”の育成に使命をもって取り組んでいる。凄いことだ。著者は、「サービス哲学の共有」を持論とされていることをあとがきに明記しているが、これはその現れであろう。サービス哲学の有無は企業存続にもかかわる大きな課題なのである。
「滞在で何が一番よかったか?」・・・この問いにザ・ウィンザーホテル洞爺のお客さまは、ほとんど”人”と返答されるそうである。リピーターというファンをつくるもの、それはすべて”人”であり、繰り返し著者がいわれていることだが、サービスの魅力は人の魅力そのものだからだ。サービス業の難しさもそこにあり、また楽しさもそこにある。この言葉を味わいながら読了した。この「サービス哲学」は、サービス業にいる人や顧客対応部門だけがもっていれば良いというものではない、誰もが必要なのである。
最期に、宣伝になってしまい、また、東京近郊以外の方には恐縮だが、MCCでは10月28日(火)に窪山哲雄氏の講演を開催する。『サービス哲学』や著者に関心があれば、ぜひ、お越しいただければと思う。
(鳥場久子)

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