KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2011年12月13日

「仕事哲学」「人生哲学」について考える

皆さんは、仕事をしていく上で、または生きていく上で、どのようなことを大切に、毎日を過ごされていますか? きっと皆さんお持ちの「仕事哲学」「人生哲学」。しかし、改めて考えたり、口に出したりする機会は、意外と少ないのではないでしょうか。
私は、新卒で入社した会社がメーカーで、徹底して「現場主義」を叩き込まれたこともあり、今も昔も仕事をする上では「現場主義」を大切にしています。「現場」と言っても様々な現場がありますが、当時、営業部門で販売店統括の仕事をしていた私にとっての現場は「販売の第一線」。社会に出て日が浅く、知識も経験もない自分にできることは限られていたので、現場で問題が発生した時はすぐに出向くというフットワーク、自分ひとりで解決できない問題だったら、現場の様々な人の知恵を借りて解決するという姿勢で「現場主義」を実行してきました。


この現場主義のおかげで、経営者の方の考え方や価値観に触れる機会に多く恵まれました。その中で、今でも印象に強く残っているのは、ある経営者の方が教えてくださった二宮金次郎の「報徳思想」という哲学でした。その方が経営する会社は、従業員満足も顧客満足も常に高く、会社に一歩足を踏み入れた時から他社との雰囲気の違いが実感できるほど温かみのある会社でした。
皆さんは「二宮金次郎」という人物、「報徳思想」という哲学をご存じでしょうか?
少し前に、ある新聞記事で取り上げられたので、ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。東日本大震災で、津波と火災の被害が甚大だった岩手県大槌町の大槌小学校で、「奇跡的に金次郎の像が瓦礫の中に残っていた」という記事。校舎や周辺の建物が壊滅的な被害を受けたにも関わらず、ほぼ無傷で薪を背負って本を持つ金次郎像の姿は、とても前向きで力強く、復興へのシンボルのように感じられ、私は心を打たれました。
私の親が子どもの頃は、多くの小学校にこの金次郎の像があったようですが、今は少なくなり、学校の教科書に登場することもなく、残念ながらその教えに触れる機会はほとんどありません。私自身も、ある経営者の方の話を聞く前までは「働きながら学び、真面目に生きることの大切さを教えてくれる少年」というイメージしか持っていませんでした。しかし、実は、徹底した現場主義の実践哲学を持った実業家、思想家、政治家なのです。
二宮金次郎は1787年(天明7年)神奈川県小田原の裕福な農家生まれ。幼くして両親を失い、伯父のところへ預けられます。学問好きだった彼は一生懸命働く傍ら、暇を見つけては「論語」や「大学」の本を読んで学んでいたそうで、この時の勤勉な少年の姿が像となって、後世に語り継がれていったことは言うまでもありません。しかし、すごいのはここから。小田原藩の家老に奉公に出て、その奉公ぶりが評価され、破綻した藩の財政再建を頼まれることになります。この時、金次郎は弱冠26歳。以来、いくつもの農村地域の復興を見事に成功させ、生涯に関東を中心に600か所余りの村の復興を成功させたと言われています。
その農村復興の活動から生まれたのが、徳をもって徳に報いるという「報徳思想」。この哲学には「勤労」「分度」「推譲」の三本の大きな柱があり、
「勤労」とは文字どおり「一生懸命働くこと」
「分度」とは「身分相応に暮らすこと」
「推譲」とは「自分のためにではなく、世の中のために尽くすこと」
と示されています。
弱冠26歳の若い金次郎は、農村復興を依頼されると、まずは過去の生産高を中心とするデータを集めた上で、村を隅々まで徹底的に歩き、村の現状や農家の生活を自分で調査したそうです。そして、村の人々と一緒になって復興にあたりました。きっと、幾多の困難な局面にも、「勤労」「分度」「推譲」を心のよりどころとして、農村を何とかしたいという強い想いと意志を持っていたからこそ、多くの村の復興を実現できたのでしょう。
今の自分と照らし合わせて考えると、私の「現場主義」という哲学がいかに表面的であったか反省させられます。同時に、本当に大切にしたい哲学が自分にはまだ見つかっていないことにも気付きました。
今回ご紹介した二宮金次郎の「報徳思想」は哲学のひとつの例ですが、私がお世話になった先述の経営者の方だけでなく、伊那食品工業(株)、スルガ銀行、慈恵医大病院など数多くの企業・組織で、心のよりどころとされてきた哲学です。このような哲学を持ったリーダーや経営者と一緒に働くことで、自分自身の人生もより豊かなものになるのではと思います。
ご関心をお持ちくださった方は、三戸岡 道夫著『二宮金次郎の一生』『すべての日本人に 二宮金次郎71の提言』『二宮金次郎から学んだ情熱の経営』(全て栄光出版社)を読んでみてください。きっと、皆さんの「仕事哲学」「人生哲学」の参考にしていただけるものに出会えることと思います。
最後に、慶應MCCでは2月6日から「リーダーのための仕事哲学」を新規開講します。こちらも、皆さんの「仕事哲学」を考える第1歩になれば、嬉しいです。
(石澤夕貴子)
参考資料

               

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