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『うわさのズッコケ株式会社』

2012年07月10日

著者:那須正幹; 出版社:ポプラ社; 発行年月:1988年11月 ; ISBN:978-4591028759; 本体価格:630円
書籍詳細

 久しぶりに実家の自室を整理していたとき、本棚の奥深くで眠っていた1冊の本を見つけ、小学生当時、初めてこの本を読んだ時の懐かしい記憶が蘇ってきました。

『うわさのズッコケ株式会社』。

 あのころ少年少女だった皆さま、大人になり、実際にビジネスの現場で働く今だからこそ、この本をもう一度読んでみませんか?

 「ズッコケ三人組」シリーズは1978年に第1作が発表され、2004年のシリーズ最終巻まで、全50作品にわたる児童書です。累計発行部数はなんと2,100万部。「ハリーポッター」が、最終巻発売時に累計2,300万部!と話題になりましたが、それに負けず劣らずの人気作品であることがうかがえます。

 『うわさのズッコケ株式会社』はシリーズ第13作目。
 釣り客で賑わう港で弁当やジュースを歩き売りすれば商売になるんじゃないか、と考えついた主人公の小学生3人組が、最初は自分たちのお小遣いから、そのうちにクラスの友人たちから出資金を集め、弁当販売の株式会社をつくり、事業を拡大していく…というストーリーです。

 主人公たち3人組-”社長”のハチベエ、”経理部長”のハカセ、”営業部長”のモーちゃんは、ごっご遊びではなく、本当にクラスメイトたちに株券を発行し、株式会社を設立してしまいます。家にある年賀状のプリント機で1枚100円の株券を300枚刷り、放課後の教室でクラスメイトを集めて株主総会を開き、商店街のスーパーで特売品のインタントラーメンを大量に仕入れ・・・と、小学生らしい世界観の中で、彼らは本気で商売をし、額に汗しながら会社を経営していきます。

 起業アイディアを形にするプロセス、資金集め、収支計算、株式発行と配当金、売掛金の回収、売上拡大のための設備投資、既存マーケットの衰退と新規事業への挑戦(釣りシーズンの終わりとともに、当初の弁当販売は立ちゆかなくなり、大量の不良在庫となったインスタントラーメンを売りさばくため、主人公たちは新しい場所で新しいビジネスに挑戦します)など、荒唐無稽な児童書ながら、その中にはビジネスの基本要素が凝縮されています。「資本金」「売上」「利益」といった文中に出てくる大人の世界の言葉にワクワクし、利益を出すために懸命に奔走する主人公たちに感情移入しながら、どんな冒険小説よりも面白い!と夢中で読んだ子供の頃を思い出しました。

 単に株式会社というシステムを学ぶための 「児童向け株式の仕組み入門」ではないところに、この作品の面白さがあるのでしょう。なかなか回収できない売掛金1,280円のために奔走するハチベエ。株主総会で、クラスメイトたちに次々とシビアな質問を浴びせられるハカセ。不良在庫となった300杯のラーメンに追いかけられる悪夢を見てしまうモーちゃん。様々な困難に悩み、行動する主人公たちの姿は、お金を稼ぐことの大変さや、一筋縄ではいかないビジネスの厳しさの一端を伝えています。

 子供だった私も大人になり、慶應MCCという社会人向けの教育機関で働くようになりました。学校でひたすら先生の黒板を板書していたころとは全く違う、大人の”学び”の場です。

 『強い組織をつくるリーダーシップ』の高田朝子先生は、ケースメソッドは修羅場体験の再現だと教えてくださいます。ケースメソッドに絶対解はありません。参加者は、自分をケースの中の登場人物に置き換え、当事者としてケース中の課題を分析し、当事者として意思決定をします。

 高田先生のファシリテートの元、様々な「修羅場」状況に置かれたケース中のリーダーたちの視点で、参加者の皆さまが真剣に考え、議論の中から気づきを得ていくプロセスは非常に興味深く、毎回のセッションが私にとっても学びの多い時間です。

 そして改めて考えてみると、小学生の私にとって『ズッコケ株式会社』は、人生で初めての「ケース」だったのではないかと思います。(フィクションの、しかも児童書ではありますが。)
 当時の私は、ハチベエたちがつくったHOYHOY(ホイホイ)商事株式会社の4人目の社員になったつもりで、300杯のラーメンをどう売るかを真剣に考えました。クラスの友達と「私ならこう…」「僕ならまず…」と、想像の世界で話し合うのが楽しく、遊び感覚の中から、教科書には載っていない何かを学んでいたのだと思います。

 この物語はビジネスの大変さを伝えると同時に、お金ではない、働くことで得られる充実感、喜びも教えてくれます。かつて何気なく読んでいたこれらの台詞たちには、仕事明けに飲むビールの、ほろ苦い美味しさが理解できるようになった今だからこそ、感じるものがあります。

午後二時半、380円のおにぎりべんとうは、きれいさっぱりなくなってしまったし、クーラーボックスのなかも、とけた氷水だけになった。
「やったな。」
ハチベエが、会心のVサインをしてみせる。
「ぼく、おなかぺこぺこ・・・・・・。でも良かったねえ。みんな売れちゃって。」
モーちゃんが、おなかをさすりながらいえば、ハカセも、
「まずは、順調なすべりだしじゃないの。けっこう重労働だったけどね。」
と、めがねの顔をほころばせた。

三時前、ついにさいごのラーメンが売れた。ハチベエが、ほいほい亭ののれんをおろす。
「やったね。社長さん。」信彦が、ハチベエに握手をもとめた。
「みんなのおかげさ。」きょうのハチベエは、えらくけんきょだ。

なんだか、すかっとした気分だった。自分のふところに、いくらはいるかなんてことは、もう、どうでもいいような気がした。それよりなにより、とにかく、株主連中に、わが経営の才能をみとめさせたことのほうが、よほど気持ちよかった。
「なあモーちゃん。おれ、もしかしたら、ほんものの社長になれるかもなぁ。」

 大人になった私たちは、ビジネスに必要な多くの要素を、自分の力で手に入れることができます。
足りない物は、買えばいい。
買うお金がなければ、稼げばいい。
稼ぐ知識がなければ、学べばいい。
学びを活かせるだけの経験がなければ、積めばいい。
それでも足りなければ、出来る人の力を借りればいい。
 多くを手に入れられる自由がありながら、私たちはつい「現実的じゃない」「この状況では無理だ」と理由をつけて、行動を起こすことを止めてしまいます。ハチベエたちは、ためらいません。思いついたら即、アクションを起こします。

父さんや母さんに融資をことわられたのはショックだったが、これでポシャるようなハチベエではなかった。よく日学校に到着すると、さっそくクラスの友人に声をかけて、事業資金の借り入れをもうしこんだのである。
「とにかくすごい人手なんだよな。千人、いいや二千人はいるんじゃないかなぁ。あれだけの人数がいれば、ぜったい売れると思うぜ。」(中略)
こんな調子でしつこくたのみこんだ結果、なんとかその日の放課後までに6,000円の融資をうけられることになった。ハチベエの情熱には、ハカセもモーちゃんも、すこしばかりおどろいてしまった。

今の私たちがハチベエたちに学ぶべき事、それは、思い描いたことを形にする、行動力なのかもしれません。ビジネスの世界に憧れ、ワクワクしていたあの頃の純粋さを思い出したくなった時、チャンスに向かう元気を取り戻したい時に何度でも読み返したくなる一冊です。

(鳥越久未)

うわさのズッコケ株式会社』 那須正幹(ポプラ社)

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