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『入門 組織開発-活き活きと働ける職場をつくる-』

2015年06月09日

入門 組織開発-活き活きと働ける職場をつくる-

中村和彦; 出版社:光文社; 発行年月:2015年5月; ISBN:978-4334038588; 本体価格:799円

鎌倉に一風変わった投信委託会社があるのをご存知でしょうか。
「鎌倉投信株式会社」。敢えて、金融の中心地である東京から離れた鎌倉で、築80年の日本家屋を本社にする、従業員数名の小さな会社です。

短期的な株式の運用益よりも、これから社会にほんとうに必要とされる会社であるかどうかを基準に投資先の選定をしている投資委託会社で、これまでにない独自の投資哲学が多くの投資家の共感を呼び、注目を浴びています。

同社は、投資先を選定する際に、会社情報や経営者の考えに加えて、“従業員の生の声”を重視しているそうです。上司や管理部門スタッフには一旦席をはずしてもらい、気兼ねなく話してもらう場をつくり、社員数名(特に若年層の一般社員)から直接、話を聞く。現場で働く人々が会社にコミットし、夢を持って働けているかを確認するのだそうです。

「会社は、結局は人。だから、そこで働いている人がどんな想いで働いているかを聞くことはとても重要なことだと考えています。働いている人が活き活きしている会社、従業員が組織にコミットしている会社は、例え窮地に立たされた時でも、その状況から逃げることなく、乗り越える力を持っているものです。」と、ファンドマネジャーを務める新井和宏氏はインタビューで語っています。

なぜ、投資委託会社がそこまで、踏み込んで、組織を見るようになったのでしょうか。
鎌倉投信独特の想いも多分にあると思いますが、背景には、さまざまな業界において、“働いている人が活き活きしている会社”、“従業員が組織にコミットしている会社”が以前よりも減っており、且つ、それらこそ企業の持続的成長を考える上で重要になってきた、という現実がありそうです。

理由はさまざま考えられます。
IT化による個業化で、隣の席の業務状況すら把握できなくなり、周囲に容易に相談できなくなった。雇用形態や仕事観の多様化により均質の働きかけだけでは従業員それぞれの胸の内を探れず、組織としての一体感を醸成するのが困難になった。など。
そして多くの企業が、そうした問題状況の打開に向けて模索しています。

そんな中、数年前より注目を集めているのが、「組織開発」の取り組みです。
組織の見えないところにこそ目を向けて、必要な手立てを打ち、本来あるべき、組織の健全性や効果性、そして自己革新力を取り戻そうというものです。

この度、日本における組織開発研究の第一人者である中村先生が入門書を出されたとのことで、早速、手にとってみました。

入門とあるとおり初学者でもわかるよう、組織開発が必要とされる背景から、組織開発そのものの考え方やその具体的な進め方、さらには実践における鍵までも、コンパクトながら知りたいと思う部分が凝縮されています。

この中で特に強調されているのが、組織開発の根底に流れる思想の部分です。ともすると、組織開発とはどういうもので、どんなステップで、どの手法を用いれば、結果に繋がるのだろうと考えがちですが、中村先生曰く、大事なことは「何をするか(doing)」よりも、「あり方(Being)」です。組織開発が“価値観ベースの実践”と言われるゆえんです。

この点については、組織開発が大切にする4つの価値観そのものの解説と共に、育まれてきた歴史や、他の変革アプローチとの比較を通じて、丁寧に解説がされています。
では、なぜ価値観がそれほどまでに大切なのでしょうか。

その答えは、組織開発が「組織のプロセスに気づき、よくしていく取り組み」であるとの定義から紐解けそうです。

ここで言う「プロセス」とは組織開発独特の言葉で、話題・課題・仕事の内容など目につきやすい側面を指す「コンテント」に対比して使われています。氷山の水面下のごとく、その存在は大きくとても重要であるにも関わらず、なかなか目に触れない部分で、具体的には今、メンバーの中で起こっている気持ちやメンバー間でどんなコミュニケーションが取られているか、お互いの間にどんな影響があるのかなど、人と人との間で起こっていることを指します。

組織開発では「プロセス」に適切に働きかけることが大切になりますが、その時重要になるのは、目の前のものの捉え方や、その先にある想い(どんな組織を築きたいか)であると考えています。グループや組織の中で起こっている「プロセス」をどのように見ているか、どんな価値観を持って目の前の「プロセス」に働きかけようとしているか。組織開発に取り組む人々自身のあり方によって変わるため、価値観こそ重要と考えているのです。

本著では他にも、図解を用いて組織開発の全体像を視覚的に理解できるよう工夫されていますし、1970年代に日本で一時的にブームになった組織開発がなぜ下火になった(ように見えたのか)のか、その背景も解説してくれています。組織開発の働きかけのレベル、具体的アプローチ方法など、いろはの部分についてもざっと解説が加えられており、組織開発をこれから学びたいと言う方には、特にお勧めの一冊です。

また、どんな背景から何をどこまで解説し、解説しきれないものは他書籍に譲るのか、その場合の参考文献はどれにあたるべきか、文中で丁寧に紹介してくれるところには、中村先生の読者に対するきめ細かな心配りも感じます。

働く人々に活気がなくなっている、組織としての一体感が薄れているなど、自社の組織のあり方、目には見えない人間的側面に問題を感じている方から、社員が幸せだと感じる瞬間が少しでも増える組織にしたいと考える方まで、是非この書籍を手に、正しい「組織開発」の考え方を自社に取り入れることを検討してみてはいかがでしょうか。

 
(鈴木ユリ)

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